第76話【夏休み 田中とラーメン②】


 「.......。」

 「ふふ、田中くん。グッドジョブです。いい子、いい子。」

 「へへっ.......。」


 た、田中。

 お前、どういうことだ.......。


 今、俺の目の前には柊沙織に頭を撫でられて鼻の下をこれでもかと伸ばしている田中一郎。


 「わー美味しそうな豚骨ラーメン。ふふ、ケントくんも豚骨好きですか?」

 「はい......。」

 

 で.......これは何だ田中。

 

 「ま、間宮くん。そんな怖い顔で僕を睨まないでくれよ。僕もびっくりしたんだよ。さっきそこでたまたまばったりさおりんと出くわしてさ。彼女一人でラーメン食べようとしてたんだよ。」


 「........。」


 何だよ。その棒読みは......。

 そして一人でラーメン。別に良いじゃないか.......。


 「で、僕が間宮くんと来てるって言ったら彼女も一緒に食べたいって言うからさ。断れるかい? 断れるわけがないよね。 だから僕は何ひとつ悪くないよ。」

 

 んで何で急にそんなに強気なんだよ田中........。

 

 「それに間宮くん。この大スターのさおりんと一緒にご飯が食べれるんだよ。これがどういうことかわかるかい? CD10000枚買っても普通はできないことなんだよ!」


 普通はまずCDを10000枚も買わない.........。

 そしてそのドヤ顔を止めろ.......田中。


 「僕のおかげだね。間宮くん。感謝してよね。」

 

 「........。」

 おい、田中。お前のリュックからちょっと見えているそのサインは誰にいつ、どこでもらったサインだ.......。

 まじでこいつ......。

 

 「ケントくん。やっぱり嫌でしたか.......。」

 そして目の前にはそう言って少ししおらしい顔をしている柊さん。


 「いや、別に.......そんなことは。というよりあなたがいいんですか?柊さん。」 

 俺達みたいな一般人とおかしいだろ........。

 一体彼女も何を考えている。

 最近ちょっとおかしいぞ......。あなたも。


 「ふふ、アイドルだってラーメンぐらい食べますよ。」

 

 いや.......そういうことではない。


 「さあ麺が伸びないうちにさっそくいただきましょう。あと、私のことはさおりん。いや、沙織でいいですよ。ふふっ同い年じゃないですか。」


 「........。」

 

 「その代わり......ケンちゃんって呼んでもいいですか?」


 「........え?」

 ケンちゃん.........?


 「いいですよ。」


 おい........。何勝手に返事してんだ。

 田中........。お前まじで一発殴るぞ。


 「やったー。嬉しいです。ケンちゃん。」

 そして目の前には満面の笑みで拍手をしている彼女.......。

 

 おい........柊さん。

 どこからどう見ても今返事をしたのは俺ではなかっただろうが.......。

 まじで何だ........意味がわからない。


 「さあ食べましょう」

 「うん。食べよう」

 「........。」


 「わー本当に美味しいー。ケンちゃんも美味しいですか?」

 「.......。」


 「おい、間宮くん。返事。」


 う、うるさいぞ.......田中。

 小声で言ってるつもりかもしれないけど。

 まる聞こえだ.......バカ。


 「はい..........美味しいですね。柊さん。」

 言われなくても返事ぐらいできるわ。


 「もう......沙織でいいって言ってるじゃないですか。ケンちゃん。」


 本当に何だこの状況。

 そして何だその上目遣い.......。


 いつの間にか完全に俺はケンちゃん.......。


 そして目の間には完全にプライベートなトップアイドル。


 もう色々といきなりで、脳が状況に追いついていないけど........。


 田中........テメェはほんとにまじで。


 でも本当に何でトップアイドルの彼女が俺らとプライベートでご飯なんて......。

 おかしすぎるだろ.......。


 ほんと何だこの状況。


 そして........味がしない。

 それはそうだ。おかしいからな何もかも。


 「ふふ、ケンちゃん。煮卵好きなんですよね。私のあげます!」

 今度はそう言って俺の丼ぶりに煮卵を移してくる彼女。


 「え.......あ、ありがとうございます。」


 「はい。って言うか同い年ですし、もう敬語もやめませんか......ふふっ」


 「そうですよね。さおりん。」


 「よし、決定。敬語はなし。ケンちゃんも絶対だよ。」


 「......。」

 

 いや、今回も何も言ってないだろ......俺。


 「ふふっ、田中君とケンちゃん。ほんとに美味しいね。」 


 「うん。」

 「はい......。」


 「ケンちゃん......。敬語。」


 「うん......。」


 「ふふ、そうそう。」


 「........。」

 

 んでそれ。写真撮ってないよな.....田中。

 

 「おい.....。」


 「いや、撮ってないよ。」

 そう言ってスマホをポケットにしまう田中。


 いや.......まだ何も言ってないだろ。

 百パー撮ってたな。お前......。


 おい.......。


 まじで何だよこれ.....。


 「.......。」


 おい.......。

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