第10話 幸村翼の宣戦布告……‼
「翼、アリーナに残っていたスパイから報告だ」
総次が山根を葬ったのと同時刻、アリーナから離れた大通りに停車させている車内で待機している御影が、同乗している翼に報告を始めた。
「山根が死んだか?」
「ああ。今さっき、奴が総次の攻撃によって消滅するのが確認された」
「ならば、次の作戦に出るときだ」
「情報戦略室に、例の映像を流すんだな?」
「そうだ」
「じゃあ、情報戦略室に連絡を入れる。もう一つの作戦の実行報告もな」
「分かった」
翼のその言葉を受けた御影は、早速無線で情報戦略室への連絡を開始した。
「じゃあ俺も、そろそろ出ることにする」
「もうですか?」
「ああ。付近に待機させているスパイの一人に、俺の存在を匂わせる発言をさせる旨を伝えてくれ」
「了解しました!」
「頼むぞ」
そう言いながら翼はその身を黒い服に包み、座席の隅に掛けていた刀を手にして車から降りた。
「……見たか御影。翼の手、震えてたぜ」
慶介はふと、翼の様子を見て気になったことを御影に尋ねた。
「やはり、拒否反応が出てるな。まあ、無理もない。こんな作戦はあいつには……」
「どうする? もしあいつが沖田総次を討ち損ねたら……」
「……討てれば上々、出来なくても現時点で戦略への影響は少ない。まあ、成功率はあいつの精神状態による。俺としては、あいつが無事に戻ってくれればと願うばかりだ」
翼の精神を気に掛けつつも、御影の無事を祈った。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
『済まないね。あの状況では胴体を狙うのが精一杯だった』
「いえ、ありがとうございました。後は民間人の負傷者がいなければいいのですが……」
一撃で敵を仕留められなかったことを詫びる真に、総次は民間人の被害を確認した。
『ここから出も君の様子は分かる。さっきの陰の闘気で総統に体力を消耗したように見えるけど……』
「まあ、コントロールもかなりギリギリだったので、後少しでも体力がなかったら、今頃僕は灰になっていたでしょう」
『不吉なことを言うね』
「……」
すると突然、総次は静かになってしまった。
『総次君?』
無言になってしまった総次に、真は心配そうに声を掛けた。
(まだ力を操り切れてないこの体たらくで、翼を倒すことなど……‼)
内心で総次は、未だに自分の力を操り切れていない己自信に苛立ちを感じ始めていた。
『総次君、総次君!』
「はい!」
『大丈夫かい?』
「ええ。とにかく、被害状況の確認を急ぎましょう」
『そうだね。それと、さっき第一遊撃部隊から通信があった。翔と大師討ちのメンバーの無事が確認出来た』
「そうですか、良かった……」
総次は安堵の声を漏らした。
『まあそれでも、西口に差し向けたメンバーの内、約半数が犠牲になっている』
「そうですか……」
それを聞いて、総次は悲しげな表情を見せた。
『悔やむ気持ちは分かるけど、今は任務に集中することだよ』
「無論です」
拭いきれない不安を抱きつつも、総次は改めて任務へと戻ろうとした。
その直後……。
『た、大変です司令官‼』
第一遊撃部隊の隊員の一人が、慌てた様子で通信を入れて来た。
「どうなさいました?」
『たった今、各局のマスコミから警察に連絡があり、民放各局と公共放送で、MASTERの、赤い狼の仮面を被った男が、新大師就任が放送され始めました!』
「赤い狼の仮面……‼」
その瞬間、総次は唖然とした。
『各局共に全く想定されていない放送です!』
「つまり、電波ジャック……」
哀那は何が起こったのかを瞬時に把握した。
『動画共有サイトでも同時に配信されてるので、ご覧ください‼』』
「……了解しました」
総次の声は震えていた。
『総次君、大丈夫かい?』
「椎名さん……」
今度は真が通信をしてきた。
「僕も部下から話を聞いてる。見てみようよ」
「はい……」
そう言いながら総次はスマホを取り出し、動画サイトに繋いだ。そこには確かに赤い仮面を被った若い声の男こと、幸村翼が大師就任を告げていた。
