第8話 無謀な提案

「……勝負は決まったようね」

「多少危なっかしかったけど、申し分ないわね……」


 紀子と鋭子は微笑みながら総次の実力を称賛した。


「総次君も善戦していたけど、やはり経験の差がものを言ったね」


 真も冷静に二人の戦いを分析したが、同時に総次に新戦組の一員としての力があると素直に認めていた。

 ふてくされている総次を見下ろしながら麗華は総次にそうささやいた。総次の目は先程までの鋭い目つきではなくなっていた。

 以前総次も言っていたが、総次はこれまで何度も麗華と戦っていたが、悉く秒殺されてしまっていたので、麗華が肉弾戦にも対応できるという事を知らなかったのだ。


「試合終了。二人共、お疲れさま」


 総次と麗華のやり取りを見ていた薫は勝負の結果を判断し、こうコールした。


「麗華さん、やっぱり凄い……‼」

「まあ、総次君の判断や技も決して悪くなかったよけど、踏んだ場数の違いが最後にものを言ったね」


 麗華の強さに驚嘆する冬美を見ながらそう言った。総次は麗華の手を取って彼女と握手をした。その様子に、真達組長達、そして一緒に観戦していた一番隊の隊員達も両者に対して惜しみない拍手を送った。


「一番隊も、みんな総次君の強さ自体には納得したみたいね」

「ええ。ただ総次君がどんな判断を下すかが気になりますね」


 紀子と鋭子は麗華と総次に拍手を送りながらそう語り合った。

 すると薫は総次に近づきながらこう話しかけた。


「お見事よ沖田君。最後の最後に麗華の全力を出させるなんて……これで私もはっきりと理解したわ。あなたには新戦組の一員として共に戦うにふさわしい実力があるわ」

「……本当にそう思いますか?」

「ええ、それで、朝聞いた件だけど、やっぱり、まだ答えが出ないかしら?」


 そう尋ねられた総次は考えるそぶりを見せる。


「沖田君?」

「……南ヶ丘学園にはどう伝えたら……」

「その辺りは安心なさい」

「安心と言われても、この組織のことを伝える訳には……」

「だから、安心なさい」

「……そう言うことにします」


 どういう根拠をもってそんなことを言うのかを理解できなかったが、薫の強引ともいえる態度に折れるしかなかった。そして、改めてこう切り出した。


「……道がこれ以外にないのは、今まで考えて、ある程度分かりました。自分がどうすべきなのかも、です」

「総ちゃん……」

「こんな僕にも出来ることがあるならば……」

(逃げても命を狙われるなら、僕はここで立ち向かわないといけない……‼)


 そう思った総次は覚悟を決め、こう言った。


「……宜しくお願いします」


 総次はそう言いながら闘技場にいる全員に対して深々とお辞儀をしながらそう言った。


「決まりね、こちらこそ今後は宜しくね。沖田君」

「はい」


 総次は新戦組の一員として戦うことを誓った。そんな総次を見た夏美と修一は総次に近づいた。


「総次君、これから宜しくね!」

「これからは仲間だぜ! 総次」

「仲間……ですか。夏美さん、澤村さん……こちらこそ、宜しくお願いします」


 するとそれを見た佐助と助六が総次に近づいてきた。


「俺は鳴沢佐助。三番隊組長をしている。で、俺の隣にいるのが……」

「四番隊組長の剛野助六と申す。総次殿、宜しくでごわす」

「鳴沢さんに、剛野さんですね。宜しくお願いします」


 更に紀子も総次に近づき、自己紹介を始めた。


「私は本島紀子。六番隊組長よ、総次君。これから宜しくね」

「宜しくお願いします……って、本島?」

「あら、もう主人とは会ったのね」

「えっ! じゃあ保志さんの奥さんって……」

「そう、私よ」


 驚いた様子の総次と、そんな総次に対して左手薬指の婚約指輪を見せながら茶目っ気たっぷりに振る舞う紀子のやり取りに微笑ましさを覚えながら、鋭子も総次に近づいてきた。


「五番隊組長の霧島鋭子。見事な試合だったわ」

「こちらこそ、今後は宜しくお願いします」


 総次が組長達全員への挨拶を終えたタイミングを見計らって、麗華は複雑そうな表情でこう尋ねた。


「総ちゃん。これから私達と一緒に戦うという事は、命を危険にさらすことになるわ」

「……覚悟は決まったよ。もう僕には逃げ場は無い。ここから先を生きていくためには、この現実と向き合って前へ進む覚悟がないと駄目なんだって判ったんだ。だから僕も一緒に戦うよ、麗華姉ちゃん」


