第3話 大師討ち新リーダー・渡真利司

「そろそろだな……」


 翌日、警察庁にて渡真利との会談の約束を入れた総次は、五分前に渡真利氏と約束していた警察庁の一室の中で腕時計を確認しながら待っていた。すると間もなく部屋のドアが開く音が轟き、そこから体格の良い五十代の中年男性が入ってきた。


「このような形で君と会うのは初めてだね。沖田総次君」

「おはようございます。渡真利警視長」


 中年男性こと、警視庁公安部参事官の警視長・渡真利司とまりつかさが入室したのと同時に席を立った総次は、目の前にある長机の前に被っていた漆黒の帽子を置いて会釈をした。


「前から会いたかったよ。君の活躍は上原警備局長から聞いてるよ」

「与えられた職務をこなしているだけです」


 総次は恐縮した様子でそう返した。


「だがそれでも、君がこの四カ月で六十以上の戦闘任務に参加してることは事実だ。去年の永田町と霞が関へのMASTER襲撃の時も活躍していたという記録も残っている」

「はぁ……」

「どうしたのかね?」


 急に暗い表情になった総次を不思議そうな表情で見る渡真利。そんな彼に対して総次はこう話を始めた。


「僕の力を評価して下さっているのは光栄の至りですが、何故そこまで評価されるのかについて、少々お尋ねしたいのですが……」

「気になるのかね?」

「僕はあくまで新戦組の隊員の一人に過ぎません、確かに今は第一遊撃部隊の司令官という役職にありますが、僕一人の力はたかが知れているはずです」

「ほぉ……」


 渡真利は感心した様子で声を漏らした。


「それに、僕は戦いの中でとは言え、多くの敵を殺してきました。去年のあの時から考えても、既に四桁は超えているでしょう。そんな大量虐殺者相手に良くやっているというのが、どこか違和感を抱いてしまいまして……」

「別に君は殺人者ではない」

「はい?」


 総次ははっとしたような顔をした。


「テロリスト共は言うなればがん細胞だ。だから君が人殺しと自分を卑下にする必要はない。寧ろ私としては、今後もより一層、MASTERと名乗るがん細胞を退治する為にも、君の力に期待をしているよ」

「はぁ……」


 静かにそう訴えた渡真利のやる気に、総次は気押されしてしまった。


「君は去年、沖田総一が起こした東京襲撃を前後して、究極の力を手にしたと聞いている。それだけ強大な力さえあれば、MASTERに致命的な損失を与えることも不可能ではないだろう」

「過大評価です。それに、幸村翼を忘れてはいけません。彼は優れたカリスマ性と統率力を持っている上に、剣術と闘気の扱いに僕以上に長けています。油断ならない構成員がまだ生きてることがウチで確認されている以上、油断すれば足元を掬われるのは明白です」

「戦いは数なのだよ。MASTERは現状二万人いるかいないかだ。我々警察と新戦組の隊員の数を合わせれば、戦力はこちら側が圧倒的に優位だ」

「ですが……」


 総次は渡真利の異様に強い押しに戸惑い始めていた。それを察したのか、渡真利は咳払いを一つしてそれまでの強い口調を改めた。


「まあ、その件はすぐに答えが出る物でもない。君の言うように、ここへきて我々が油断をすれば、それこそ去年の二度の襲撃を繰り返すことになりかねんからな」

「……そう思っていただければ、新戦組の一人として安心します」


 総次は安堵のため息をつきながら言った。


「第一遊撃部隊の方はどうかね?」

「問題ありません。去年の時と違って、僕を一番隊組長として彼らが認めてくれたので、部隊としての統率に支障をきたすようなことはありません」

「そうか……」


 どこかほっとしたようにつぶやきながら、渡真利はコーヒーを一口啜った。


「あの……何か?」

「気にしていると思ったのだよ。新戦組の人事に口を出したことをだ」

「非常に気にしています。正直なところ、今もあなたに対して前向きな感情を抱きにくい部分はあります」


 悪びれもなく答えた総次に、渡真利はどこか面白そうな表情になった。


「悪いとは思ってる。君の部隊からも、当初は急な話と言うことで反感を抱かれたものだ」

「でしょうね」

「だが、事態は刻一刻と変わっていく。それに対応する為には、より臨機応変かつ柔軟に対応できる部隊が必要だったのだよ。警察は去年の二度の襲撃による現場の警察官が数多く戦死した反動で、闘気教導訓練等で組織として使える部隊を編成しづらくてな」

