第48話【月曜日】


 月曜日か......。

 おそらく、大丈夫なんだよな......。


 一応用心はしていくか。

 はぁ.......せっかく修学旅行が終わったっていうのに何だよこれ。


 _____とりあえず、周りが気になってしかたがないな。

 でも今のところ、いつもと変わりは全くないな......。


 さっきから結構な数の男女と道路ですれ違ってはいるが特に何もないし。

 やっぱりミキの言っていた通り、なんだかんだで大丈夫そうだ........よな。


 ってか今日は眼鏡がよく曇るな。

 はぁ......。


 「間宮健人!」

 「え? 」

 

 人の動きに敏感になっている俺は、すぐに反射的にその声がしてきた方向へと振り返る。


 な、なんだ渋谷さんか。

 驚かさないでくれ......。


 そして俺の隣へと並んでくる彼女。


 「すごいことになってるじゃない。ふふ、やっぱりあなたは規格外ね。さすが間宮健人。」

 何がだよ.......。ってか笑いごとではない。


 「もしかして、柊沙織さんと何かあったとか.......?」

 「あるわけないだろ.......。」

 うん.......。ない。


 「というか昨日はドクマナルドにいなかったじゃない。ふふ、ほんと大変なことになってたわよ。そのせいで常連の私が入れなかったじゃない。」

 え......? 行ったのか?


 「そ、その話、詳しくきかせてくれないか?」

 た、大変なことってまじで何なんだ。

 リンリンも詳しくは教えてくれないし、まじで何なんだ。


 「ふふ、さあね。自分で確かめてみたら? まぁ、教えてあげないこともないけど、それなりのお礼はしてもらうわよ。それなりのお礼。」


 だから俺は自宅待機でバイト先には行けないんだよ......。

 それに、ミキはああ言ってたけど、さすがにまだ怖いし......。

 って、それなりのお礼って何だよ。

 

 って、なんでそんなに顔を近づけてくる。


 「ふふ、それじゃ。ま、とりあえずその眼鏡は外では外さないことね。」

 「って、え.....おい待って」


 そう言って彼女は先へと足早に歩いて行ってしまった。


 まじで何なんだよ......。

 まじで.......。


 というかまじで教えてくれよ。

 いつもなら喋らなくていいことまで喋ってくるくせに。


 はぁ.......。



 ______「糞、誰だよ。このさおりんと一緒に映ってる糞野郎は。ってかまじかよ。さおりんもあの近くにいたのかよ。まじで会いたかったんだけど、糞、糞、糞、こいつ許さん。何でここにいるのが俺じゃないんだよ!」

 「俺なんてCD何枚も買ってんのにさおりんとの握手券すら当たらねぇんだぞ、何だよこの不公平。」

 「ほんと、こいつラッキーボーイだよな。ま、俺はミキちゃん推しだから別にいいけどよ。」


 今、約一週間ぶりに机の上で寝たフリをしている俺の耳には榊や守谷たちの口から漏れ出る騒音が聞こえてくる......。


 ミキ、ちょっと話が違うんじゃないか......。

 物騒なこと言っている奴らがすぐそこにいるんだけど。

 ってか何回『糞』って言うんだこいつら.......。


 はぁ.......でもやっぱりその画像の人物が俺だとは気づいていないんだな。

 ほんと不思議だな。


 まぁ、そのおかげで命びろいはしているけどな。


 「ねぇ、でもほんとこの男の子、イケメンよねー」

 「うん、ほんとにかっこいい。付き合いたい。一目惚れした。」

 

 ん、何だ女子は女子で騒がしいな。

 どっかのアイドル俳優の話でもしてんのか?

そう言えばちょうど昨日、ジェニーズから新しいグループがデビューしたんだっけ?

 きっとそれだな。

 ほんと女子ってジェニーズ好きだよな。


 あぁ......それにしても今日はほんと、いつにも増して騒がしいな。

 ま、修学旅行明けっていうのもあるのかもな。はぁ.......。


 「ま、間宮くん。」


って、うぉっ

 そんなことを考えていると、俺は急に耳元で女性にささやかれる。


 そして顔をあげると、そこにいたのは山本サヤ。


 「どうした......。」

 そんな至近距離からささやかれるとびっくりする。

 特に今の俺は神経質になってしまっているんだから.......。


 「た、大変なことになってるね。大丈夫......?」

 大丈夫とは言われたけど、実質俺もよくわからない。

 あいつらの騒ぎようを見る限り、やっぱり大丈夫じゃないんじゃないか?

 まだ糞糞言ってるし......。


 「や、やっぱり、間宮くんもさおりんとか、ああいうアイドルが好きなのかな?」

 ん?別にファンとかではないけど。

 音楽とかはよく聞くかな......。

 テレビつけるとよく出てくるし。


 「ん? 普通かな。嫌いではない。」


 「そ、そうなんだ。も、もし、じゃあ、さおりんの髪型とかに私がしたら似あうかな........。」

 ん? いきなり何なんだ。その質問。


 「いや、今のままでいいだろ.......。普通に似合ってるし。」

 というか、そんなことより俺はいつまでバイトに入れないのだろうか......?

 

 「そ、そっか。わ、わかった。ありがと。」

 

 ん?結局何だったんだ......。


 いつの間にか俺の机の前から静かに去っていく彼女。

 何故か髪を執拗に触りながら.......。


 あと、山本。ちょっと顔赤くなってなかったか?

 あいつも風邪だろうか?

 俺も正直、北海道から帰ってきてちょっと風邪ぎみだ。

 何か、もうこんな時期なのにまだ雪が残っていたところもあったし。


 向こうの人ってすごいな......。


 って、うぉ。


 ((まーみーやーくん。どうしたんですか。何か元気ないですよ)) 


 そんなことを考えていると今度はアリスが俺の目の前には現れる。


 ほんと、いつもアリスは笑顔だな。

 さすが、一部の奴らから天使って言われているだけはあるな......。

 

 ((いや、ちょっと、風邪と他にも色々あってな。))

 ほんとに色々。


 ((え、何ですかそれ。私、間宮くんの相談ならいつでも乗りますよ。))

 また、顔が近い......。

 ち、ちょっと距離感を......。


 というか........学校にもそれ付けてきてんのか?

 俺があげたアクセサリー......。


 ((というか.......それ、いいのか?))

 そう言って俺は彼女の首元のアクセサリーに指を指す。

 校則的にどうなんだ......?


((ふふ、間宮くんがくれた物ですよ。いいに決まってるじゃないですか。さっき校門で校長先生も褒めてくれましたし。))

 

 おい、校長......。

 まぁ、校長がいいのならいいのか.......。


 ((とりあえず、この前も言いましたけど、いっつも間宮くんにはお世話になってるんですから、いつでも私に悩みがあったら相談してくださいね。))

 そう言って彼女はまた俺に天使のような笑顔を向けてくる。


 優しいな......。


 ((あぁ、ありがとう。))

 ((はい!))


 そして彼女もどこかへと走り去っていった。

 元気だな。


 はぁ.......とりあえず、またいつもの学校生活か。

 

 ミキが言っていたことが嘘ではなければだけど。


 とりあえず、ちょっと今日は本当にそっちのことばかりに気がいってしまって何も他のことは考えられそうにない。


 まぁ、見る限り、確かに俺の考えすぎな部分はあるんだろうけど。


 そんなことを思いながら俺はまたいつものように机の上に頭を沈める。


 はぁ.......とりあえず、今日ももう帰りたい。


 まだ授業も始まっていないけどな.......。


 はぁ.......。


 まぁ.......やっぱり大丈夫そうかもな。

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