第二章 赤狼降臨

第1話 恩師との再会

「永田町と霞が関の戦いから一ヶ月半、やはり情報開示の影響は大きいね」

「ネット上での政府や警察へのバッシングの回数は計り知れないものになってるわ。警視庁や各道府県警にも批判の電話が殺到してるって、警備局長も仰ってたわ」


 局長室でそう話していたのは真と麗華だった。永田町・霞が関襲撃以降、政府や警察への国民の不満と不安は更に高まり、全国的な反政府活動が起き始めていた。


「ただでさえ苦しいというのに、この状況は政府や警察にとって非常に忌々しき事態だね」

「でもMASTERも今まで通りの動きがしずらくなったと思うわ。これだけ民衆に存在を知られてしまったんですもの」

「お互いさまってことだね。いずれにしても」


 真がソファでブラックコーヒー片手にそう語るのを、麗華はデスクで資料とにらめっこしながら聞いていた。


「そういえば総次君は? 今朝から姿が見えないけど……」

「あの子なら、今朝がた久里浜へ向かったわ。佐助の運転する車で夏美ちゃんと一緒に」

「久里浜?」

「南ヶ丘学園の教員がフェリーで来られるのよ。総次君が寮に置いてきたままの荷物を受け取りにね」

「フェリーで? そりゃ凄いね」

「なんでも学園の所有らしいわ。本当にお金のある学園ね」

「そっか。四月だから寮にも新入生が入る。となれば総次君が使っていた部屋の荷物が邪魔になっちゃうね。それでわざわざ先生が?」


 真は正面の壁に掛けられているカレンダーを見ながら麗華に尋ねた。


「ええ。総次君、結局卒業式に出られなかったでしょ? それで先生が直接卒業証書を持ってくることになったのよ」

「なるほどね……」


 そう言いながら真は再びブラックコーヒーを啜った。


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 神奈川県横須賀市の久里浜、東京湾フェリー久里浜港のりば。総次は朝六時に本部を出て、夏美と共に佐助の運転する新戦組所有の車に乗り、南ヶ丘学園から荷物を持ってきてくれる先生を待っていた。


「確か十時だったよね。その先生が来るの」

「ええ、ですからもうすぐですね……」


 スマホの時計で時間を確認していた総次に、夏美が話しかけた。時刻は九時五十八分を指している。そんな二人の隣に並び、佐助は所在なさげに無糖ガムを噛んでいた。


「なぁ総次、その南ヶ丘学園の先生って、どういう人なんだ?」

「僕に混沌の闘気の扱い方を教えてくださった方なんです。普段は高校の体育教師で剣道部の顧問をしてる方で、僕のクラスで担任だった先生でもあるんです」


 佐助に尋ねられた総次は、スマートフォンを腰のポシェットに入れながら答えた。


「それじゃ、前に言ってた総ちゃんの師匠ってこと?」

「そうですね。闘気の扱いだけじゃなくて、剣術の実力も確かなので、その部分でも学ぶことは多かったです」


 興味を持った夏美の質問に対して、総次は静かに話し、それを聞いた佐助は急に自分の身なりを気にしだした。


「師匠ってことは、結構厳かな人なんだろうな。自分で言うのもあれだけど、俺結構チャラチャラしてっから、なんか失礼かな……」


 確かに佐助の身なりは金髪にピアス。首元には金のネックレスと、新戦組の羽織を羽織ってなければ都会のチャラチャラしたギャル男と思われるような格好だ。


「確かに立派な人ですが、厳かという感じはないですから、ラフでも大丈夫ですよ」


 総次が佐助をフォローするように言った。すると見慣れない豪奢なフェリーが久里浜港へ汽笛を鳴らしながら到着した。


「あれです。あれに先生が乗っています」

「ドンピシャだったな」

「到着したのね。どんな人なのかな? 何かドキドキする……」


 佐助と時間を確認し、夏美は急に緊張しだした。


「夏美さん、別に緊張しなくてもいいですよ。本当にラフな方ですから。さっ、行きましょう」


 そう言いて総次達は、到着した南ヶ丘学園の教師を迎える為に乗り場へと向かった。



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 総次達が乗り場のたーみなりの中へ行くと、彼らの姿を見つけた黒髪をポニーテールにしたスタイルの良い女性がこちらへと駆け寄って来た。


「おう総次。元気してたみたいだね!」

「その節はご心配おかけしました、美原先生」

「いいってことよ。事情は麗華って子から聞いたわ……」

「そうですか……」


 するとそこで美原は、肩から下げているバッグから総次の卒業証書を取り出した。


「変な形になっちゃったけど、卒業おめでとう」

「ありがとう、ございます……」


 正直、総次としては喜べる状況でなかったが、彼女が善意で持ってきてくれたことも分かっているので、恐縮な姿勢で受け取った。


「それよりも……」


 すると沙耶は佐助と夏美の方を向いてじろじろ二人を見た。


「えっ、えっと、花咲夏美ですっ!」

「おお、随分元気で可愛い子じゃないか」

「ありがとうございますっ!」


 夏美は特徴的なツインテールを風になびかせながら元気よく答えた。


「それで君は……」


 そう言って美原先生は佐助の方を振り向いた。


「鳴沢佐助。どうもっす~……」

「どうも、南ヶ丘学園体育教師の美原沙耶だ」


 彼女と会う前と会った後で佐助の態度が百八十度変わっていた。どうやらイメージしていた人物像と異なっていたようで拍子抜けしたようだ。


「随分と軽そうな兄ちゃんだな~。女にモテようと必死でしょ?」

「なんでそれを⁉」


 イメージしていた人物像と違ったばかりか、自分の思考を読まれたと思ったのか、佐助はうろたえ始めた。


(鳴沢さん。あれで気づかれないと思ってたんだ……)


 そんな佐助の姿を、総次は内心でそう突っ込んだ。


「やっぱり図星か……」

「は?」

「下心丸出しであたしを見てたでしょ?」

「それは……」


 にやにやしながらの沙耶の言葉に更に狼狽える佐助。当の沙耶の表情は得意げだった。

 ただ佐助でなくとも、普通の男なら今の沙耶の格好を見たら間違いなく二度見してしまうだろう。

 上は大きな胸で張り裂けそうになっているピンクのへそ出しノースリーブで、下は太ももの根元まで切られたカットジーンズにビーチサンダルと、四月にしてはかなり露出の激しい恰好なのだ。


「まあ、そういう反応をするのは健康的な男の証拠だ。咎めはしないよ」


 沙耶はウインクしながら佐助にそう言った。


「そ、そうっすか⁉ なら今度俺と一緒にメシでも……」

「あたしは君のようなチャラチャラした子はちょっと好みじゃないの。ゴメンね♥」


 誘う前から撃沈する佐助だった。それを一通り見届けた総次は、咳ばらいを一つして沙耶に尋ねた。


「それで美原先生、例の荷物は……」

「ああ、今取り出して来てくれるから、もう少し待っててくれ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして。あっ! ちょっと学園に連絡入れないと……少し携帯使うよ」

「分かりました」

「ありがと。総次」


 そう言って沙耶は総次達から少々離れたところに行ってスマホを取りだした。

 すると、そんな沙耶を横目に、佐助は総次の腕を掴んで自分の方へ引き寄せつつ尋ねた。


「なあ総次、南ヶ丘学園の人って、ああいう感じの人が多いのか?」

「ああいう感じと言いますと……」

「露出が多いっつーか、この季節にしちゃ涼しげな格好っつーかさ……」

「佐助さん、さっきもいつものようにナンパしようとしてましたけど、ひょっとして……」


 そんなことを聞いている佐助を、夏美は女の敵を見るかのように眉をひそめながら話に割って入ってきた。


「だっ、だってしょうがねえだろ。あんな格好の人に近づかれたら、男は誰だって反応するだろ?」

「あたしも美原さんの格好はエロいって思いましたけど、でもほんっとうに佐助さんって、女性に見境ないですよね」

「い、いいじゃねえかよ、男なんだし……」


 夏美にそう言われた佐助は顔を伏せてぶつぶつそう言った。すると総次は、先程佐助から尋ねられた質問に対して答えた。


「南ヶ丘学園は、常島という八丈島より更に南方にある島の学園で、春と秋は平均で三十度前後、冬でも二十八度程度の気温ですから、自然と露出が多くなるんです。夏に至っては平均三十八度で猛暑日しかないですよ」

「それであんなに露出が多いんだ……」


 夏美は総次の方を向いてそう言った。


「それもありますが、何しろ島で男性は僕しか居ない上に、それまで女性のみの学園だったんで、羽目を外してるっていうのもあると思いますね」

「いいよなぁ。お前はそんな学校に通えてよ。三年間ハーレムじゃねえか」


 その話を聞いていた佐助は、羨ましそうな眼差しで総次を眺める。


「そうでもないですよ。まあ確かに本土とは違う風習が多くて、戸惑いましたけど……」

「色々あったんだな。お前にも」


 佐助は未だに羨ましそうな態度を見せていた。


「あっ、少しお手洗いに行ってきます」


 そう言って総次は男子トイレに行ってしまった。

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