第93話 ダグラスとの死闘

 ドーム型の大広間、天井は火竜によって穴が空いていて夜空が顔を覗かせている。


 ──その中央で俺達は戦っている。


 ダグラスは大きなブーメランを投げて戦う戦闘スタイル。投げた後に攻撃を仕掛けてみるも、火竜のブレスによって進路を塞がれてしまう。


 このように、テイムした魔物と共闘して隙の無い戦い方をするので、中々押しきれない状況が続いた。


 ガンッ!


 ティアへ向けてブーメランが飛んできたのでそれをDeM IIデムツーで弾く、勿論地面に叩き付けるように、だ。


 だが、地面に落ちたブーメランが不自然な挙動をし始めたので直線上にいるオズマへ注意を促す。


「オズマ、武器が地面を這って戻る、飛べ!」


「うおっ! マジかよっと──一体どうなってんだ!?」


 地面に叩き付けたら運動エネルギーが失われるのでダグラスは武器を失う、その考えは甘く、何かに引き付けられるように勝手に回転して持ち主の元へ帰っていった。


 ダグラスは笑みを浮かべ、ブーメランの端を地面に突き立てて語り始めた。


「少し前の話だ。ある男がある学院にお弁当を届けに行った。だが男は驚いた、教室にも教員室にも人がいなかったからだ。人を探し回っていると、外から歓声が聞こえてきた。誘われるようにその場に行ってみると、1人の男と1人の老人が相対していた。どう見ても模擬戦の場面で、しかも試合は終盤戦となっていた。老人の対戦相手は絶対に負ける、ある男はそう思っていたが、周囲の人間は何故か対戦相手の男を応援しており、しかも勝ってしまったのだ。絶望を覆し、希望を見せられ、最後にその男はガッツポーズをして倒れた。ある男はそれを見て"今がその時"だと考えたそうだ──」


 ダグラスの話しは誰の事を指して、それが何を意味しているか、全く見当もつかなかった。


「一体何の話をしてるんだ?」


「いいや、特に意味はない。忘れてくれて構わない……ただ、こんなどうしようもない世界でそんな事があるんだなぁ~って思っただけだ」


 "ただ言っただけ"そんな印象を感じた。理解させるつもりが毛頭無い、ダグラスは因果に何かしら思うところがある……それくらいは俺達にもわかった。


 ダグラスはブーメランを構えてオーラを放ち始めた。


 今までのはゲームで言うところの"通常攻撃"であり、ダグラスの今の所作は明らかにスキルを使う為の"溜めチャージ"の状態であることがわかる。


「耐えろよ? "秘奥義ミスティクアーツ驚天動地グランドブラスト"!!」


 ──ダグラスは地面にブーメランを投げた。


 ブーメランが地面の中に入ると、周囲が突如として揺れ始めた。


「タクマさん! 地震が!」


「落ち着け、ライラ。これは多分奴の攻撃だ、とにかく地面からの攻撃に警戒しろ!」


「わかりました! では上に逃げ──きゃあッ!」


 ライラがヴァルキリーの特性で空中に逃げた途端、火竜がライラを爪で攻撃しようとした。だが、ライラは即座に空気中の魔素を蹴って地面に逃れた。


「空中には行かせねえってか? クソッ! どうすれば──」


 次第に揺れは大きくなって地面からはランダムに岩が隆起し始めた。避け損じれば串刺し、僅かな予兆も見逃さずにティアを抱えたまま回避しなければならない。


「お兄ちゃん、私避けれるから下ろして」


「駄目だ、これは近接系の勘、もしくは防御系の魔術がないと避けれない。攻撃か回復しかないティアじゃ無理だ」


 腕の中でしょんぼりするティアに心締め付けられるが、こればっかりは向き不向きがあるから仕方ない。


 他を見ると、雪奈もライラもなんとか避ける事が出来ている。


「タクマ、俺が親父をぶっ飛ばす! だから火竜をなんとかしてくれ!」


「──わかった」


 雪奈に目で指示を送ってオズマに合図した。手から魔術を放つ必要はない、雪奈は過去にそう言って背中から氷雪系魔術をスラスターのように放出させて飛んだことがある。


 その時と同じように飛んで、空中の火竜へ攻撃を仕掛け始めた。火竜は雪奈を落とそうとブレスを吐くが、園田流抜刀術でその全てを屠られてしまった。


「落ちなさい!」


 ──ガンッ! ドガンッ!


 雪奈の刀は火竜のサマーソルトテールによって弾かれ、失速し、雪奈は地面に落とされた。

 着地寸前で冷気スラスターを一気に放出して雪奈は隆起した岩を避けた。


「兄さん、ごめんなさい。"別に、倒してしまっても構わんのだろう?"ができませんでした……」


「雪奈はアサシンだから言わなくてよろしい。だが上出来だ、見てみろ。オズマは無事に打ち上がった、陽動成功だ」


 ダグラスは地面の中のブーメランを制御するので手一杯。火竜は雪奈の相手で手一杯、その間にオズマは遥か上空まで"パワースマッシュ"で飛んだ。


 そして今、オズマは空気を蹴って急降下を始めた。空の王者たる火竜が追い掛けるが、全く追い付かない程の速度。


 超加速からの"パワースマッシュ・極"……オズマは徐々に大きくなる父親のシルエットにこれまでの鬱憤全てを込めた。


 最早この時点でこちらの勝利は確定した。技を止めればこちらの総攻撃を受ける、火竜は雪奈が全力で押さえるから防御にもならない、多分次は"款冬かんとう"まで使うはずだ……。


 地面が安定したらティアの陽電子砲月下流麗・光条を受けることになる……秘奥義ミスティクアーツの硬直でそれを避けることは不可能だ。


「親父ーーーーーッ! 受けろぉぉぉぉぉぉッ!」


「クソボウズが、大傭兵を舐めるなぁぁぁぁッ!」


 ダグラスの足元からブーメランが飛び出してダグラスはそれを掴んだあと、防御体勢を取った。


 そして次の瞬間、オズマの大剣はダグラスのブーメランと衝突した。

 轟音が鳴り響き、ダグラスの足元にある地面は衝撃で大きく割れた。


 さすがダグラス、その両足は半ば埋まってるものの膝は折れていない。そしてオズマはというと、大剣から手を離して着地していた。


 右ストレートが丁度入る瞬間だった。


 バキッ! ドゴォンッ!


 デコピンですら"パワースマッシュ"を放てるオズマ、そんな脳筋の右ストレートが軽いわけもなく、ダグラスは身体をくの字に曲げながら吹き飛んでいった。


 ☆☆☆


 戦意がなくなったのか、火竜は大地に降り立ったあとダグラスを遠くから見詰めている。

 オズマは大の字に倒れるダグラスの横に立って見下ろしていた。

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