第79話【夏休み ドクマナルドバイト①】


 「ありがとうございましたー。」

 あー久々だなーこの感じ。


 「おい、ケント。もう感覚は取り戻したカ?」

 「あぁ、色々とありがとうなリンリン。何だかんだで身体が覚えてた。」

 やっぱりADバイトに比べたら俺はこっちの方が好きだな.......。

 まぁ、こっちでは芸能人には会えないけど.....。


 「もう、ホント大変だったんだからナ。ケントのせいで!また今度、私にお礼してもらうヨ!」

 「わかった。わかった。今度な......。」


 シフトに穴を空けたのはほんとに申し訳なかった........。

 でも彼女とそのファンが悪いわけであって俺は別に.......。

 

 ミキはそんな危ないファンなんて早々いないとか言ってたけど、榊とかを見ていたらやっぱり暴走した柊ファンがいたに違いない。いくら考えてもそれぐらいしか俺の謹慎の理由は思いつかないしな.......。

 

 まぁ、結果として関係ないリンリン達に大変な思いをさせてはしまったのは事実だろうからすまなかったとは思うけどな......。


 「ありがとうございましたー。」


 でもそれにしても、いつも通りの眼鏡のままで接客していいって楽だな......。

 前髪のおかげで気持ちも落ち着くし。

 当分は主任がそのままでいいって言ってくれた。

 ありがたい。ラッキーだ。正直ずっとこれでいい......。


 「あと、パンケーキの女のことについても仕事の後に詳しく聞かせてもらうからナ」

 「え? パンケーキの女? ってあ......」


 そうだ。山本のアレ......完全に自分の中でなかったことにしてた。

 柊さんが何か画像を持ってたアレだ。そうだ。あれは何だったんだ。

 何か渋谷さんとかも知ってたし。何でだ......。

 逆に俺が詳しく聞かせてくれよ。アレはどういうことだ。

 何だあの画像は?結局彼女も答えてくれなかったし......。


 「あー。間宮くんだー。」


 え? ってあ......。


 「バイトてここでしてたんだー。久しぶりー。最近間宮くんが全然来てくれないだからアリス寂しがてるよー」

 

 ア、アリスママ......。な、なんでここに......。


 「ってか日本語.......。」

 ペラペラ......?


 「あー。確かに家ではずとドイツ語だったけ。ふふ、私、昔にも一時期日本にいただから結構しゃべれるんだー。でも感覚的に喋れてるだけだから、教えろて言われたら全然教えれなくてアリスにも苦労かけさせちゃてるんだけどねー。」


 確かに、会話の発音とか句読点の有無とかはところどころアレだけど......でも普通にうまい......。

 

 「おいケント。だれダ.....この綺麗な人。」

 「あ、あぁ.......クラスメイトのお母さん。」


 「わー。私が綺麗な人て。誰よ。この可愛いこ。なに?これ何て読むの?」

 「あ、リンリンです。」


 「わーリンリンちゃん言うんだー可愛いねー。」

 「ケント.......この人、いい人ネ。」

 ........それは良かったな。


 「ん? ところでリンリンちゃんは日本人? あまり日本で聞かない名前ね?」

 「あ、中国から来てますヨ。」


 「あーそうなんだー。へぇー。ってえ?」

 ん? どうした俺の後ろに何かあるのか?

 

 「え? ミチ?ミチーじゃないの?え?」


 ん?

 すると背後からもすぐに声が聞こえてくる。 


 「え?エリー? エリーじゃない エリー!」


 は?主任?

 気がつけば唐突に主任がカウンターの俺の隣に。


 「久しぶりね。ミチー!」

 「こっちこそほんと久しぶりよ。エリー!大学ぶりね!」


 え? 友達?

