第13話 特訓、特訓、また特訓
同時刻、総次は花咲姉妹、そして佐助と助六と一緒に武術訓練を行っていた。闘気を取り戻すだけでなく、現状の身体能力を高める必要性が出た為に、彼らは闘気を用いて闘気を扱えない状態の総次に相対していた。
特訓開始から一時間が経過し、花咲姉妹と佐助に続いて総次の相手をしていたのは、総次と同様に日本拳法の使い手である助六だった。
「剣術だけでなく、日本拳法をやっているというだけあり、戦い方には隙がない。だがまだ威力が足りないとのことでごわすな?」
「日本拳法の特訓を重ねることで、より一層剣術の腕を上げたいと考えています。闘気を使えるようになるにも……」
総次はそう言いながら構える。総次が助六と特訓を行っているのは、前回の戦闘を鑑みて、刀を弾き飛ばされた時のインファイト能力の不足を補うと言う目的があった。そこで総次以上に日本拳法を極めた助六にその極意を知ることを望んだのだ。
「……では、来るでごわすっ‼」
「はいっ!」
助六の合図を受け、総次は助六との距離三十メートルを、一秒も掛からずに詰めて勢いよく拳を繰り出す。それを見切りつつ、助六は拳を繰り出してそれを受け止めた。
「やはり機動力は見事。だが……」
助六は総次の拳打を受け止めた拳に力を入れ、一気に総次を押し出し、上空へ吹き飛ばした。
「それなら……‼」
総次は空中で態勢を整えて着地し、先程以上の速度で助六の視界から消えた。
「んっ……?」
助六が総次の姿を見失った直後、助六の背後に総次が現れる。
「これで……‼」(尖狼‼)
即座に凄まじい速度で無数の拳を助六の背に打ち込む。
総次が拳によって繰り出した尖狼による33の拳打は確かに助六の背に直撃した。
だが……。
「神速で一気に間合いを詰め、翻弄する。最早機動力は極まっていような」
鋼の如く鍛え上げられた肉体には、総次の拳は届かなかった。そればかりか、助六は微笑みながら総次に振り返って賛辞を投げかけ、総次を戦慄させた。
「……そちらから来ないのであれば、今度はそれがしから行くでごわすっ‼」
宣言するや否や、助六は阿修羅の如き形相で両拳に鋼の闘気を流し込み、振り向きざまに総次目掛け、これまでとは比較にならない速さで攻撃を仕掛ける。
「ふんっ‼」(連砲撃‼)
鋼の闘気を流し込んだ無数の拳が総次目掛けて繰り出された。
寸での所で身を引いて直撃を回避した総次。
しかし、助六が繰り出した拳から、無数の空圧が襲い掛かり、総次を吹き飛ばした。
「ぐっ‼」
体勢を整えられずに着地に失敗し、地面に身体を強く打ち付けた。
「拳が空気を叩いたことによって発生する空気弾によって、ダメージを与えると同時に体勢を崩すとは……」
幾度か連砲撃を見たことがある総次だが、このような特性を見たのは初めて出会った。故に距離を取ってもある程度の影響があると改めて悟ったのである。
「以前、総次殿が一個人の戦闘力の強化を主張したでごわそう? それがしもその意見を受け入れ、更に技に磨いたのでごわす」
「その答えが、今の空気弾……」
総次のその問いかけに助六は無言で首を縦に振った。
「……闘気が使えれば、あの程度の空気弾を叩き潰すことが出来たのに……」
総次は闘気を失ってしまった今の自分の無力さに対して珍しく憤りの感情をを見せた。
「総次殿、今のお主は己の無力さに対しての感情が出ているでごわす。その感情を力にし、この戦いの中で闘気を引き出してみるでごわす」
「無論です……‼」
助六に奮い立たされた総次は、再び助六へ神速で距離を縮め、そのまま互いに猛烈な拳の応酬を展開し始めた。
「総ちゃん、あんなに感情的になるなんて珍しいわ……」
「まあ、あれくらいの気迫がないと、精神的に強くってのは難しいだろうしな。あの二つの闘気が他の闘気以上に精神状態の影響を受けてんのなら、尚のことだ」
二人の戦いを訓練場の端のベンチで観戦していた夏美は、隣に腰を下ろしている佐助の言葉に無言で頷いた。佐助の言っていることは、夏美にもよく分かったからだ。
「でも、助六さんのあの力、あんな風に使えるようになってたなんて……」
「技を磨き上げていた時に出来た副産物だがな。あれのお陰で、距離の離れた相手への牽制になるからな」
「凄い……」
夏美は進化を遂げた助六の力に対して素直に驚いていた。
「これも、あのオチビちゃんが個人の戦闘能力を上げるように提案したからこそだな」
「そうですね……」
そんな会話をしていると、フリールームで彼らの飲み物を買いに行った冬美が、どこか浮かない表情のまま訓練場に入ってきた。
「お帰り、冬美」
「うん、ただいま……」
「どうしたの?」
冬美の表情と態度からやや心配そうな声を出した夏美は、そう声を掛けた。すると冬美はお気に入りのピンクのポシェットからスマホを取り出し、ニュース画面を夏美に見せた。
「……これって……‼」
表示された画面を見た夏美はやや表情を引き攣らせた。そんな夏美の声を聞いた佐助は夏美の近くまで言って冬美のスマホ画面を覗き込んだ。
「文京区役所での爆破テロ、か……」
そうつぶやいた佐助は、特訓を行っている総次と助六に一端の中止を呼びかけ、ベンチまで来るように手で指示した。
「どうなさったのですか?」
「何か、随分と深刻な事態が発生したと見受けられるでごわすが……」
「冬美ちゃん、二人にあれを」
佐助の指示を受けた冬美は、二人に夏美に見せたスマホ画面を見せた。
「まさかこのようなことが起きていたとは……」
助六は先の佐助達と同様に驚きを見せたが、総次の方は些か怪訝な表情をしていた。
「どうしたんだ? オチビちゃん」
「あっ、いえ……」
突然佐助から尋ねられた総次は、些か歯切れが悪かった。
「……総ちゃん、なんか引っかかるの?」
続けて尋ねたのは夏美だったが、総次は怪訝な表情のまま首を横に振り、心配されるようなことはないという意思表示をした。すると新戦組本部の全体放送が薫の声で各所のスピーカーから発せられた。
『新戦組各隊の組長、並びに陽炎、遊撃部隊司令官は大至急局長室へ来るように』
「……我らが局長閣下がお呼びのようだ。皆、早朝訓練はここまでにして、行こうぜ」
「「はいっ!」」
「承知」
佐助の呼びかけに花咲姉妹と助六は堂々と応えたが、総次は無言で頷くのみだった。例のニュースの件に引っ掛かりを覚えていたからだ。だが今はそれを心の奥底に仕舞おうと考え、彼らと共に局長室へ向かった。
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