 麗華の目をまっすぐ見つめながら答えた総次の目を見て、麗華も覚悟が決まった様子だった。


「……分かったわ。それと、正式に手続きが済んで配属が決まったら、上司と部下の関係になるのよ」

「うん、分かったよ。」


 そんな二人のやり取りが一通り終わったと判断した薫は、改めて総次にこう話した。


「では沖田君。今日は本当にお疲れさま。明日には正式なことを伝えるわ」

「分かりました、宜しくお願いします」

「じゃあ総ちゃん、動いたから疲れたでしょう? 先に私の部屋で休んでていいわ」

「ありがとう、麗華姉ちゃん。あ、でも……」

「なあに?」

「学校にどう伝えたら……」

「私に任せて、南ヶ丘学園には、私の方から担任と学園長に伝えておくわ」

「大丈夫なの?」


 総次は心配そうな眼差しで尋ねた。するとそんな総次を見かねた真が冬美と一緒に総次に近づきながらこう話しだした。


「心配ないよ。これまでも必要があれば入隊する人の関係者に最低限の説明はしてるから」

「分かりました。では、宜しくお願いします」


 総次は真に深々と頭を下げてお願いした。


「先に部屋に戻って、シャワーを浴びてらっしゃい」


 麗華は両手をパチンと音を立てて合わせながら総次にシャワーを浴びるよう促した。


「じゃあ、お先に」


 総次は麗華に返事をしながら闘技場を後にした。


「麗華さん! 総次君を麗華さんの部屋まで案内してきま~す!」

「よろしくね、夏美ちゃん」


 夏美はそのまま総次の後を追った。


「あの様子だと、少しは元気が出たみたいね」

「ええ、ちょっと……ほっとしたわ……」


 闘技場を去っていく総次の後ろ姿を見ながら尋ねた薫の言葉に、麗華は静かにささやくような声で答えた。


「……麗華、私も決心がついたわ」

「決心?」

「それは……」


 薫は麗華の目を真っ直ぐに見つめながら言葉を続けた。


⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶



「随分といきなりじゃねぇか?」


 全員が呆気にとられる中、ぶっきらぼうな態度で薫の提案に疑問を口にしたのは二番隊組長の鳴沢佐助だった。


「あの子の戦闘力は既に一隊員のレベルじゃないわ。あなた達も、それは見てて分かってるでしょ?」


 佐助の指摘に冷静に反論したのは副長の上原薫だった。


「だからってオチビちゃんを新しい一番隊組長にするなんて……」


「オチビちゃん」というのは佐助がつけた総次の渾名だ。 

 時刻は午前十時三十分。今この本部地下二階の会議室で審議されているのは「沖田総次の新戦組における今後の配属先」についてだ。今後の総次の配属先について、現時点で分かるデータを参考にして協議していた。だがその中で突如として薫が、総次の戦闘力は組長に迎えるに値すると言い出したのだ。


