第8話 再戦

「おい、貴様‼ 要人警護の任務に就いていながら肝心の要人を危険に晒すなど、SPであれば失格だぞ‼」


 その状況で新房は怯えながら総次に対して非難の声を叫ぶ。


「その責任は事態終息後に取ります故、今は身の安全をお考え下さい。生き残った大師討ちは大臣とスポンサーやVIPの避難を急いでください」


 総次は新房の方を振り向いて謝罪しながら、獲物を喰らわんとする狼の如き眼差しで職員達にそう言った。その表情に新房は更に肝を冷やしたかのように怯えていた。職員達は総次の指示に従い、大臣やVIP,スポンサーを伴ってグラウンドを離れようとした。


「逃がすもんかよぉ‼」


 叫びながらハルバードを振るって大臣と出演者達に迫る山根。だがそれを許す総次ではなく、陽の闘気を纏わせた刀を振るって山根に一歩も引かぬ打ち合いを演じた


「前よりやるようになったなぁ‼」

「あなたと遊んでいる時間はありません……」


 総次の強さに喜ぶ山根に、総次は冷徹な声と表情で応えた。その刃も、昨年新宿で彼と相対した時の比にならない非情さを秘めていた。

一方で山根は、強者を前に新房のことを忘れたかのように夢中になってハルバードを振るった。


「殺し甲斐があるなぁ‼ おいっ‼」


 嬉々として総次に連続攻撃攻撃を続ける山根が、蒼炎のハルバードを豪快に振るい、総次の鋭い斬撃をことごとくいなし続けた。総次の斬撃は鋭さだけでなく、以前を凌ぐ力強さもあった。


(前よりも、動きが見える……‼)


 以前戦った記憶が活きているのか、総次は以前対応しきれなかった山根の驚異的な反応速度に拮抗していた。蒼炎の闘気を纏わせた重厚なハルバードを軽々振り回して総次の太刀筋をいなす山根の動きにも、総次は屈することなく刀を振るった。

 だが山根はその力を活かしつつ身体を一定の場所に固定させることがなかった為、遠方から真達が山根を狙撃することが出来ない状態には変わりなかった。


「腕を上げたな。チビがっ‼」


 幾度かの打ち合いの末、山根は歓喜の叫びと共にその場で一歩踏み込み、燃え盛る蒼炎を辺りに撒き散らしながら強烈な横薙ぎを繰り出した。


「軌道が読める……‼」


 総次は即座に飛び上がって回避し、更に身体を軸に回転しながら斬撃を繰り出して山根に迫る。山根は蒼炎を纏わせたハルバードでそれを防いだが、力の増した総次の勢いは、山根を後ろへ引きずるには十分なものがあった。


「力も増したな‼」


 総次の力を素直に称賛する山根。だが総次はその声に耳を貸すことなく刀に纏わせている陽の闘気の出力を上げ、蒼炎のハルバードと拮抗する打ち合いを繰り広げる。

グラウンド全体を掛けめぐる激しい動きと呼応して見る者を驚かせるには十分だったが、真に狙撃の機会を与えない要因でもあった。

総次もその隙を生むために戦っているが、山根の動きと力がそれを容易に成立させなかった。


(力をフルパワーで使えれば、こんな面倒をせずに済むのに……‼)


 打ち合いの中で総次はふとそう考える。だが現在の体力ではフルパワーの四割が限界。

その上無理やり力を出そうとすれば暴発を起こし、心臓破裂で死に至る可能性もある。

普段であればそんなことを考えないのだが、相手が相手なので、自然とそんな感情が愚痴として出てきてしまう。


「もっと俺と遊べよぉ‼」


 そんな総次の本心などいざ知らず、本能に任せてハルバードを振るう山根は、今度は袈裟斬りを繰り出した。

その刹那、総次は納刀しながら身体を右半回転させて攻撃を避け、更に山根の背後を取って居合切りを繰り出した。


(これなら……‼)(狼牙・瞬‼)


 目にも止まらぬ速さで相手の背後に回り込みながら放たれる抜刀術、狼牙・瞬で襲い掛かる総次。だがそれも山根に感知され、ハルバードの柄尻で受け止められ、そのまま力強く押し出されてしまった。


(これで距離は取れた……‼)(尖狼‼)


 だが総次は全く動じることなく、吹き飛ばされながら体勢を整え、そのまま尖狼による三十三の巨大な純白の光線を放った。


「大したもんだぜぇ‼」


 吹き飛ばした動作のまま、山根は三十三の純白の光線に猛烈な勢いで突っ込み、ハルバードを風車のように回転させて次々と光線を斬り裂きながら総次に迫ってきた。


(相変わらずの力技……)


 総次は山根の変わらない戦い方にどこか呆れるような態度を取りつつ、山根の蒼炎のハルバードと純白の闘気で出来た狼の衝突によって出来た爆風と砂塵に紛れて山根を迎え撃った。


「やはり簡単に捉えられないね……」


 そんな両者の打ち合いを西口方面の観客席の後方で山根に悟られないように柱に隠れて弓を構えている真。

こうなることは想定していたが、山根の反応速度と反射神経、そしてここまで休むことなく動き回る体力は、真の予想を上回っていたようだ。


「早く陽炎に来てもらいたいものだ……」


 真の言う通り、今の総次は山根と力負けせず互角に戦うことが出来ても、完全に打ち負かすことは出来ない以上、数の上で優位に立つ為にも陽炎の増援が必要であった。

だがその陽炎は、パニックに戦慄き逃げ惑う観客達の波に飲まれ、グラウンドへの到着が遅れていたのだ。

 もっとも、それは総次もある程度覚悟はしていた。


(おおよそ十分程度なら、僕一人でも戦うことは出来るけど……)


 そう言いながらも総次は蒼炎を纏ったハルバードを壊れたヘリのプロペラの如く振り回す山根の攻撃に対抗していた。


「どうやらお前には、全力を出しても問題ねぇようだなぁ‼」


 すると山根は総次の苛烈な攻撃に、増大した蒼炎とそれを凌ぐほどの猛烈な連続攻撃を繰り出す。その闘気はハルバードを完全に覆い隠しても尚収まらず、全身に蒼炎を纏ったその姿は、見る者に修羅を思わせるものがあった。


「更に力を引きずり出したか……」


 普通の人間であれば、このような圧倒的な力を前にして戦意喪失するだろう。

だが、無数の修羅場を潜り抜けた今の総次にとっては、最早驚く程のものではなかった。

それを表すかのように、総次は冷や汗一つかくことなく冷静に山根の繰り出してくる強烈で重量のある攻撃をいなし続けた。


「いいぞぉ、いい力だぁ‼」

「うるさいですね……‼」


 嬉々として戦い続ける山根とは対照的に、総次はいい加減に鬱陶しくなってきていた。一瞬の隙を見つけ、総次は山根の一撃を刀の峰で受け止め、そのまま彼の力を利用して身体を左へ半回転させながら横薙ぎを繰り出した。


「ふんっ‼」(狼爪‼)


 山根の力を利用し、倍返しの一撃で彼の胸から腹にかけて斬撃をお見舞いした総次。

その一撃に、山根は更に表情を狂喜に歪ませていった。


「こりゃもっと面白くなりそうだ‼ もっと俺を愉しませてくれよぉ!」

「あなたの趣味に付き合っている時間はありません」


 相変わらず淡泊な態度を取る総次だが、山根は負傷を全く感じさせない動きと共に、ハルバードを力強く振るい続けた。

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