『私は、MASTERの新大師、幸村翼である。この放送は、国家の腐敗を招いた政府と、その腐敗の抑止を怠った法曹界に対し、特に行うものである』
「まさか、お前が……?」
総次は声だけでなく、身体まで大きく震え始めた。麗美と哀那は震える総次の肩を台て落ち着かせようとした。
『これまで日本に蔓延る腐敗を放置した為に、MASTERの調査だけでも政治家、官僚、大企業経営者による違法行為や不正などが三十万件を優に超すものだと判明している。にもかかわらずそれらを断罪を怠り、国家の腐敗を招いた。そしてそれに連なる多くの犯罪が起こり、悲劇が繰り返された』
ここまでの演説では、翼は淡々とした口調で話していたが、次の発言から徐々に感情が籠って来た。
『警察や検察はこれまで何をしていた‼ 政府は何を議論していた‼。国民に希望を持たせる努力を、腐敗を正す義務を本当に果たしたと言えるのか⁉』
「市民感情を、ダイレクトに伝えてるわね。一定の理解も出来る……」
動画を見ていた哀那は少々困惑気味だったが、言葉通り理解はしているようだった。
「哀那もそう思うの?」
「俺もなんとなく……」
麗美と清輝も同様だった。実際、翼の言っていることは、多くの国民が以前から抱えている感情であり、それをストレートに表現していたので、三人にも理解できる部分があった。
「まったく、こんなとこまで、翼らしい……」
一方で翼を知る総次にとって、震えながらも彼の言葉に対してどこか納得していた。
『それでも尚、お前達に国を思い、行く末を憂う気持ちがあるのなら、最後のチャンスを与えよう。だがその前に、お前達の手助けを行う。国家にとっての無駄を、排除してやろう』
「国家にとっての無駄……?」
アリーナ内のモニター越しに言われた翼の言葉を聞き、総次は首を傾げた。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
「何? 全国の刑務所や拘置所にいる囚人の一部か死んでいるだと?」
大師討ちの本部が設立されている警視庁公安部にて、リーダーの渡真利司は部下から全国各地の刑務所や拘置所から送られた報告書と、それに関連する新大師の放送に愕然としていた。
「総数は現在調査中です」
「死因は何だ?」
渡真利は苛立ちを見せながら部下に詰め寄った。
「そ、それが、全員身体が腐っていまして……」
尋ねられた部下はやや怯えながら答えた。
「腐っていた? 死んでから相当に時間が掛かってたのか?」
「いえ、確認されたのはつい先程らしいです……」
「刑務所と拘置所の職員は無事なのか?」
「ええ。朝食に睡眠薬が混入されていたようで、起床したのもつい一時間前とのことです」
「そんな馬鹿な……」
「ですが、既に鑑識が確認済みです」
「他に分かったことはないかな?」
「一部の刑務官や拘置所職員の行方が分かっていません」
「ではその者達が……」
「既に手配してますが、全国で同時多発的に起こった事態への対処に時間を割くと考えると、逮捕するのは難しいかと……」
「何と言うことだ。刑務所職員の中でテロリスト共の協力者が紛れ込んでいたとは。いや、予め奴らは、部下を各地の刑務所や拘置所に看守として忍び込ませていたのか……?」
「報告ですっ‼」
渡真利が刑務所関連の情報を精査し始めたその直後、別の大師討ちの職員が渡真利に報告書を提出した。それはMASTERによる各地の刑務所において、囚人に対して理不尽な暴力を働いていた刑務官のリストだった。その数は百五十名に上っていた。
「これをMASTERが、あのテロリスト共が……」
「はい、法務省矯正局と警視庁を含む各都道府県警本部に届けられ、これを以てこの国の方に照らして処罰せよと」
その報告を受けた渡真利は更に顔を強張らせ、書類を持つ手を震わせた。
「渡真利警視長……」
「害虫共が。国家に害をばらまいた病原菌が国の腐敗を正すなどと……‼」
憎々しいと言わんばかりの口調で、渡真利は静かにその資料を投げ捨てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます