5th phase-final
目が覚めると、事務所の簡易ベッドに寝ていた。
あの後、風間さんが私をここまで運んでくれたらしい。
お礼を言った後、彼は一瞥してすぐに何でもないように、いつもの読書に戻っていった。
今だからこそ思うが、風間さんが言葉を発するだったとは、当時の私は余程どうかしていたのだろう。
後から聞いた話はまだ続く。
乾いた炸裂音がしたと所長に報告したところ、どうやら近くで『八条会』の連中が動いていたらしい。
報道にはなかったから、何も大きなことはなかったのだろう。
まあ、あの上条ちひろがしばらくアイドルを休業するというニュースには僅かながら驚いたが。
とにかく、これで当面の金銭面に関して言うなら、問題はなくなった。あの所長が調子に乗って余計なことさえしなければ、これ以上資金難に陥ることはないだろう。
あの一夜から三日、つまり今日だ。
学校のいつもの机に、突っ伏して待つ。
今日という日が、どれほど待ち遠しかったか。
今日という日が、どれほど来てほしくなかったか。
その答えは、思っていいた以上に早くやって来た。
「おはよう、鬼道さん」
こいつ、嘉村真一の登校日だ。
意外に早く回復できたらしく、こうして学校に来れたらしい。
とはいえ、まだ包帯は取れないらしく、こいつの片目には包帯が巻かれている。
「……」
なんだか、気まずい。
こいつがこんなことになったのは、私のせいなのだ。
私の行動の油断が、招いた結果なのだ。
こいつに、嘉村に合わせる顔なんて、ない。
「……ごめん」
つい、こぼれた。
言うつもりはなかった、この言葉が。
こんなことを言うよりは、こいつから距離を置いた方が、こいつの……。
「どうして、謝るの?」
そう言われ、思わず私は顔を上げた。
どこか悲し気な表情のこいつは、それでも真っ直ぐに私を見つめる。
「お願いだから、謝らないで。僕が自分からやったことなんだから、もし責められるなら僕に非があるよ。言うなれば自業自得だ」
「……」
「でも、そんな自分勝手なことでも、鬼道さんを守れたなら、よかった」
「……!」
何故だ。
なんでこんなに、顔が熱いんだ。
そして、どうして視界が歪むんだ。
目頭が熱い。
もっと我慢しないと、何かが決壊してしまうような、そんな感覚。
「……あり、がとう」
何とか、声を返す。
やはり、不思議だ。
こいつの言葉は、どこかしみ込んでくる感覚がする。
どうにも不可思議で、安心する感覚だ。
「でも、一つだけ、約束して」
彼は言う。
「もう、あんな危ないことはしないで。誰かを傷つけるようなことはしないで」
「……」
一瞬、迷った。
私には、成し遂げたい目的がある。
そのために『JSA』にいる。
でも、どうしてだ。
どうして、こんなに不安なんだ。
これを断ったら、二度とこいつとは話せなくなる。
そんな、漠然とした不安が生じる。
「……」
これも、気の迷いだ。
こいつが、あまりに真剣な顔をするから、仕方なくだ。
「……わかった。努力する」
そう、言葉を返す。
「……ありがとう」
そして、やっと笑顔を向けた。
これが、こいつと交わした、初めての約束。
それと同時に、私にとっては後に、呪いとなる約束だった。
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