第90話【夏休み 妹弟】
「ま、間宮くん!」
来たか........。
「ご、ごめんね。急に。待っちゃったかな」
「いや、まぁ大丈夫。」
別にそのまま駅にいただけだし。
全然待ってはいない。
さっき山本から、駅の近くにいるからちょっとだけ会えないかという電話があり、俺はまだここにいる。
彼女の勢いが何故かかなりすごかったから断れなかった......。
まぁこの後には何もないし、ちょっとだけなら別に。
何しろ今日の俺は気分がいいしな。
「で、どうした。」
かなり息を切らしているみたいだけど.....大丈夫か?
近くにいたん........だよな?
「う、うん。とりあえず、ちょっとだけどこかに入らない?例えばそこのミスドとか......」
まぁここにいるのも暑いし........そうだな。
正直、昼は海の家で軽い物しか食べていなかったから、お腹がすいている。
あと、彼女と一緒にいるところをまた誰か学校の奴に見られるのもアレだしな......今思えばほんとこれ以上変なことにはちょっと。
夏休みの駅は本当に人が多いし.......。
「あぁわかった。」
「うん!」
____へぇー久しぶりに来たけどやっぱりミスドはいいな。安いし種類が豊富だ。
ってかドーナツが嫌いな人っているのか?
あっ、これ見たことない。
「ふふっ、やっぱり間宮くんって甘いもの好きなんだね。」
「まぁ.......。」
嫌いな奴なんていないだろ。
とりあえずこれとこれとこれ。あとこれだな。
そしてお会計をすませて席へと向かう俺たち。
よいしょっと。
「で、何だ。」
そろそろ本題を教えて欲しい。
「う、うん。その....渋谷さんとのことなんだけど。」
そう言って彼女の表情は急に真剣に。
「.......。」
「本当に付き合ったりとかって.......。」
ってまたか........。何でそうなる。
「さっきも言ったけどありえないだろ.......。」
本当にさっきから何でそんな質問ばっかり。
何度も言うけど俺だぞ。
「でも、あ、あんな感じで間宮くんが海に行くって.......。」
くっ.......ほんとに何で皆。山本もリンリンもミキも柊さんも。
意外に真昼間から情報番組とか皆見てたりするのか?
もしかして榊たちもやっぱり........。
いや、ないか.....ないよな。たまたまだ。
そう.....たまたま。
「あぁ......それはこれだよ。これ。」
「ん? サインと絵?」
「あぁ、俺の好きな漫画を描いている加瀬先生のサイン。」
やっぱり山本は知らないか.......。
「ん? それがどうしたの?」
「いや、渋谷さんが海に行ったらくれるっていうから、ちょっと頑張ってな。」
本来なら海なんて騒がしいところ絶対に行きたくない。
今日だって彼女がずっと隣にいて目のやりどころとかもその.........。
「..........。」
ん? どうした山本?
「そ、そういうことだったんだ。」
ん?そういうことってどういうこと?
って、急に今度は彼女の表情が明るくなった気が......。
「でも.....いいな。海。」
そしてそう言って、何故か気が付けば目の前に座る彼女は頬を赤くして俺の目をじっとみつめてくる。
「.........。」
「ど、どうかな。私とも........海。駄目.......かな?」
って、な、なんだよまたその上目遣いは.......。
「........。」
い、いやどうかなって.......。
そんな表情で言われても........
って渋谷さんもだったけど、なんでそんな俺と一緒に海に........おかしいだろ。
「ごめん......海はちょっと好きじゃない。もう今日でいっぱいいっぱいだ。」
今日もあんなことがあったし、本当にもうこりごりだ。
「そ、そうだよね。ごめんごめん。」
そしてそう微笑みながらもどこか悲し気な表情を俺に見せてくる彼女。
「.......。」
本当に今回は加瀬先生のサインがあまりにも欲しかったから......。
「ところでその人の漫画ってそんなに面白いの?」
って、ん?
「あぁ、かなり。と言うか、とてつもなく面白い。」
「へぇー。なら私も読んでみよっかな。」
..........山本も興味あんのか。
「貸そうか。」
自分でもよくわからないけれど、無意識に俺の口からはそのような言葉。
何となくこの漫画に興味を持つ人が増えるのはファンとして嬉しい。
「え、いいの?」
「あぁ、まぁ。」
もう、そう口にしてしまったしな。
やっぱり夏休みだからちょっと心に余裕があるのだろうか。
学校にいる普段の俺なら絶対貸そうかなんて言葉は口からでて来ない。
「え、やった。すごく嬉しい。やった。ありがとう間宮くん。」
..........かなり喜んでいるな。そんなに興味を持ったのか。
「じゃあ家から取ってくるからちょっとここで待っていてくれるか。」
そんなに時間はかからないだろうしな。そんなに読みたいのならすぐに読ましてやる。
「え、いや悪いよ。それは」
「え、でもじゃあどうするんだ。」
まだ学校が始まるまでもうちょっとあるし。
「えっとその、例えばまた違う日に.......っていや、うん。やっぱり早く読みたいから私もついていく。」
「え?」
ついていく?
「え、いやいいよ。暑いだろうし。待っていてくれ。大丈夫。」
ほんとに.......
「いや、それは悪いよ。私が貸してもらうのに間宮くんにそんなしんどいことはさせられないよ。ね!」
って、近い........
