第103話 王宮での激戦
玉座の間ではスキルと魔術が飛び交っている。
「──”
ワンの攻撃を反撃効果を付与した
「──タクマ殿、効かないというのがわからないか?」
ワンの身体は波動といわれる不可思議な力で護られているので、ワンの猛烈な攻撃をかい潜ってせっかく攻撃を叩き込んでも
「どんな奴にも弱点がある、だろッ!」
隙の少ない、半ばやけくそな攻撃で振り払おうとする。
──ブンッ!
「おっと!」
ワンはバックステップで俺の攻撃を避けた、それを見た雪奈が俺と目を合わせる。今の攻防で一点だけ不思議な場面があったからだ。
「ティア、俺の攻撃のあとに俺ごと
「え、でも……本当に大丈夫、なの?」
「ああ、確かめたいことがあるんだ、頼むよ」
ティアは頷き、そして魔方陣に魔力をチャージし始める。
「相談は済んだのかな? いっておくが、時間を稼いでも無駄だ。トゥーとスリーは他の面子よりも実力が数段上だ、単騎でギルドマスターから逃げれるほどの実力は有している。もちろん私はこの人数を相手にしても楽に逃げきる自信があるがね」
「あんたは逃げきれない、何故ならここで俺たちに負けるからだ」
「言うが易し、現時点で君たちは一撃たりとも有効打を私に与えてはいない。そして君たちは少しずつダメージを受けている。このまま戦っていれば私が勝つのは明白だ」
ワンの言うことが正しいことはわかっている。傷はティアの”月桂”で回復できる、だけど失った血は戻らないし、生命力も少ししか回復しない。だが、十数合打ち合ってさっきの攻防でワンはおかしな挙動を見せた。
勝つことができるとしたら、その違和感しかないと俺は思っている。
「勝てるとしたら、君の
「いや、あれでもあんたのそれを突破できるとは思えないんでね、別の方法を取らせてもらうよ」
──ガンッ!
横からオズマが”パワースマッシュ・極”で斬りつける、当然ながらワンは黒い大剣で難なく弾いてオズマにガントレットによる殴打を加える。大剣、ガントレット、ともに薄青い波動が纏わりついていてそれが攻撃の1つ1つを強化している。
「──ッ!! ”パワースマッシュ・急”」
殴打が腹部に当たる寸前、オズマは後ろに引くのではなく逆に前進して即席のパワースマッシュを放った。それが功を奏したのか、オズマはザザッと後ろに少し吹き飛ばされる程度で済んだ。
「くくく、エードルンドの庭を守るだけはあるな、少々驚かされたが──」
最後まで言い終わる前にワンは背後をガントレットで殴りつける。
──ブンッ!
「カウンターが単調過ぎますよ?」
”読まれる前提”で雪奈は行動し、縮地で背後に回る。気配を察したワンは裏拳を背後に放つが、すぐにしゃがんだ雪奈はそれを避けることに成功した。そして雪奈は園田流・雪月花を開始する。
「──雪っ!」
氷属性を有した神速の抜刀はワンの大剣で防がれる。ワンの表情はここから少し焦ったような感じになっていた。
「──月っ!」
月を象った斬り上げ、ワンはガントレットで防ぐがそれは悪手と言ってもいい。これは防がれると火花ではなく敵の視界を阻害する粉雪が舞い始めるからだ。これにより、雪奈の次の花による8残像全てを防ぐのは困難になってくる。
「──花っ!」
8人に分裂した雪奈がワンに迫りくる。さて、これで倒しきれたらそもそもこんなに苦労はしない、俺はダメ押しの更に一歩手前の策を実行する。
「──"波動壁"!!」
雪奈の同時8斬撃が薄青い波動に直撃して吹き飛ぶ。そう、波動は一定ダメージを超えると吹き飛ぶ、だからワンはさっき俺の攻撃を避けたんだ。
そして再度波動を纏うにはそれなりに時間が必要で、その間なら攻撃は通用するということだ!