 ミチー? あぁ、主任の名前が美知子だからミチーか。

 って大学? そうかアリスママは昔に日本に留学でもしてたのか......。

 へぇー。


 「ほんっと久しぶり。え? ここに来たのは偶然?」

 「うん。偶然。偶然。娘のクラスメイトの間宮くんがたまたまいるのが見えてね。」

 「えー。娘さんいるんだー。って今また日本に住んでんの? しかも間宮くんの友達? へぇー。」


 「あ、そうだ。ちょうど私休憩に入ろうとしてたとこなの、こんなところで立ち話もアレだし、ちょっと外で色々と話そうよ。エリー。」

 「お、いいねー。話そう話そうミチー。ほんと久しぶりだー。」


 「じゃ、間宮くんとリンリンちゃん。私休憩入るからよろしくね。もし何かあったら隣のカフェにいるから呼びに来てね。」

 「あ、はい。」


 へぇー。感動の再会と言うやつか......。

 アリスママが主任の友達だったとは.....世間って意外に狭いもんだな。


 「でもほんと綺麗な人だナ......あの人どこの人ネ。ケント。」

 「ん? あぁ......ドイツみたいだぞ。」


 「ふぅん。ちなみにさっき娘って聞こえたケド、仲いいのカ?」

 「え?」

 仲? どうなのだろうか.......。

 「んー? 普通かな。」

 アリスは俺のことをどう思っているのだろうか。

 別に俺はアリスのことは嫌いじゃないけど、友達かと言われたらよくわらない......。


 「それで可愛いのか? その子?」

 って近っ。


 「ちょ、リンリン、近い......。」

 「あぁ......ごめんヨ。そうだ。仕事中だった。」 


 「まぁ、普通かな.......」

 普通に美人だな.....まぁ、あのお母さんの娘だしな。


 「なんだよそれ。ケントの普通はいつもよくわからないからナ。ただあのお母さんだ。絶対美人の子ネ。くっ.......」


 って、何機嫌悪くなってるんだ。リンリン.......  

 やっぱり女の子はよくわからない。


 「ってあ、いらっしゃいませー。ポテトのMと____」




 _______それにしても、今日は客が少ないな。

 まぁ、復帰初日だしちょうど良いか。


 ってあ、主任が戻ってきた。

 何かニコニコしてる.......。


 「あー楽しかった。」


 まぁ、その顔で逆に楽しくなかったって言われたら怖いしな。


 「ふふ、まさか間宮くんがドイツ語話せるなんてねー。やっぱ君スペック高いねー。」

 いや、ドイツ語もちょっと話せるだけだし、スペックは全く高くない。  

 なんせぼっちだからな......。

 アリスママと一体どんな話をしてきたんだよ......この人。


 「いえ、全く。」

 「またまたー。すぐ謙遜しちゃうんだからー。」


 謙遜ではなく事実だ......。 

 それにしてもよっぽど楽しかったのだろうか。すこぶる機嫌がよくなったな主任.......。


 「ま、そんな間宮くんにはとりあえずここでも教育係についてもらうから宜しくね。ふふっ」


 「え?教育係?」


 え? 

 何故かそう言って主任から肩をポンポンと叩かれる俺......。


 「へ?」

 

 「うん。とりあえず夏休みの間だけエリーの娘さん、えーアリスちゃんだったけ?ここで働くことになったから。ふふっ、頼むね間宮くん。」


 「え.......は?」


 「ふふっ、リンリンに加えてアリスちゃんも加わったらこの店。さらに売り上げ伸びるぞー。」


 「え.......。」

 まじか........え?


 尚も目の前には満面の笑みを俺に向けている主任......。


 「ケ、ケント.......後で話したいことがあるネ。仕事終わったら絶対待っておくネ.......絶対ヨ。絶対.......。」


 隣を向くと、何故かリンリンがまた機嫌を悪くしている光景も映り込む......。


 え、ま、まじか.......。

 別にアリスは嫌いじゃないけど........。 

 

 まじか.......。


 え?


 え?

 

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