第二部 第六章 無力の果て
第1話 混乱の新戦組
新戦組のMASTER情報拠点襲撃から五日が経過したが、彼らが作った妨害プログラムの解除に苦慮していた。この日も薫は情報管理室へ向かい、解析担当をしている女性に確認を取っていた。
「どう? セキュリティの突破と妨害プログラムの除去にはまだ時間が掛かるかしら?」
「六割は何とかなりましたが、完全な排除には、後五日は掛かると思われます」
「セキュリティの方は?」
「あと一日あれば大丈夫です」
「分かったわ。報告ありがとう。引き続きお願いね」
そう言って薫は情報管理室を後にした。すると、その前を通りかかった紀子と鉢合わせになった。
「紀子先生」
そう言って会釈した薫に、紀子はそれに微笑みながら話を話題を振った。
「例のアレの確認?」
「ええ」
「どうなの?」
「解析と妨害プログラムの除去には、更に五日掛かるらしいです」
「随分と時間が掛かるのね」
紀子は困ったような表情で頬に手をやった。
「大師討ちの情報収集はこちら以上ですが、解析においてはこちらに一日の長があるので、向こうに頼むとより時間が掛かりますし……」
「結構手こずってるのね。今までこんなことなかったのに」
「ですが、あれだけの規模の拠点を持っている以上、管理は徹底してるのでしょう。まあ、元のセキュリティは今まで通りです。心配すべきはデータがどこまで無事か、です」
「そうね。後は彼らの頑張り次第よ」
「……ええ」
真剣な紀子に言葉を返す薫。すると日ごろから気になっていたことを思い出したような表情になり、紀子に尋ねた。
「沖田君の方はどうなってるのですか?」
「皆の協力もあって、もう闘気をあの時の二割まで出せるようになってるわ」
「あの時……沖田総一の時と比較してってことですか?」
「あくまで本人の感覚だけどね。それでも結構早いペースよ」
「つまり、闘気が再び表に出るようになるペースが速くなったんですかね。それも陰と陽の闘気の秘密なのかしら……?」
「それもあると思うけど、あの子自身の努力あってこそだと思うわ」
微笑むたびに、腰まで伸びた紀子の長く美しい髪が揺れる。
「そうですね。最低でも四割近くという彼の放出限界まで戻ればいいんですが……」
「大丈夫よ。信じて待ちましょう」
「ええ。そうですね。私も信じます」
薫は微笑みながら紀子に答えた。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
闘気を出せるようになってから五日。この時点で闘気出力限界の二割まで出せるようになった総次だが、これまで通りの闘気運用が出来るかどうかの確認も急務だった。この日も時間の空いている花咲姉妹と真に頼み、稽古を付けてもらっていた。
「総ちゃん。本当に大丈夫なの?」
「もう一度やってみます」
心配する夏美に気丈に振る舞う総次。彼が行っているのは、陰の闘気と陽の闘気の融合である。以前から行っていて失敗続きだったが、闘気が戻った為に再開していたのである。
「……行きます」
刀に陽の闘気を、小太刀に陰の闘気を纏わせて交差させて近づける総次。すると二つの闘気の交差点を起点に、四方八方に二つの闘気が拡散する。
「ぐっ……‼」
二つの闘気量の均衡を保つ為に、総次が苦しそうな声を漏らした途端、拡散する闘気の形が歪になり始め、そして弾けた。
「ぐあっ‼」
その直後、総次の身体は吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫っ⁉」
心配になって慌てて駆け付ける夏美に、総次は抱きかかえられた。
「まだ融合は無理そうです。やろうとすれば磁石の反発のように結びつかない。やはり研究における能力の差が原因なのかな……?」
総次の中では、水瀬名誉教授の「僅かに沖田総一に届かない」という言葉が気になっていた。もしそれが原因であれば、自分はいつまでも同じレベルの力を得ることが出来ず、翼に勝てないのではないかという不安があったからだ。
「ここまで早く闘気を使えるようになったんだ。誇るべきだと思うよ」
冬実と共に訓練場の隅のベンチに腰かけて観戦していた真が感嘆の声を漏らした。
「そのせいで第一遊撃部隊に出撃の機会を与えられなってしまいました……」
それを一番理解しているからこそ、総次も立ち上がりながら申し訳なさそうに謝罪する。
「元々僕達は、新戦組の切り札。むざむざやられたら目も当てられない。それにもう君と幸村翼の因縁は、他人事ではない」
「僕と翼の因縁……」
真の指摘に神妙な面持ちになる総次。
「アリーナの蒼炎での幸村翼の新大師襲名。そして君の武勇。これらはもう無視できないものになってる。連中は君の排除に躍起になるだろうね」
「翼が僕を何としても討とうとする、ということですね」
「だからこそ、力を取り戻したいと思ったんでしょ?」
「……ええ。もう、罪のない人が命を落とさないように」
真の問いかけに素直に答えた総次。真も夏美も冬美も、そんな総次の前向きな姿勢に微笑みを向けた。
「だから、僅かな時間で君が闘気を取り戻してきたのは、正直僕達も安心してる」
先程までの真剣な表情を和らげて微笑みながら手を置く真。
「こうやって闘気を使いながらの戦いは久しぶりです。まだ出力も一度に出せる量も少ないですが……」
「うん。闘気を短期間でここまで取り戻すのは凄いと思うし……」
真と同様に、冬実も総次の急激な闘気の回復に驚きを隠せないでいた。
「皆さんのお陰です。貴重な時間を割いていただき、本当にありがとうございます」
深々と三名にお辞儀をした総次。
「少し休憩にしようか」
真は総次達にそう促しながら近くのベンチに腰かけ、総次達もその横に一列に座った。
「そう言えば、データバンクの件、もう少しで何とかなりそうなんですよね」
すると冬美は、新戦組のデータバンクの件を思い出したかのように話し出した。
「情報管理室の隊員達の不断の努力のお陰だよ。でも一層、情報管理には慎重にならなきゃいけなくなったよ」
「それだけ、敵のハッキング能力が凄いってことですか?」
夏美は手にしたスポーツドリンクを一口飲みながら真に尋ねる。
「そうだね。情報は保護が難しい類だから、セキュリティは常に最新のものに更新し続けなければならない。彼らもその辺りをよく理解してる」
「つまり、その隙をこちらに一切与えない彼らのハッキング能力が群を抜いているということですね……」
敵の脅威を改めて認識して神妙な面持ちになる総次。それを真も理解し、だからこそ注意を促した。
「うん。そしてこれからも、この状況が続くだろうね」
「イタチごっこmですか?」
「いや、MASTERが一歩も二歩も先を行ってる。渡真利警視長が大師討ちのリーダーになってから、この手の技術に卓越したメンバーを集めて差がある程度縮まったけど、完全に埋められていない」
真の表情は非常に真剣だった。直接情報に関わっている訳ではないが、この七年近くの情報管理室のメンバーの苦労をよく知っているからこそ、それを思って自然と真剣な表情になる。
「とにかく、後は情報管理室のメンバーに任せるとして、僕達は今出来ることをしないとね」
「「はいっ!」」
真の言葉に元気良く応える花咲姉妹。
「では、今出来ることを早く出来るようにならねばなりませんね。僕も」
一方で総次は自分の力を取り戻さなければという決意をより強くした。
「まあ、君なら大丈夫だよ。焦らず、確実に進めばいい」
「そうよ。総次君ならできる」
「だから、一緒にがんばろうね、総ちゃん!」
真達の激励を受け、真剣な表情で総次は頷いた。
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