6th phase-7

 翌日の朝、バスに乗り込むと京都河原町の駅前に向かった。

 今日は自由行動の日なのだが、昨日深夜の出来事に加えて担任から説教を受けたこともあって、かなり眠い。

 バスの中では少し寝ていたが、それでも眠い。

 目を閉じたと思ったら、次の瞬間には河原町駅前に到着していた。

 こんな日に自由行動なのは、ある意味幸いだろうか。所長に連絡を入れて、どこかで時間になるまで休んでいよう。

 そうだ。そうした方がいい。

「あ、鬼道さん」

 嗚呼、やっぱり。

 こいつが話しかけてくる。

「……何?」

「よかったらさ、一緒に回らない」? 他にメンバーがいなかったら、だけど」

 照れ臭そうに頬をかく目の前の男。

「……いいの?」

「え?」

「他に、回りたいやつとか、その、いるんじゃないのか? 友達とか?」

 何となく、聞いてみた。

 いつも私に話しかけてくるこいつだが、修学旅行みたいなイベントだと、もっと友達と思い出を作った方がいいんじゃないのか。

 そう、思わなくもないのだ。

「うーん、そうだね」

 嘉村は少し考えてから、

「それなら、今日は鬼道さんと思い出を作りたい、じゃ、ダメ、かな?」

 と、困ったように言ってのけたのだ。

「……!? わ、わかった。それなら、付き合ってやる」

 一瞬、顔が熱くなったが、それでも気にならないような風に言った。

 まったく、こういう時は本当にズルいやつだと思う。

 かく言う私も、嫌な感じがないのがまた困る。

 いや、むしろ心が温まるような、そんな感覚。

 しかも、この感覚が嫌でないのが、質が悪い。

「ありがとう。じゃあ、行こう」

 そう言って、こいつは手を差し出してくる。

「……」

 その手を取ろうと、手を伸ばす。

 震えているのは、おそらく武者震いだ。

 決して緊張しているわけでは、断じてない。

 何とか伸ばした手を、あいつは掴んでくれた。

「じゃあ、行こう」

 笑って言うこいつに引かれ、私も後を追う。

 これが、こいつの、嘉村の歩幅か。

 思っていたより、大きいな。

 何となく、こいつの新しいことを知ったような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る