rest phase 2-5
私、鬼道佐久弥は気が立っていた。
現在、私は皆が遊んでいる中、離れてプールサイドに腰かけていた。
理由は明白。
あいつのせいだ。
なんだ、あいつも乳がでかい方がいいのか。
上条ちひろの胸に顔を埋めやがって。
「……なんだよ」
自然と悪態が出る。
本当に、今日は体調が変なのか。
それもこれも、あいつが悪いんだ。
あいつが……。
「……!」
ふと、気づく。
なんで、私はあいつを意識してるんだ。
思えば、今日はいつもあいつがずっと近くにいたことが多かった。
移動の時は隣だったし、こうしてプールで遊んでいるときも近くにいた。
そして、それにたいして、私は楽しい、と感じていた。
久しぶりだった。
父である鬼道正義が死んで以来、私はずっと心を凍らせていた。
ただ冷徹に、そして確実に人を殺す。
父の死の真相を知るために。
そんな私に話しかけてきたのは、あいつだった。
いつも無視して机に突っ伏していた私に、声をかけ続けてくれたあいつ。
それだけで、心が温かく感じた。
あの感覚が、私は心地良さを感じていたんだ。
そんなあいつが、他の女と仲良くしているのを見ると、何だか不快な気持ちがした時もあった。
今日も、それは感じていた。
この感情は、何なのだろうか。
未だにわからないことの一つだ。
「……」
膝を抱える手に力がこもる。
いつもの、巨乳に対する嫉妬からではない。
もっと、下手をすれば取り返しがつかないような。
失うことが怖い、そんな感覚。
「大丈夫?」
そんな時だった。
あいつが、嘉村真一が話しかけてきたのは。
「……みんなの方、いいのか?」
私から話しかける。
「うん。ちょっと疲れちゃって」
「……軟弱だな」
「手厳しいね」
頬をかいて、私の隣に座る。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
若干の居心地の良さと、何を話せばいいのかわからないが故の沈黙。
少なくとも、私にとっては。
「……なあ」
声をかける。
「うん?」
「……その、ご、ごめんな」
出した言葉は、謝罪だった。
「え、なんで?」
「今日、本当は二人で遊ぶつもりだったのに、その、こんなになっちゃって……」
そうだ。
本当は、二人で遊ぶ約束だったはずだ。
こいつからの初めての誘い文句は、とてもシンプルだったが、確かに嬉しかったのだ。
それなのに、話が膨らんで、結果、こんな形になってしまった。
それが、何だか申し訳なかった。
「そんなことないよ。少なくとも、僕はみんなと来れて楽しかったよ」
首を横に振るこいつは、優し気にほほ笑んだ。
「鬼道さんはどう? 楽しくない?」
「え、えっと……」
言葉に詰まる。
楽しかったか、楽しくなかったか。
私は、どう思っただろうか。
改めて回想してみる。
そして、
「……わからない」
それが、私の答えだった。
こんな体験は初めてだったからだ。
みんなで遊びに行って、一緒に騒いだことなんて、これまでの経験ではしたことなかった。組織のメンバーとは何回か遊びに行ったりもしたが、あくまでも付き合いのような感覚で距離を置いていた。
しかし、学校のクラスメイトを伴って遊ぶなんて、これまでの人生では記憶になかった。
だからこそ、尚のことわからなかった。
「……そっか」
少し残念そうな顔をする嘉村。
そんな顔をしないでほしい。
私は、そんな顔をさせるために答えたんじゃないんだ。
「……なら、また来よう」
「……え?」
「鬼道さんが楽しいと思えるように、面白いと感じられるように、また来ようよ。今度は、二人でさ」
照れ臭そうに頬をかく嘉村。
「……!」
思わず顔を背ける。
何故だか、顔が熱い。
鼓動も、いつもより速い。
あいつを直視できない。
なんなんだ、これは。
「……まあ、その」
絞り出すように、ゆっくりとだが、
「……また、いつか」
そう、答えた。
「……うん。ありがとう」
そう言って、隣を離れてプールに入っていったあいつ。
「あ、そうだ」
そう言ってこっちを向く嘉村。
「その水着、その、似合ってるよ、鬼道さん」
「……はあっ!?」
そんな爆弾を投下した。
嗚呼、くそ、なんだよ、あいつ。
「……ずるいやつ」
思わず、そうつぶやいた。
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