第12話 異能の力ー混沌と、創造と、破壊とー
「その闘気、まさか……」
「知ってるよな。この闘気はお前のとは違い、正式な研究がなされている。そして、過去の歴史書からこの力の名前もある」
「創破……破界の更に先、己の信念を命尽きるその時まで、一片の澱みもなく貫く意思を宿した者の破界に齎される、究極の力……」
言葉を紡げば紡ぐほど、総次の表情から冷静さが徐々に失われていった。
「創破は覚醒者によってその効果と闘気の色が異なる。俺が目覚めた創破の闘気は赤。己が正義を何があろうと貫かんと決意した者に宿る」
「……そう言うところは変わらずか……」
「これが……俺の正義を貫く力だ……‼」
その直後、翼の刀に赤い闘気が流れ込み、鋼の闘気が真っ赤に輝き始めた。
(闘気の量と密度が常軌を逸している。量だけなら冬美さん以上……)
そこまで来て、総次は翼の言ったあることに着目して質問を投げかけた。
「確かにお前の正義、確固たるものみたいだね」
「当たり前だ。俺は誰もが幸せに暮らせる国を作ると、幼い頃から決めていた‼」
そう言いながら、翼は総次目掛けて走り出し、壮絶な打ち合いに入った。
「知ってるさっ! それがお前、幸村翼だ‼」
そう言いつつ、総次は翼の刀を小太刀で受け止め、刀で心臓目掛けて猛スピードで突きを繰り出した。
「ふんっ‼」(飢狼‼)
だが刀の陽の闘気の輝きは先程よりも失われており、翼は鋼の闘気を纏わせた拳でいとも簡単に総次の刀を叩き落した。
(まだ折られるまで出力が落ちてはいないが……)
更に翼は刀から手を放し、右の拳にも鋼の闘気を纏わせ、そのまま総次の腹に拳打をお見舞いした。
「がはっ‼」
その瞬間、総次は吐血しながら吹き飛ばされ、刀と小太刀も手放してしまった。
「……これでも尚、立ち上がれるか……?」
「当たり、前だ……‼」
倒れながら自分を見上げる総次に、翼は宙に舞う自分の刀をキャッチしつつ、真紅の風の闘気を纏わせ止めを刺す為に走り出した。
「ならば……‼」
「まだまだだ……‼」
そうつぶやいた総次は意地で立ち上がり、近くに落ちていた自分の刀を取って陽の闘気を纏わせて斬撃を受け止めた。
「無駄だ……‼」
だが既に体力を大きく消耗していた総次の闘気出力は大幅に落ち、翼の風の闘気の精度と出力と比較して劣っていた。
「ならば……」
それでも総次は気力で翼に突進し、左拳に陽の闘気を纏わせた。それは先程翼がやったように、彼の刀を弾き飛ばして丸腰にする為だ。尤も、量も出力も翼に大きく劣ってはいた。
「この程度で……‼」
「それでもだ……‼」
既に疲労で言葉が少なくなっていた総次だが、翼へ抗う意地は失われていなかった。
「お前は本当に、変らないな……‼」
翼は再び左手に真紅の鋼の闘気を流し込んで硬質化させ、今度は総次の右胸に目掛けて拳を叩き込もうとした。
「させない……‼」
総次は刀を構えてそれを防いだが、勢いまで殺せずに大きく吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ‼」
「しぶといところも相変わらずだ……」
「何故、大技を使わない?」
「何?」
ふらつきながらも経ちあがった総次の質問に、翼はやや気の抜けた声を漏らした。
「そうすれば、今の僕を葬ることなど容易いはずだろ?」
「……説明せずとも、分かっているだろ?」
「ここで使えば、ビルの中にいる人達を巻きこみかねない……」
「ご名答……‼」
微かに微笑みながらそう答え、翼は刀を構えた。
「……ならば……‼」
そこで総次は、左手に陰の闘気を纏わせ、刀に纏わせていた陽の闘気に近づけた。
「お前……まさか……」
その行動に翼は警戒心を覚えた様子で一瞬、立ち止まった。
「お前をここで、倒す……‼」
総次の手元の二つの闘気は、突風を巻き起こしながらその出力を上げていき、徐々に総次の身体を覆うほど巨大になっていった。
「闘気の融合か……‼」
危機感を覚えた翼は猛スピードで総次を討ち果たさんと斬撃を繰り出そうとした。
「死ぬ……ものかっ‼」
