第5話 作戦開始

 翌日の午前十時、昨日の段階で近隣のMASTER拠点に到着して仮眠を取った慶介と将也は、三時間前に起床して一通りの準備を済ませ、作戦の最終確認の為に拠点の中枢部に当たる司令室に到着していた。


「敵拠点の詳細を把握する為にも、確認は入念に行わないとな。昨日の時点で、例の拠点の詳細な情報が入ってきてるか?」


 そう言いながら慶介は上着のポケットのジッパーを開けて無線を取り出して装着した。


「全くだね。あっ、そろそろ来るよ、慶介」


 そう言って将也は慶介を促し、前方のドアから入ってくる人物に挨拶をした。その人物こそ、MASTERで新設された独立組織のリーダーである服部祐美であった。


「赤狼から出向中の新村慶介さん、冠城将也さん。昨日は夜遅くの来訪、ありがとうございます」


 そう言って祐美は二人に礼儀正しくお辞儀をした。

「そんな形式ぶった挨拶は結構だよ。こっちこそ初めましてだな。地獄(ヘル)の女神(ゴッデス)」

 慶介は祐美の挨拶に対してそう切り返した。


「でもびっくりしたよ。新見さんが指名した人材が服部さんだったなんて」

「新大師様の宣戦布告から暇を持て余していて、それを新見師団長に尋ねたんです。今の自分にできることはないかと」

「狭山さんじゃなかったんだな」

「狭山師団長にも訪ねようと思ったのですが、組織に置いての影響力が強いのは新見師団長なので、そちらの方にお願いしたんです」

「それで俺達の任務に参加ってことか」

「私の任務には、潜入の類もありました。なので、その力を頼ってということでしょう」

「そっか。確か本部の組織改編で新しい配属先が決まらなかったのが防衛戦が得意な人達だったね」

「それで、第一師団預かりだったあんたを中心に、独立部隊に編成したんだよな」

「仰る通りです」

「なるほどね」


 そこまで聞いて将也は納得したような態度でつぶやいた。


「では、これからあなた達赤狼の二部隊の配置について説明します」

「そうだな。頼むぜ」


 そう言って祐美は彼らにプリントを手渡し、前もって拠点司令室の構成員が入力した戦力配置図を見せた。


「ここからは四方から攻め込めますが、いずれにしても敵の守りは固いでしょう」

「真正面から潰すのは難しいってことか」


 慶介は資料を見ながら言った。


「人が通れる大きさの道は四つですが、並の人間では通れない場所があります」

「無論、只で通れるとは言えませんから、気づかれないように陽動を仕掛ける必要がありますが」

「その道を通るのは、私が行います」


 そこで祐美が名乗り出た。


「じゃあ、正面から叩きに行くのは俺達ってことになるな」

自信満々な表情で慶介は語った。


「では、布陣は固まりましたね。陽動の際には、本気で挑まなければ恐らく気づかれるでしょう。この道は確かに細道ではありますが、手を抜いた戦い方を続けていれば、正面突破を図るだけではないと気付かれます。この状況下では必死で戦うことでこそ、その隙を生み出すことが出来ます」

「裏を返せば、その隙意外に突破口はほぼないってことか?」

「仰る通りです」

「情報管理もさることながら、この支部を制圧するとなると、連中にとっても簡単にはいかなくなる」

「ですがこれによって敵を分散することが出来ます。その隙を付ければ、情報を手に入れられるでしょう」


 そう言いながら祐美は資料の次をページをめくった。


「じゃあ、そろそろ準備をするか。お前ら、絶対に勝ってやるぜぇ‼」

「「「「「オオオオオオ‼」」」」」


 慶介の号令の下、同志達は威勢よく応えた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「んじゃ、そろそろ行くとするか。助六、鋭子」

「うむ」

「急ぎましょう」


 慶介達が行動を始めたのと同時刻、一番隊組長の鳴沢佐助は、二番隊組長の剛野助六、そして三番隊組長の霧島鋭子と共に、それぞれが率いる隊員達の最終調整を終え、得物を手にして本部地下の出撃用ゲートに集合していた。


 この日三人が率いる部隊の隊員数は各々百人、つまり本部所属実働部隊の各部隊の全ての隊員が動員されていた。情報管理の重要拠点の一つを守ろうとすれば、当然の編成である。今回の任務には大師討ちからも二百四十人のメンバーが加わり、総勢五百を超える大部隊となる。これらの指揮はその戦力を三分して各部隊の組長が担うことになる。


「哀那ちゃんと清輝も、鋭子のバックアップを頼むぜ」

「ええ」

「俺達に任せて下さいよ」


 そう言って二人は鋭子の近くへ移動した。


「大師討ちメンバーとは、練馬区に到達した段階で合流する予定になっている。そこから先の行動も既に連中は把握済みだから、向こうに到着してからいちいち説明する必要はないとよ」

「確か大師討ちから派遣されるメンバーは、渡真利警視長が推薦した寺院で構成されているのよね?」


 佐助の説明を聞いて鋭子は確認するように尋ねた。


「ああ。大師討ちの中でもやり手の連中を集めて編成したようだ。闘気の使い方も巧くて、まあ足手まといになるような連中じゃないのは確かだから安心しろって渡真利サンも言ってたな」

「問題はやはり敵の編成でごわすな」

「ああ。だが、どんな相手であろうと油断しないことが大事だ」


 佐助はそう言って他の二名に促した。


「その通りでごわす。一瞬の油断に足元を拾われる。連戦連勝におごらず、気を引き締めるでごわすよ」

「「「「「了解!」」」」」


 助六の指示に対し、三百名の隊員達は気を引き締めた表情になって答えた。


「……よし、ではこれより出撃する。お前らも遅れんなよっ!」


 佐助の指示を聞いた隊員達と助六、鋭子はそれぞれの隊の専用バスに乗り込み、清輝と哀那も鋭子が乗ったバスに乗り込んだ。


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