エリアルステップで一気に近付いて斬りかかる。
「この程度の修羅場、これまでも潜り抜けてきたわっ!」
ワンは地面の石畳を剥がして防御に使う、俺は石畳を蹴って上に飛ぶ。
「今だ、ティア!」
「任せて! "
薄青い色が再びワンの身体を覆い始める。
「まだ薄いが使うしかあるまい! "波動壁"!」
クールタイムが残っていても使用できる、意外だが予想外じゃない。それくらいやってのけなければ世界の中央を落とすなんて大それたこと、できるわけがないからだ。
ティアの極光がワンを飲み込み、そのまま背後の壁に大きな穴を空けた。地面もティアから壁にかけて真っ黒に焦げて普通の人間なら絶対に無事ではいられないレベルの攻撃力。
だが、天井に剣を突き刺して上からの視点で見ることができた俺にはワンがギリギリ未完成の”波動壁”で耐えているのがわかった。足で踏ん張って剣を抜きつつ降下する、ワンもこちらに気付いて大剣を構える。
恐らくこれが最後の一合となるだろう、もうワンには先ほどのような守りに徹した戦法は使えない。それをすればまた絶え間ない超連続攻撃で破られるのがわかっているからだ。この中の一人でも欠けたら恐らくワンの防御を突破するのに一歩足りなかった。やつの最大の誤算は月の神子まで超火力を持ってることを想定しなかったことだ。
ワンは黒い大剣の周囲に今までにない濃厚な青い波動を纏わせた。奴にとって最大の攻撃がくる予兆だ。
「
ワンの攻撃は剣の波動を螺旋状に回転させてこちらへ飛ばす竜巻光線のような攻撃だった。自由落下中の俺には回避不能、だけど俺には紋章術がある。
象るのは力の象徴である剣の紋章、使う
身体強化の印→身体強化『剛』
──迎え撃つは俺の秘奥義。
「”自作奥義・
俺の剣の周囲は魔功と闘気が二重螺旋となって渦巻いている。魔功は敵の放出系の技を解析、分解して闘気が同じものを再構成。端から見ると俺の剣がワンの秘奥義を吸い込んでるように見えるはず。
本当は盾の紋章で対抗するべきだった。
放出系相手では解析と分解、そして再構成が間に合わなくなるから正直不向きだ。だけど敢えてこれを選択した。この技は俺が初めてロルフを打ち破ったカウンター技、そしてその場に偶然居合わせたワンが俺に希望を抱いた始まりの技。
奴に引導を渡すなら、これにおいて他にないと俺は思うんだ。だって当のワンもこの技を見て少しだけ笑っているようにも見えるからだ。ワンの魔力が尽きるのが先か、俺の分解が追い付かなくなるのが先か、互いの信念をかけた勝負なんだ……。
凄まじい圧が玉座の間で渦巻いている。柱や壁はひびだらけ、雪奈たちはクールタイムから動けないでいる。だが、レベルの差が影響しているからか俺の分解が追い付かなくなりつつある。
カウンターに失敗した場合、剣に蓄積したワンの魔力と現在進行形で発動中の秘奥義の2つをくらうことになる。そうなれば確実に助からないのは明白だ、もっと俺に地力があれば良かったんだが、そろそろ臨界が近そうだ。
こういう時、18の主人公なら熱血でなんとかしたかもしれない。だけど俺は社会の洗礼を受けて諦めるということを知ってしまった存在、気持ちが徐々に負け始めていた。
そんな時、何故か声が聞こえてきた。
”兄さん、諦めないでください”
”お兄ちゃんならやれる”
俺の妹たちの声だ。実際に口を動かしてるわけじゃないのに直接頭に響いてくるこれは一体……?
よく見ると俺の身体から雪奈へなんとなく線が繋がってるような気がする。それだけじゃなくて、さらに雪奈からティアへ、そしてティアから俺へまるで何かが循環するように繋がっている。
唐突にステータスが開いて
”
それを確認した瞬間、剣を握る俺の背後からティアの眷属たちが手を添えてきた。とても温かい、それでいて優しさに満ち溢れた不思議な感覚。
すぐに変化が現れた。解析と分解、いや、ほぼ全てが押し返し始めたのだ。そしてとうとうワンの魔力が尽きた。
「これで、終いだあぁぁぁぁ!」
俺の剣からワンへ向けて同じ秘奥義が放たれる。波動の竜巻はワンを飲み込んで1階の中庭に巨大なクレーターを生み出した。
約7階の玉座の間から中庭を覗き込むと、クレーターの中心でガントレットを構えた状態でワンは立っていた。
「兄さん、降りて止めを!」
「いや、ワンはもう戦えない。あのガントレットだって、時期に──」
俺が言い終わる前にワンのガントレットは粉々に砕けて地面に散らばった。ワンはそのまま大の字になって後ろに倒れ、そして血を吐いた。
それを見ていた
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