総次がそう叫んだ瞬間、総次を覆っている二つの闘気が凝縮していった。
「最後の力を振り絞るか……‼」
紅蓮に輝く光の闘気の刃を発生させ、勢いよく総次目掛けて飛ばす。
「はぁ‼」
総次が叫んだ瞬間、身体を覆う闘気は狼の顔を象り、そこに触れた闘気の刃はまるで解けるように浄化されてしまった。
「総次……‼」
「ぐ、ぐぬぅ‼」
更に闘気を増大させようとする総次、だが……。
「ぐっ……‼」
一瞬で陰と陽の闘気が消え、同時に総次はまるで糸の切れた傀儡のようにその場にバタッとうつぶせに倒れてしまった。翼は一瞬戸惑いを見せつつ、フードを再び被って警戒心から総次の手前まで近づいて一度立ち止まった。
「……今しか好機はない……」
そうつぶやき、総次に止めを刺す為に切先を総次の首に突き刺そうとした。その時……。
(貫鉄閃‼)
翼が総次の首に刀を突き刺さんとする刹那、風の闘気を纏う矢が彼の頬を掠めた。「新選組モドキの弓使い」こと椎名真が到着し、総次を助けるべく、十八番の貫鉄閃を放ったのだ。
「……タイムアウトか……」
捨て台詞を佩いた翼は、刀に光の闘気を纏わせて地面に向けて振り下ろした。
それによって真の眼前に目を覆う程の眩い真紅の光が発生した。
「しまった……‼」
それに酔って翼は反射的に目をつぶってしまった。そして光が消え去ったことを確認した時、既に翼の姿は跡形もなく消えていた。
「あの闘気は……」
それが翼本人だと知らない真だが、彼の実力の一端に恐れを覚えつつ、総次の意識を確かめた。
「気絶してるか。全く、無理して……」
総次に聞こえるはずのない言葉を口にしながら、翼は総次を抱きかかえた。
「椎名司令官!」
すると事前に真から総次の後を追うように指示されていた一番から五番の第一遊撃部隊の隊員達が、それまで行っていた負傷者の治療を終えて真に合流した
。
「総次君は無事だよ」
「良かった……」
「敵の増援は?」
「第二遊撃部隊の隊員と大師討ちから、増援の気配はありません。新房大臣も無事です」
「ならば陽炎と他の隊員達に本部へ帰還する旨を伝えてくれ。それと総次君のバイクを誰か運んでくれないかい?」
「では私達が」
そう言って第一遊撃部隊員達は、総次のバイクが置かれている駐輪場まで走っていった。
それを確認し、真は総次を抱きかかえてその場を後にした。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
同時刻、アリーナの控室に戻っていた新房は、第一遊撃部隊の隊員達から現状報告を聞こうとしてた。
「奴らは、あのテロリスト共はどうなったのだ?」
「ご安心ください。もうあなたの命が狙われる危険はなくなりました」
「そ、そうか……」
「ですが……」
その瞬間、隊員の一人が険しい表情で新房を見た。
「な、なんだその目は……」
「閣僚としてのあなたは、恐らく無事ではないでしょう……」
そう言いながら別の隊員は腰に下げているポシェットからタブレットを取り出し、ネットニュースの画面を新房に見せた。
「こ、これは……‼」
それを見た瞬間、新房の顔から生気が失せた。その内容は、彼が行ってきた贈賄工作と、これまでに多くの女性と不倫関係にあった事実。更に権力闘争の中で多くの政治家や官僚を自殺に追いやったことが大々的にニュースとして取り上げられていたのだ。
「ど、どう言うことだ……?」
「先程、MSATER大師の放送と同時にメディア各局に流れた情報です」
「こ、こんなものはデタラメだ‼ お前達はテロリストの妄言を信じたのか⁉」
「誤解を招いてしまったようですね。我々は決して彼らの言葉を信じた訳ではありません。ですが真偽はともかく、このような事が公になれば、あなた自身のイメージは致命的なレベルで損なわれれば、閣僚としての未来を全うするのはもう……」
「そ、そんな……‼」
新房は絶望に満ちた表情でその場に崩れ落ちた。
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