第96話 リタ強襲
ダグラスの粋な計らいで、俺達は飛竜に乗って中央都市国家ルクスに引き返している。
火竜はダグラスが使役しているためその眷属である飛竜はダグラスの支配下にあると言っても良い。
そこで疑問が1つ発生する。ダグラスは何故飛竜を戦闘に投入しなかったのか? っと。
空の上にいる俺達にはもう聞く術はないが、きっと勝っても負けてもルクスに送り届ける算段だったのかもしれない。
とは言え、いくら飛竜でショートカットしても数日単位で休み休み向かわないといけない。
「遠いな……これでも世界は縮小してるのか」
俺の声が聞こえたのか、はたまた戦闘ではない為かはわからないが、ルナが武装解除して俺の頭に乗ってきた。
「そうニャ、今フォルトゥナが自我を削って世界のリソースを北の結界に費やしてるニャ」
「いつになったら
「小さな草から人間のデータまでランダムに更新してるから、タクマの欲しがる情報は受け取ってないニャ」
「俺の知りたい情報、わかるのか?」
「障気大量発生から行方不明のタケシの事だニャ」
当たりだ。流石に400年も経ってるから生きてはいないと思うが、剛がキーパーソンなのは間違いないと俺は思ってる。
魔族の幹部足るサテュロスの話では、北とその他を隔てる結界の向こう側は障気が蔓延していると言っていた。つまり、剛は障気の源を根絶できなかったということになる。
俺としては最後のサポーター、フィリアと運命を共にしていたと思いたい。そうじゃなければ剛が報われない……。
「ニャニャーーー!」
思案に耽っている最中、ルナが頭上で大声を上げた。
「どうした、飯でも欲しいのか?」
「何かが下から来るニャ、みんな警戒するニャ!」
ルナは千里眼を持っている。と言っても毎日1cmずつアップデートされてるらしいが、それでも俺の闘気の索敵範囲の方が勝っている。
俺が反応してないのに、ルナがわかる訳がないんだ。
「虫が来た、とかだったら1ヶ月雪奈がエサ係になるからな?」
その言葉に頭上のルナは震えるが、それでも引かなかった。
「索敵はタクマに負けるけど、悪意と言った類いの探知はルナの方が上ニャ!」
俺は冗談を止めて雪奈達に
他の飛竜に乗っている雪奈達の前に俺が魔力で下から攻撃が来るかもしれないと、空気を振動させて伝えた。
雪奈とティアは一緒に乗っていて同時に頷くのが見えた。そして少し後ろを飛んでいるオズマも頷、ちなみに彼は誰も相乗りをしたがらないのでいつも1人だ。
「今だ、回避行動を取れ!」
俺の言葉にそれぞれの飛竜が
その2つに込められた魔力の総量は同等……つまりは二重属性持ち、氷炎の魔術師か!
「みぃぃぃぃつぅぅぅぅぅけぇぇぇたぁぁぁぁぁ!」
「その声は──リタかっ!」
炎と氷の火線を次々と俺達に向けて放つ魔道鎧は、かつて見たノーマルタイプと違って様々な武装が追加されている。
「タクマさん、リタの声……正気を失ってるみたいです!」
俺の腰に手を回していたライラが星屑の槍を手にするのがわかった。彼女の旅の目的はリタを止めること、例え傷をつけてでも止める……そんな気概を背後から感じた。
「ルクスが見えてきたってのに、こんなところで攻めるか!」
飛竜が反撃で火球を放つが、当然のように魔道障壁で防がれる。この高度まで上がってあれだけの魔道具を使用すれば、中等部のリタは魔力切れを起こすはず。
「無駄無駄ぁぁぁぁ! そんな攻撃、効きませーーーーんっ!!」
全く魔力切れを起こす気配がない。隙を突いて
ドガァン!
魔道障壁に剣が触れた瞬間に反撃効果で爆風が発生したがビクともしない。
だがこれは黒煙での目眩ましが目的だ、本命は下に回り込んだティアだ。
上方向には何の障害もない、つまりティアが全力全開で魔術を放てるということだ。と言ってもリタは元クラスメートだ、ティアの裁量である程度加減するはずだ。
「
光の奔流は黒煙ごと空間を呑み込んだ。
「──やっぱり無理か」
散布した闘気に風を付与して黒煙を晴らす。すると、予想通り魔道鎧は存在していた。威力から換算すると通常の魔道鎧なら完全に消失してもおかしくないレベルだ。
さすがに無傷というわけにもいかず、武装の一部は溶けており、機体表面は所々放電現象が発生していた。
「……どうして、どうして勝てないのぉぉ! ルークとか言うのにも勝てない、リタにも勝てない、オルビスの村では優秀だったのに!!」
「……リタ、もう止めましょう? 私と一緒にパルデンスに帰ろう?」
「嫌よ! アンタは私にとって最初の汚点、絶対に負かすと決めてるの! それを払拭しないとお父様に申し訳ない……だから、次は勝つ──どんな手を使っても!!」
「──待って! リタ、待って!」
リタは魔道銃をこちらに投げて背面にマウントしていた狙撃銃のような物でそれを撃ち抜く。
破壊された魔道銃は周囲の空気を圧縮して、すぐにそれを解放した。
「──クソッ! みんな衝撃に備えろ! "自作奥義・
紋章術がギリギリ間に合った。巨大な盾が顕現して飛竜はその影に隠れる。間に合わなかったら飛竜は衝撃でコントロールを失って、俺達は地面と激突していたかもしれない。
「……リタ」
盾を解除するとリタはすでに撤退済みで、ライラは豹変したリタを思って俯いていた。
「タクマさん、何でリタはあんなことになったんでしょうか?」
「魔道鎧に精神を蝕む機能はない、設計図にはそう書かれてた」
「じゃあ何が原因なんでしょう……もしかして、私が彼女の心を病ませてしまったんでしょうか?」
「いや、切っ掛けにはなっただろうが、あれは明らかに変わり方がおかしすぎる」
ティアと雪奈が横に並んできた。
「お兄ちゃん、私──リタちゃんから尖兵の気配を感じたの。それも、とっても濃い気配だった」
尖兵の気配? そう言えば、
「兄さん、1つだけ思い当たることがあります。ルギスさんの研究資料を押収した際、1つだけ所在不明の魔道具がありました」
「魔道具?」
「はい、それは──
「悪神モルドの名を冠した石か……情報を総合するに、雪奈の考えが1番可能性が高いかもな」
「タクマさん、リタは手遅れ……ですか?」
「いや、リタは"殺す"とは言わずにライラの事を"負かす"と言っていた。まだ良心が残ってる証だと思う、だからきっと大丈夫さ」
ライラは腰に回す手を強めて背中に顔を擦り付けた。きっと友達のことが心配で堪らないのかもしれない。
俺は安心できるように手の上に俺の手を重ねてトントンと叩いてヒーリングリリィを流し込む。すると、すぅすぅと寝息が聞こえてきた。
その後、俺達は休息を取るべく近くの村へ降下することとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。