第73話 印術師と魔族幹部とダークエルフの族長
問題が全て解決できる提案ではないが、それでも無益な血を流さないで済む方法がある。日本ではできない、されど異世界ならではの流儀。
「俺の提案なんだがな、どうせ戦うなら益のある話しをしようじゃないか。どうせ捕虜とか取るつもりはないだろ?それに全滅するまで戦う、なんざ後始末を考えたらゾッとしないか?」
仮にダークエルフ側が勝っても衛生面を考えたら、流れた血やら死体やら処理に非常に困るはずだ。それはサテュロスたち魔族も同じはず、だとしたらここは異世界のルールで決めるべきだ。
「そこでだ。ここにいる俺とアンタらで戦って、負けた方が勝った方に従うってことでどうかな?」
敵の二人はしばらく考え、そしてヘイムダルが口を開く。
「勝利したあと、全員処刑するやもしれんぞ?」
「そりゃあ勝った方の特権だから仕方ないさ。でも、このまま戦ってアンタらが勝ったときに、たった二人しか生き残ってなかったら一族もなにもないだろ?被害は最小限に、がトップに立つものの考えだと思うけどな」
ヘイムダルは考え込み、次にサテュロスが口を開いた。
「ヘイムダル殿がそれを受けたとして、私が裏切る可能性もあるかもしれんぞ?そこのヴァルキリーの娘を洗脳した一族を信用するのか?」
ライラ護衛の際、俺と
「あの時、アンタの部下は戦闘で決着をつけようとした。手段はどうであれ、高潔さを持ったメドーナの上司たるアンタなら、約束ごとは守れるって思ったよ」
サテュロスも口に手を当てて考えに耽る。
『タクマ君、話しを勝手に進められても困るんだが……』
「このまま戦闘になって俺たちが負けて門を突破されたら里の中での戦闘になる。そうなれば接近戦の苦手なエルフに勝ち目なんてないだろ?ここにこの二人が到着した時点で、ここが最終防衛ラインなんだよ。それに、アンタらはラノベのエルフじゃないんだろ?人間に頼ったっていいじゃないか。見せてくれよアンタらのエルフを、さ」
『……そう、だな。ハハ、そうだったそうだった。私たちは勇者タクマ君の提案を受け入れよう。二人はどうかな?』
「異論はない」とヘイムダルが、しかしサテュロスは違った返答だった。
「左に同じ、と言いたいが。魔族で私の言うこと聞くのは2割くらいだ。何分、劣悪な環境で内部分裂が起きていてな、2割で構わないのなら賛同しよう」
全員が賛同後、戦闘は即時停止し、戦いにふさわしい場所へ移動した。森の中にある広大な草原、森の入り口側にはダークエルフと魔族が、そして里側の森にはエルフが待機し、それぞれの代表を見守っている。サテュロスたちの意向でラティスを参加させないのであればパーティで挑んでも構わないというこだった。
同時に二人相手にするのは厳しいのでパーティを分割して挑むことにする。
「雪奈と俺でヘイムダルを相手するから他はサテュロスを頼む」
「タクマ、大丈夫なのか?サテュロスの方が弱そうに見えるけどな」とオズマが。
「相手は2度ギルドマスターと戦って生還している。油断は禁物だぞ」
「へいへい」
次にティアが抗議をしてきた。
「ぶぅ~、セツナお姉ちゃんだけズルい!」
「他のやつだったら俺も厳しいけど、アイツだけには特効効果がある。確実に勝つためだ、頼むよ」
「うぅ、わかった。だけど、あとで言うこと聞いてもらうからね!」
こうしてティアは納得して配置につく、ライラは抗議もなく槍をヒュンヒュンと回してすでに翼を6枚まで顕現させている。マルグレットさんでも20歳過ぎてようやく6枚と言っていた。未踏領域でのパワーレベリングが飛躍的に彼女を成長させていた。
☆☆☆
全員が準備を終えると、その場を静寂が支配する。そして数瞬のうちに一陣の風が吹き、両者緊張が走る。
先に動いたのはサテュロスだった。原初の森で見た通り、漆黒の長剣に更に闇を纏わせて刺突を繰り出す。ガーゴイルの投擲が遅く感じるほどの超スピード、だが、それはオズマの大剣によって阻まれる。
”パワースマッシュ・極”
サテュロスのブラッドソードがただの剣士の初期スキルによって防がれ、放った本人は驚愕している。
「バカな!光属性もなしにこれを防ぐだと!?」
「へっ!俺はバカなんだよ!パワースマッシュしかできないからな!」
オズマがそのまま更に同じスキルを使うが、サテュロスは鍔迫り合いを止めて受け流しに徹する。レイピアに近い長剣故に手数でオズマを上回り隙ができる。サテュロスはがら空きの腹目掛けてブラッドソードを繰り出すが、輝く槍にて阻まれた。
「私を忘れてもらっては困るなぁ!オズマさん交代!」
オズマはその短い攻防の間に何度か剣を受けていた。もちろん掠り傷だがそれが敗北に繋がることもあるため交代し、ティアの月魔術・月桂で回復を受ける。
ライラは突進型刺突スキル・エーテルストライクを連続で放ち、サテュロスの闇を削っていく、当然サテュロスもそれで終わるわけもなく、魔力でできたコウモリを召喚する。
「キャアッ!」
ライラはコウモリの大群に襲われて機動力が落ちた。一応近距離スキル・パニッシュメントで散らしてはいるが、焼け石に水状態だ。
「ライラ嬢ちゃん、待ってろ!パワースマッシュゥゥゥゥ!」
最早パワースマッシュの極致、ライラを避けてコウモリだけを塵に還したオズマ、そしてそれを驚きの表情で見るサテュロス。
「化け物め……」
サテュロスの中でオズマの驚異度が上がったため空から攻撃するべく、魔族の翼で飛び上がる。普通の剣士であればここまでは飛んでこれない、ましてや大剣の資質を有する剣士はなおのこと鈍重である。
だが、その判断が間違っていた。
「ぬおおおおおおっ!”パワースマッシュ・極”!!」
驚くことに、オズマは地面をスキルで叩いてジャンプし同じ高度に達したとき、自身の後ろへ向けて再度寸勁の要領でスキルを放つ。
「更にっ!”パワースマッシュ・極”!」
横方向への強烈な衝撃波でオズマはサテュロスへと飛ぶ。続けて放たれるパワースマッシュをサテュロスは剣で受け止め、地面に叩きつけられた。
「お、己──っ!」
立ち上がったと同時にサテュロスは光の奔流に飲み込まれ、地に伏した。光の正体はティアの月光魔術”
ただ、さすがサテュロスと言うべきか、当たる直前に闇の魔力障壁で防いだらしく、ボロボロになりながらも立ち上がり両手を上げて降参のポーズを取った。
「ヤレヤレ、人間とは恐ろしい生き物だ。剣で空を飛ぶなど、いつも我々魔族、いや、他の種族を驚かせる存在だな。私は無駄なことをするつもりはない、このまま戦っても勝機はないだろうし、降参だ」
サテュロスを降したオズマたち、彼らは勝利の余韻を振り切り、すぐに拓真たちへと視線を向けた。
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