「私はあの子をいきなり組長に就任させるとは言ってないわ。ちゃんとテストをして、その結果を見てから判断するわ」

「でも、入隊することを決めたばかりです。例え組長に就任させるにしても、もっと様子を見てからの方がいいと思います」


 静かながらも芯の通った声で佐助に続いて薫に意見したのは十番隊組長の花咲冬美だった。


「私と姉が組長の適性試験を受けたのは入隊してから十ヶ月後でしたし、なったのもそれから二ヶ月後です。なのに、総次君にはその余裕も与えないんですか?」

「そうっスよ! 俺の時だってしばらく佐助の兄貴の隊に所属して、それから新しく隊を発足させるって時になってから適性試験をやったっスよ」


 冬美に続く形で叫ぶように発言した修一。だが薫は動じなかった。


「……あなた達も薄々は感じてるでしょ? 麗華が一番隊組長と本部局長を兼任してることで起こっている弊害を……」


 薫は自身の左隣で座って暗い表情をしている麗華の顔を見ながら話した。


「……この一年間、これまで以上に彼らの襲撃や暗殺などの事件が起き、他の隊や各地の支部と比較して本部一番隊の出撃が、局長としての麗華の立場もあってしにくくなっている。全国各地に点在する支部ならまだしも、東京に拠点を置いて活動している本部でもエリート部隊の一番隊を、局長の麗華に背負わせ続けるのは負担が大きすぎる」


 一連のやり取りを聞いていた二番隊組長の椎名真は、薫の方を向いて足を組みながらそう言った。


「薫ちゃん。組長に推薦するといっても、単に強いだけじゃ無理だと思うわよ。指導力とか、コミュニケーション能力も必要よ」


 薫の真正面の席に座っていた六番隊組長の本島紀子は、薫をいさめるような口調でこう尋ねた。


「それは明日、沖田君に聞いてみることにします」

「一つ確認してもいいかしら」


 そう言って薫に話しかけたのは麗華だった。


「総ちゃんにそれだけの素質があると判断して採用するにしても、組長としての職務を教育する立場の人間も必要になってくると思うわ」

「勿論それも考えてるから安心して」


 すると真は麗華の方を向いてこう尋ねた。


「麗華、君はこのことについて、予め薫から聞いてたのかな?」

「え?」

「さっきの薫の提案を聞いた時の君の表情を見れば分かるよ」

「……昨日、薫に訓練場の使用許可を取ったときに、その可能性もあるってニュアンスで言われたわ」

「そっか。それで薫は、いつからこのことを考えてたの?」


 真は薫の方へ向いてそう尋ねた。


「麗華から聞いていた沖田君の話からある程度考えてて、実際に沖田君の戦ってる様子を見て確信に変わったわ」

「確信ね……」


 薫の言葉を真は目を閉じながら聞き、そして静かにつぶやいた。


「当然、結果次第ではそのまま一番隊の隊員という形での配属も考えているわ」

「一番隊に試合を見せたのは、あの子が一番隊組長候補として試験を受けることになった時の為の……」


 五番隊組長の霧島鋭子は、薫の言葉を補足するような質問をぶつけた。


「反感を最小限にする為よ。彼が組長として相応しいかどうかを決めるのは、あなた達と、一番隊の隊員達よ」

「はぁ。一番隊にもオチビちゃんにも精神的な負担が大きすぎると思うけどなぁ……」


 薫の説明に、未だに不安な気持ちを払拭できない様子の佐助。


「総次君、昨日あんな目に遭ったばっかりなのに、何だか……」

「どうしたの? 夏美ちゃん」

「総次君がいきなり組長って、やっぱり酷なんじゃないかなって思うんです」

「その辺りも沖田君の負担にならないよう配慮を行うわ」


 薫は自信を持って説明したが、それでも夏美は心配そうな表情のままだった。


「それで薫、適性試験の期間についてはどれくらいを設けようと考えているんだい?」


 真は話題の深いところを知ろうと思ったのか、薫に再び質問をした。


「明後日からの一ヶ月間を考えているわ。どうかしら? 麗華」


 薫は真の質問に対して理路整然と答え、麗華へ確認を取った。一連の騒然とした空気を生み出した当事者にしては涼しい顔をしている。


「……分かったわ。明日、私の方から総ちゃんに伝えるわ」

「いいのかい?」

「今は局長として最善の道を選ぶわ」


 真の懸念を含んだような言葉に対し、麗華は席を静かに立って凛とした表情と声色で組長達に向かって言った。


「佐助はどうかしら?」

「……分かったよ。俺も腹を括るよ」


 麗華に尋ねられた佐助はまだふてくされた様子だったものの、彼自身もこれ以上無駄な議論を続けるよりかはと思ったのか、こう答えた。


「他は?」


他の組長達も思う所はあったようだが、適性試験の結果を見てから判断しようという事で話がまとまった。



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