「だから、その編成がし易い新戦組一番隊に白羽の矢を立てたと」

「ああ」

「はぁ……」


 総次は呆れ返るような態度でため息をついた。


「あまり、前向きには思っていないようだが……?」

「僕の力は沖田総一と同じ力、そして僕はその双子の弟。警視庁の人達からすれば、僕の姿と能力は沖田総一の分身。トラウマになっている人は多数いるでしょうに……」

「分かってる。だが反発があったとしても、テロリスト共を殲滅する為には力が必要だったんだよ。その辺りは彼らも理解してくれてる。納得したかどうかは別だがな」

「はぁ……」


 総次は暗い表情のままだった。


「別に我々は君の闘気だけに注目した訳ではない。勿論例の闘気を考慮に入れたのは事実だが、君自身の実力と実績を考えての遊撃部隊への編成だ。現に去年の夏に、大阪のMASTER支部の殲滅で大きな功績を立てたではないか」

「あれは、既に支部としての機能がなく、既に東京に戦いが傾いていたこともあって、相対的に力が衰えていた場所を攻めただけです。僕よりも、その作戦を主導した新戦組大阪支部や、大阪府警の方々の活躍の方が見事でした」

「謙虚だな。だが大阪府警も、君を高く評価してるぞ」

「大阪府警の方々が……それは素直に嬉しいです」


 そう言う総次の声は、険しい表情とは裏腹に穏やかだった。


「それに、これはあくまで私個人の願望だが、君にはこの戦いが終わった後に警察官として働いてもらいたいと思っているよ」

「僕に……ですか?」

「君の能力と実績、そして部隊を纏める統率力と、警察で使えるに足る人材だと考えているのだが」

「有り難いお言葉ですが、その気持ちはありません。一連の戦いが終わったら、僕は改めて大学受験をして、一市民として生きていきたいと考えているのですから」

「分かっている。だが大師討ちのメンバーにそう思っている者がいるのは事実だ」

「大師討ちにですか?」

「うむ。その他にも特に公安部や組織犯罪対策部からもな」

「そうですか……」


 総次は謙虚な声で答えた。


「それで、その大師討ちの方はどうなのですか?」

「どうと言うと?」

「今年から大師討ちや警察も本格的に闘気を導入し、MASTERとの本格的な戦いに備えていると聞いています。新戦組の一員としては、今の錬度が気になりまして」

「そちらの方は、君達の合格点に達していると考えている。まだ実戦では君達の足を引っ張ること部分もあると思うが、これまでとは比較にならないレベルで戦いに貢献しているだろう」

「大師討ちに関してはその点を心配していませんが、他の警察官はまだ及第点とは言えません。無論今後に期待するということですが……」

「どうしたのかね?」

「この一年で、闘気の存在が覚醒した人以外のある程度の大衆にも知れ渡りました。この戦いが終わってからも、闘気を利用した犯罪者が出てきてもおかしくありません。戦後の後始末は相当の年数が掛かると思いまして」

「ある程度覚悟している。現に今も、この混乱に乗じた犯罪は起きている。今回の警察での闘気教練はそれへの対策を兼ねている。君が懸念する必要はないさ」

「でしたら僕の心配は無用ですね。今後もそちら関連は警察にお任せしても問題なさそうで安心しました」


 総次はその一点に関しては心底安心した。


「……さて、私はそろそろ時間だ。今日は君と話せてよかったよ」

「いえ、こちらこそ、貴重なお時間ありがとうございました」


 そう言って両者は席を立って握手した。


「次に会う時は、MASTERとの戦いの時かな。私も今後、現場に出て直接指揮をすることになるだろう」

「では、またその時に」


 そう言って二人の会談は終わった。

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