5th phase-21
一陣の風が、私達の間を吹き荒ぶ。
私はいまだ刀を鞘に納めたまま、居合の姿勢を保つ。
対する三鷹さんは大仰に構えたまま、私を観察するように睨みつける。
先程まで激昂していたが、意外と頭は冷静らしい。
「「……」」
一触即発の状態だが、見えない均衡状態が続く。
街の灯りやこの場に吹くビル風さえ、今はどうでもいい。
目の前の敵を、殲滅する。
そのために、全身を集中する。
刹那、微かな炸裂音が耳を掠める。
「――――!」
先に動いたのは、三鷹さんだ。
渾身を込めた拳の一撃が、私に向かって飛来する。
しかし、それが命中することはなかった。
その拳の軌道を先に『視て』いた私は、その攻撃に合わせて刀を引き抜く。
踏み込むと同時に刀を縦に引き抜き、拳を逸らすことで攻撃を躱した。
全て、私の『眼』で視ていたから動けたことだ。
懐に飛び込むと同時に刀を引き抜いた私は、そのまま刀を振りかぶる。
「……があ!」
気合とともに、三鷹さんは刀を白刃取りで受け止める。
このタイミングで白羽取りを成功させるなんて、なんて反射神経と運動神経をしているんだ。
前回戦ったサイボーグの二人組が霞んでしまう。
刀の重量と重力分の力が加わった威力の私の白刃が、三鷹さんの両手と拮抗する。
「……はあ!」
完全にがら空きになっていた私の腹に、強烈な蹴りが叩き込まれる。
バックステップの要領で威力を軽減する。
が、微かではあるがダメージが残る。
「……っ!」
胃からこみ上げてきそうなのを、何とか堪える。
「もらったぁ!」
これを好機と見たのか、三鷹さんが拳を振りかぶる。
しかし、これも軌道が見えていた。
体を捻って拳を躱し、刀を左から袈裟切りに切り下す。
「……ちっ!」
軽く舌打ちして、三鷹さんは斬撃に対して防御姿勢を取る。
瞬間、彼は切り裂かれた。
右から袈裟切りに飛来した、私の刀によって。
「……!?」
何が起こったのかわからず、目が見開かれる三鷹さん。
痛みを感じないが故に、自分の身から流れる血飛沫が理解が追い付いていないというのもあるのだろう。
私がやったのは、『影縫い』と呼ばれる技法だ。
日本の古流剣術から伝わり、柔術にも身体運用の術として用いられている技。
私が師匠から合氣術とともに教わった、奥義と呼ばれるものの一つだ。
「……」
脈々と流れる血液が、朽ちかけた足元を紅く染める。
蹲る目の前の男を注視しながら、私は刀に付いた血を振るう。
目の前の男の動きを見逃すまいと、じっと見つめる。
月が雲で陰りだし、屋上が一瞬暗くなる。
その時だった。
三鷹さんがいきなり突っ込んできたのは。
「……くっ!」
首を掴まれ、空中に持ち上げられる。
片手で刀を持ったまま、もう片方の手で抵抗する。
呼吸がしづらく、息苦しい。
「……このまま、絞め殺す!」
三鷹さんの手に力が籠り、気道がさらに圧迫される。
このままでは、本当にまずい。
その時だ。
三鷹さんの背中に、飛来した何かが命中し、体がぐらつく。
何が起こったのか確認しようと、一瞬、彼が背後を振り返る。
ここだ。
刀を振り上げ、振り返ったままの三鷹さんの目に柄を振り下ろす。
「……!?」
彼は不意を突かれ、視界を奪われ、思考が追い付かないまま後退る。
刹那、刀の切っ先を無防備な彼の水月目掛けて突き刺す。
「……かっ……!」
声を出そうにも気管とその奥にある心臓が貫かれ、呼吸もままならないようだ。
そして、刀を彼から引き抜く。
「……」
どんなに痛みを感じない彼であっても、心臓を潰されては、長くはないだろう。
「……君の、」
彼は、言う。
「君の思う、正義は、なんなんだい?」
私は答える。
「前にも言った通り。人それぞれ違う信念。少なくとも、押し付けられるものじゃない」
「……そうか」
そして彼は、優し気な笑みを浮かべ、
そのまま、手すりの奥、屋上から地面へと落下していった。
「……っ!」
気が抜けた一瞬、激痛が襲う。
ダメージが限界まできていたようだ。
意識が混濁していき、そのまま、私は気を失ったのだった。
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