そ、そんなに身を乗り出してなんだ........。
「あ、あぁわかった。」
何故かわからないが彼女から漏れ出るものすごい気迫に負けて俺はそう返事を返す。
「うん!やった。嬉しい。」
本当に読みたいんだな。目の前にはさっきよりもさらに嬉しそうな笑みを浮かべる彼女。
これは貸しがいがあるな.........。
「じゃあもう行くか。」
「うん。行こ」
「ありがとうございましたー」
でも家か........。
まぁでもそんなに読みたいのなら仕方がないか。
______「あっ、健人君じゃん。ういーす。って、へへさすが健人君だね。その女の子は誰? もしかして彼女とか?」
あ、洋介。
「いや、何言ってんだよ。そんなわけないだろうが。山本に失礼だぞ。」
本当に。
「へー、でもその山本さん? 何か顔赤くなってない?」
こいつ.......いきなり何を。
「いや、そんなわけないだろ。からかうのも大概にしてくれよな」
「か、彼女........。」
って、何かブツブツと言ってるし.......山本。
「........。」
そ、それに何だよ。その表情は.......。
「あれ、健人くんも何か赤くなってない。」
「い、いや、なってねぇから。まじで怒るぞ洋介」
ほ、ほんとになってねぇから......。うん。なってない。
まじでさっきから、なんだよ本当にこいつは.......。
いま、もうすぐ家に着くいうところで出くわしたこの男は星野洋介。
そう。隣の家に住むミキの弟だ.......。
おそらくどこかに今から出かけるのだろう。
このイケメン野郎が.........また女か?
「とりあえず、彼女は俺ん家に漫画を借りに来ただけだから。じゃあな」
そう言ってまた自宅へと向かって足をすすめる俺。
洋介はたまにこうやって変なことを俺に言ってからかってくるから困る。
「へぇー。とりあえずまた面白いもんみちゃったなー。次から次へと大忙しだな健人君も」
何がだよ。
後ろからそう彼の言葉が再び聞こえてくるが俺は無視。
別に悪い奴では全然ないんだけどな.......。
逆に仲がよすぎてこうなってしまっているところがある。
洋介ともかなり昔からの付き合いだからな。
って、そうこう考えている間にもう家に到着。
「こ、ここが間宮くんの家。」
「あぁ。」
「じゃあ漫画取ってくるから一瞬待ってて。」
「うん。わかった.......。」
そう言って俺は彼女に玄関の前で待っていてもらい、自分の部屋へと急いで向かう。
_____とりあえず、今でている所までは全巻貸してやるか。
んで何か入れもの入れもの。紙袋がどっかにあったよな。
「おにぃ!」
「あ? 何だよ遥」
って......え。何で。
「もう、何だよじゃないでしょ。こんな暑いなか、女の子を外でまたせたら駄目じゃない。」
俺の瞳にはしっかりと今、山本の姿が映っている光景。
「すみません。糞見たいなところですがゆっくりしていってください。ちょっと飲み物も持ってきますね。」
「い、いや大丈夫です。大丈夫です。お気遣いなく。」
「いえいえ、せっかく来てくださったんですし。ほんとにごゆっくり。」
「........。」
そう言って遥は俺の部屋からそそくさと出ていき、足早に階段を下っていく。
「........。」
「い、良い妹さんだね。」
「.........いや。」
「とりあえずお言葉に甘えてちょっとだけ.......お邪魔します。」
「あぁ。」
もうこうなったら仕方がない。
すぐに用意するから待たせるつもりはなかったんだけどな......。
まぁ遥の言うことも間違いではないか........。
「へぇーここが間宮くんの部屋なんだ。」
そしていつの間にか、俺の目の前に静かに腰を降ろす彼女。
至って普通の部屋だろ。
何をそんなにソワソワと.........。
「ち、ちなみにここは渋谷さんとかって.......。」
「いや来るわけないだろ。」
何でまた渋谷さんの名前が.......。
「そ、そうなんだ。」
そして何でそんなに嬉しそうな顔をまた........。
とりあえず、今思えば何なんだよこの状況........。
俺の部屋に女の子が.......。
昼は海に渋谷さんと行って、今は山本が自分の部屋に。
まじで何だこれ........。
「はいお待たせしましたー。では本当にごゆっくりー。」
は、遥のやつ........。
こいつ、また何をニヤニヤと...........。
バカか......。
「と、とりあえずこれが加瀬先生の漫画」
「え、あ、うん。ありがと。嬉しい。」
「「.........。」」
で、どうしたらいい.........この状況。
もうお目当ての漫画は渡したけど、彼女が腰をあげる気配がない.......。
って「おい.......何をしている。」
今、俺の視界には何故か部屋の扉の隙間からこちらを尚もニヤニヤと覗いている遥の目。
バタン
ま、まじであいつ.......後でちょっと。
「.........。」
そして俺の目の前にはチラチラと俺の目に視線を移しながら遥が持ってきたジュースのストローに口をつける山本。
なんでまたそんなしおらしい表情でずっと俺のことを静かに........。
い、いつもみたいに何か喋ってほしい.......
「........。」
ま、まじでどうしたらいい........これ。
「........。」
暑い........。
ど、どうすれば........。
_____________________________________今さらながらtwitter始めました。
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