第105話 灰のリタ
突如現れた灰色のローブを纏いしリタ。しかも、顔立ちやローブの膨らみから明らかにティアと同じくらいの年齢に見える。
そんな彼女は灰色の炎を手に象ってそれを剣のように振り回してくる。なんの技量も感じないただの力強い暴力。
──ブンッ!
「タクマさーん! 随分お疲れのようですねぇーー!!!」
「そう言うお前はっ! 魔術師から、剣士に──転職かっ!?」
ワンとの戦闘で受けた全身の傷は確かに完治したけど、それでも体力は元には戻らない。
それにこの灰炎剣はワンの一撃に近い火力、ワンと連続で2戦してるようなものだ。
「ふふっ、そうです。転職したんです!」
「嘘こけっ! 1度決まったジョブは死ぬまで変わらない、何をしたんだ!」
俺の紋章術師はあくまで勝手に呼んでるだけで、実際は印術師のままだ。これについては他の"至る者"も同じのはずだ。
例外はティアだ。生まれの段階から神寄りだからある程度は法則をぶち破ることができる。それでも神子から月光の神子に変わっただけ、リタのように容姿や攻撃性能が大きく変質するような変化はあり得ない。
「自分で自分を産んだだけですよ? 決まったジョブが変わらないのなら、生まれ変わればいいだけのことなんです」
「──い、意味がわからん」
言ってることの意味がわからんが、今のリタは多分灰色に由来する何かの影響を受けてるに違いない。
例えばよくゲームに登場するイフリートは炎の魔神、それ故に炎に大きく影響を受けている。
つまり今のリタは終末の獣、いや、悪神モルドの属性を得ていると予想できる。
「弟子は師匠を越えるもの……今日であなたを倒して見せますよぉっ!」
「──ちっ!」
灰炎剣を両手に持って連撃を繰り出してくる。剣技だけならナーシャの親父さんの方がはるかに上だ。避けるのは容易い、でも──。
──バシュッ!
「当たったぁっ!!!」
深くはないが腹に一撃、受けてしまった。炎っぽいのに熱くもないし斬られた身体は微塵も焦げていない。
ワンから託されたから殺すことはできない、だけどこのままじゃ今のように少しずつ被弾してしまう。
恐らく突破口は弱点属性だ。それを突けば少ない力でリタを無力化できるはず。だけど、地水火風の
取り敢えずアルフレッドの記憶の通り、光属性で攻撃してみるか。
闘気で剣の表面に光属性を付与していく。そして
──ガンッ!
「──っ!?」
剣と剣がぶつかった瞬間、リタの剣が形を崩しかけた。狂気的に笑い続けるリタの表情が変化している。
「お、少しだけ剣が揺らいだな」
「苦手ではありますが、弱点ではありません!」
剣を一回り大きくして斬りつけてくる。
──ガンガンッ!
炎は先ほどのように揺らぐことはなく、再度劣勢になってしまった。いや、それどころか僅かな勝機を見せられてリタは暴走気味に剣を振りはじめてる。
「はは、ははははは! あなたには微塵も勝ち筋があってはならないっ!」
マズイ、一撃が更に重くなった。わりと大きい
「お前が認められようとしてるワンは、死んだんだぞ」
「──ん? 何を言ってるんですか? ここにいますよ? "ネクローマ"」
リタの呟きのあと、地面から紫色のワンが現れた。驚きのあまり声が出ない、厳重に保管されてるはずの死体が地面から現れるなんて、あり得ないだろ!
「私は先程驚きました、そして今はタクマさんが驚いてる、驚きのキャッチボールです。次はあなたが驚かせてください、できそうには見えませんが。あ、はははははは!」
明らかに正気ではないな、だがそのおかげで攻撃も荒くて助かってる。
『ヴヴヴヴ……』
「お父さん? ……そう、じゃあ頑張ってみて!」
ワンと思われるソレは紫の剣を構えて突進してくる。上段からの振り下ろしを
ワン(仮)は呆気なく吹き飛ぶが、すぐに攻撃の後隙を狙ってリタが斬りつけてきた。
「殴ったのは、お前が来るって思ってたからだよ!」
「──え?」
"
リタの剣が
「──痛っ!」
リタは膝を着いてこちらを睨んでくる。守っていた灰色のローブは所々剥がれて素肌が見えてしまっている。
「攻撃の隙をどれだけ減らすか、そしてその隙をチャンスにする工夫をしろ、俺はそう教えたと思うけどな。剣と違って殴打は隙が少なく次の攻撃に備えやすい、考えればわかることだろ?」
リタは悔しそうな表情を浮かべ、灰の炎で壁を作りながらバックステップで距離を取る。そしてワン(仮)を盾にするように前に出した。
「みんな私を子供扱い、敵も、あなたも、そしてお父さんさえも! 挙げ句に未来だなんだと言って置いていかれる始末……もうウンザリよ!」
「そりゃ、お前のことを想って残したんだろ? だってさ、蜂起したあとあのままお前が学院に残ってたら、酷い目に遭ってたかもしれないだぞ?」
この世界は割と腐ってる。テロの親族というだけで人質にされたり処刑される可能性だってあった。だからテロを起こした時点でリタを仲間に引き入れて、そしてある程度働かせた上で東に置いてきたんだろう。
それでも東でリタの顔を知る人間がいるかもしれないから、それが心配で最期に俺に託した、まぁ俺の想像に過ぎないが。
リタを守るように剣を構える紫のワン(仮)、改めてその細部を観察する。
このワン(仮)は腐臭もしないし強さもそこまでじゃない。もしかしたら、ワンの形をした魔力の塊かもしれない。
「"お父さん"私の傷が回復するまで、死力を尽くして時間を稼いで!」
『ヴぁぁぁぁっ!』
くそっ! リタは実際に死体を見た訳じゃないから俺の言葉とか信じてない。この魔力で出来た紫の塊にワンの要素なんて微塵も存在しない。
拓真は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。