第5話 厚生労働大臣護衛任務
「おはようございます。鳴沢さん」
「おう。しかしまあ、まだ七時だってのに一人稽古とは、気合入ってるね~」
翌朝、誰も使っていない訓練場で刀を振るっていた総次は、寝起きに顔を洗いに来た帰りの佐助に突然声を掛けられた。どうやら佐助は振り下ろしながらの総次の掛け声が気になったらしく、その声の主が気になって訓練場に入ってきたのだ。
「昨日は相当飲まれたと聞きましたが、大丈夫なんですか?」
「俺はへっちゃらだ。流石にあいつらは駄目だったみてぇだがな……」
「今日が三番隊の隊員達にとっても休みだったのが幸運でしたね。でも酔っ払いが仕事に就くのは……」
懸念するような声でつぶやいた総次に近づいて彼の髪をこねくり回した佐助は、大声でこう咆えた。
「俺はこれでも酒には強ぇんだ! たかだか三時間でビールをジョッキ二十杯程度飲んだくらいじゃあくたばらねぇよ! なんだったら、オチビちゃんが成人したら真っ先に奢ってやるぜ。俺の酒豪ぶりを見せてやるよ」
「結構です。アルコールパッチのテストでお酒に非常に弱いって出ましたので」
「そっか……まあ、いずれにしても楽しみにしとけ~」
そう言いながら佐助は訓練場から出ようとした。酒に酔っている感じは無くとも酒の臭いまでごまかしがきかなかったのだろうか、総次は佐助が訓練場に残したアルコールの臭いに少々立ちくらみを覚えた。
「……少し休もうかな……」
総次はそうつぶやきながら刀を鞘に戻した。その声が聞こえたのか、急に佐助が総次の方を振り向いた。
「おやオチビちゃん? もう終わりなのか?」
「鳴沢さんから漂うアルコールに当たってしまったので、水分補給も兼ねてフリールームに行こうかと……」
「そりゃ悪いことしちまったな~」
佐助はそう言ったが、傍から見ても本心から謝っているようには見えなかった。
ハニカミながらの間延びした声といい、それを見ていた総次は少々呆れたような表情をした。それは総次のこの言葉からも窺い知れる。
「……本気でそう思ってらっしゃるんですか?」
「あ……ばれた?」
「はぁ……もういいでしょう。怒ることでもないですし……」
「そっか。あ、俺もフリールームに行くぜ。丁度喉も乾いてたし……」
そう言いながら総次と佐助は訓練場を後にした。
「でも鳴沢さんって澤村さんからも聞きましたが、本当にお酒に強いんですね」
「まあな。これでも大学時代はビール瓶は一日で一ダースはいけたぜ」
「……鳴沢さんならやりかねないような……」
「オチビちゃんからもそう思われるのは少しうれしいぜ。でも女の方は新戦組に入ってからも連敗記録更新中なんだ……なんでだろ?」
佐助はやや不機嫌そうな表情をしながら質問返しをした。
「僕は色恋沙汰に疎いので何とも……」
振られた話題自体に何ら興味を示すことなく総次は冷たく斬り捨てた。
「まあ、オチビちゃんもいつかは女を知ることになるかも知れないから、俺の失敗談も参考になるかもな」
「機会があれば伺おうかと思います」
「そうかい。まあ、そん時は楽しみにしとけよ」
佐助は陽気な表情と声でそう言った。既につい先ほどまでの不機嫌そうな雰囲気は失せていた。とは言え、元々ナンパに失敗しても立ち直りが早い人間と言うことを総次も聞いてたので、特段不思議でもないことだと総次は感じていた。
そんな会話をしていると、突然薫の声で呼び出し放送が流れ始めた。
『八番隊の澤村修一。三番隊の鳴沢佐助。四番隊の剛野助六。五番隊の霧島鋭子。以下のものは至急局長室に向かうように』
「……って訳だ。俺はいくぜ」
「お疲れさまです、鳴沢さん」
「おうよ」
それを聞いた佐助は、総次に軽く挨拶をして局長室に向かって行った。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
「八番隊組長、澤村修一。只今到着しましたっス」
「三番隊組長、鳴沢佐助。来てやったぜ」
局長室に入った修一と佐助は挨拶しながら入室してきた。先に到着していた助六と鋭子は麗華の机の前で彼らを待っていたようだ。
片や敬礼しながら非常に模範的な挨拶をした総次。片ややる気のない声を出しながら軽く右手を挙げて挨拶した佐助。態度からも人柄がよく分かる光景だ。そのまま佐助と修一は助六達と同じ場所に向かった。
「これで全員揃ったわね。朝早くに呼び出して申し訳ないけど、さっそく説明を始めるわ」
そう言って麗華は机に立ち上げていたノートパソコン画面をに見せた。
「この御仁は……」
助六は画面に映し出された一人の女性の写真をまじまじと見た。どうやら画面に映し出された五十代くらいの女性の顔に心当たりがあるようだ。それは鋭子も同じで「この人はまさか」と言うような驚いた表情をしていた。
「
「今の厚生労働大臣だろ?」
佐助は淡々とした態度で薫の問いかけに答えた。
「その通り。今回の任務はその正木氏の護衛よ」
「護衛? 脅迫でもされたのか?」
佐助は少々驚きながら薫に尋ねた。
「ええ。厚生労働省に昨日、MASTERの構成員と思われる人物からの正木氏への殺害予告場が送り付けられたの。それも今回は実行予定日まで記されていて、それが今日の夜十一時三十分……」
「それで私達にボディーガードを……」
鋭子は凛とした表情でそう言った。
「MASTER関連だから、警備部では心もとないと大師討ちが判断し、私達に依頼が回ってきたの」
「ということは、暗殺者が闘気を使える可能性も考えられるということっスよね?」
修一は麗華に尋ねた。
「闘気の使い手しか考えられないわ。ここ最近のMASTERの動向を考えれば、目的の為に一切手段を選ばないでしょうね。当然任務の確実性や世間に与えるインパクトを含めて考えても、そう言った能力者を優先するのが必然的だわ」
「必然的か……」
二人の会話を横で聞いていた佐助はささやくような声でそう言った。
「説明は以上よ。出発は午前九時。それまでに準備を終えておくように」
薫はそう言って説明を終え、修一達は各々組長室に戻っていった。
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