Lost phase-5
無機質な建物内を歩くこと十数分。
目的の部屋に到着した。
「すまん。遅くなった」
正義はノックもなく入っていった。
「おい、ノックくらいしろ」
彼の無礼を咎めた人物は、ダークスーツの男だった。
全身黒ずくめのこの男は、ノアのデータベースにもある人物だ。
「……『黒拳』、風間重一郎か」
「……ちっ、この間の木偶人形か」
「そんな言い方はやめろ。今は俺達のお客さんだぞ。それに、……今は面接中なんだろ?」
そう言って、正義は面接相手に視線を向ける。
パイプ椅子に座る相手は、黒い長髪の眼鏡少女だった。
紺色のセーラー服に身を包んだ彼女は、正義達を睨みつけている。
「そんな警戒しないでください」
「警戒するな? 警戒するなですって!? ここに来るのも半分拉致まがいなことをやっておいて何言ってるのよ、この真っ黒!」
怒りを爆発させて怒鳴り散らす少女。
余程腹に据えかねていたらしい。
「真っ黒? 変な表現使うんだな。文学少女か?」
「何よ、赤色! 何でこんなところに来ないといけないのよ! 早く家に帰してよ!」
「……?」
ノアは疑問に思った。
正義が黒で、風間が赤色。
百歩譲って正義の色が黒だとしても、風間に赤の要素はない。
むしろ服装の要素分、風間の方が黒いくらいだ。
「……一つ聞きたい。こいつは何色に見える?」
正義が尋ねる。
彼が示す先には、ノアの姿があった。
「え? えーと、何、こいつ? 色がない?」
瀬見は若干驚きながらも答える。
「……なるほど、『共感覚』か」
「「「……!?」」」
正義の言葉に、全員が驚愕する。
共感覚。
ある特定の刺激に対して、異なる知覚が働く現象だ。
音の刺激に対して色が見える、といった具合だ。
この共感覚を持つ者は非常に稀だ。
そんな特殊な能力を持つ者が、今、目の前の少女なのだ。
「……そうよ、何か文句あるの?」
「いや、文句じゃないさ。むしろ凄い力だな。頼りにしてるよ」
「……いや、あたし、協力するなんて言ってないんだけど?」
「どの道、君はここから出られないよ。脱出したければかまわないけど、この部屋から出口までには見張りがいるし、カメラもついてる。ここから無事に出るにはそれらを掻い潜るしかないわけだ。それが、君にできるならね」
意地の悪いことを言う正義に、瀬見はさらに鋭い視線を向ける。
「……あんた、性格悪いでしょ?」
「目的のためには手段を択ばないだけさ。そんな余裕もないしね」
「?」
先程まで無慈悲なことを言っていた正義の言葉に、疑問符を浮かべる瀬見。
「実は、既に君にはやってもらいたいことがあってね」
そう言うと、懐から一枚の紙を取り出した。
「早速だけど、仕事の話だ。風間、他のメンバーを呼んでくれ」
「……わかった」
風間はどこかに電話をかけ、まだ見ぬ面子を招集する。
いまだ猜疑心消えぬ瀬見と内心呆れるノアを、そのままに。
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