Other phase 2-7

「……むう☆」

 教室で膨れ面をしているのは、上条ちひろだ。

 鬼道佐久弥と前日の夜に戦闘をし、気分が高まってきていたところを『二条会』の組員に邪魔をされ、不完全燃焼だったのだ。

 一瞬、目的だったヒーローを狙おうと思っていた矢先、佐久弥と彼女の仲間と思しき男がやってきた時、彼女にとってはヒーローどころではなくなった。

 以前佐久弥と戦ったときは彼女に逃げられてしまい、決着をつけたいと思っていた。

 それに、最近はもう一つ、理由ができたのだ。

「……えーと、どうしたの、上条さん? 僕の机に来て?」

 少し気まずそうに声をかけてきたのは、嘉村真一だった。

 授業が終わって帰ろうとしていた矢先、不機嫌そうなちひろが突如やってきて、そのまま彼の前の席に座ったかと思うと、そのまま膨れ面をし出したのだ。

 特にこの後予定があるわけではないが、突然やってきて不満らしい顔を見せられては、嘉村としては帰りにくい状況となっていた。

「も~、聞いてよ! 最近ちひろいいことなくってさ! アイドルやってて楽しいけど、ここのところお兄ちゃんがうるさいし! 勉強しろとか夜に外出するなとか、ちひろもいい歳なんだから大丈夫だってのに!☆」

「……上条さん、この前の抜き打ちテスト、赤点だったんじゃ……」

「ちひろはアイドルだから大丈夫だよ!☆」

 ちひろは何の答えにもなっていない反応を返す。

 嘉村とちひろは、最近はこうして話すことが増えた。

 彼が話すことが多いのは男友達を除くと、佐久弥かちひろだ。

 佐久弥に対しては一方的に話していることがあるので、実質ちひろとの会話が多い。

 アイドルでもある彼女と話すのはいいが、周囲の視線が集まって居心地が悪く、あとで友人にいじられるのも茶飯事になりつつあった。

 それでも彼女と話し続けるのは、彼もちひろに対して悪い感情を持っていないから、というのが大きいのかもしれない。

「……あのさ」

「?」

 先程まで騒がしかったちひろの、調子が変わる。

 捲し立てるように話していた彼女の一瞬の変化に、嘉村も若干驚く。

「……嘉村君さ、なんで」

 瞬間、彼女のスマホが鳴る。

 スマホの着信画面には、会いたくない人物の名前が表示されていた。

「……げっ」

「どうしたの、上条さん? 嫌な人から?」

「……うん。嫌いというか、会いたくない人、かな」

「?」

 露骨に嫌そうな顔のちひろに、ますます疑問符を浮かべる嘉村。

 まあ、芸能界に生きてる彼女のことだから、嫌な人の一人や二人くらいいるだろう。

 そう彼の中で結論付けた。

「悪いけど、今日はこれで! じゃあね☆」

 挨拶だけして、嘉村の元を離れるちひろ。

 ちひろが離れていったことを見届け、嘉村はさっさと帰り支度を整えた。

 塾があるというのもあるが、からかいに来るであろう友人達から逃げるために。

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