第41話 エードルンド魔道女学院中等部 3

 気が付くと、周りの生徒達が俺とリタの訓練を見ていた。恐らく訓練の形式を変えたことが理由だろう。他のペアは近接系のジョブも遠隔系のジョブも例外なく攻撃と防御を交互に行うターン形式なのに対して、俺とリタは発動の早い下級魔術で相手に隙を作らせてから強い魔術で攻撃するという、より実戦に近い訓練を行った。


 俺は今のところ闘気を極少量しか使用しておらず、機械剣も使っていない。リタが中級魔術を使う素振りを見せたらすぐに妨害を行い、なるべく中級魔術を使わせないように戦った。


 最初は棒立ちだったリタも”下級魔術・暴風”で転ばした辺りから避けることも覚え、今では走りながら魔術を放てるようになった。

 最初に『落ちこぼれ』と言ってたが、多分あと一ヶ月実戦で戦い続ければ俺は抜かれると思う。


 リタを見ると肩で息をしているのがわかった。そろそろ午後の授業も終わりなので少しだけ早いが訓練を止めて休憩することにした。


「リタ、大分戦えるようになったよな。多分すぐに俺を抜くと思う」


「そう、でしょうか?」


「俺とリタでは出力が違うからな。同じ下級魔術を使ったとしても、速度や威力に差が出てくる。今は実戦経験の差で俺がリードできてるけどな。リタは充分強いよ」


 リタは微笑んだあと俺に向き合って言った。


「タクマさんのおかげで少しだけ自信がつきました。ありがとうございます」


「安心するのはまだ早いぞ?明日からは接近されることも念頭に置いて訓練するからな?覚悟しとけよ」


 まだ忙しくなるんですか~?と言いながらも、その顔は最初の時のようなオドオドした表情は消え失せており、今以上に強くなれることへの希望に満ちた表情だった。


 さて、訓練も終わったし俺も帰るか。訓練場を出ようとする雪奈とティアに合流しようとしたところで後ろから奴に声をかけられた。


「はい、待った。お主、生徒じゃなかろう?な~に生徒に紛れて帰ろうとしてるんじゃ。あと1時間ワシに付き合え」


 このままロルフに見つからないように帰れたら良かったんだけどな。と言うのも、訓練中に途中からロルフの視線をよく感じていたからだ。

 みんな解放感があるのか楽しそうに更衣室に向かってる。そして俺はロルフと二人だけで訓練場に残されてしまった。


 ……はぁ。一体何するんだよ。


 俺は居心地の悪さを感じていた。まるで出来の悪い生徒が放課後に残されてるような、そんな感じだ。


「身構えんでいい。お主に2点ほど用事があったから残ってもらったんじゃ」


「用事?」


「1つ目、この間のライラ嬢の護衛の件……本当に助かった」


 うっ……。正直気持ち悪かった。俺の印象ではロルフはそう言う人間じゃないと思っていたからだ。そして何より似合ってねえ……。


「ああ、別に守れたから良いんじゃないか?俺はただアンタに雇われただけだし、それに相手の目的はアンタだったんだろ?」


「結果的にワシだったから良かっただけじゃ。もしライラ嬢が人質にされてたらと思うと親父殿に顔向けができん!」


 メドーナと言う魔族がライラを操ったとは言え、人質ではなくきちんと戦闘という形で解決しようとしたことから、魔族はそれなりのプライドを持ち合わせていたのだろう。


「もしもの話ししてたって仕方無いだろ?無事だったんだからそれでいいじゃないか」


 涙ぐんだロルフが俺に向き直る。


「タクマぁぁぁぁぁぁぁ」


 そして突貫してきた。俺は咄嗟に魔力剣を出し”自作スキル・反撃剣リベンジソード”を思いっきり叩き付けた。


 反撃効果で発生した爆風がロルフを包み込むが意に返さず抱き締められた。


「髭が痛いっ!ぐあぁぁぁぁぁ、スリスリするなああ!」


「タクマぁぁぁぁ!ありがどう~~!」


 それから5分たった。


「ふぅ~、これで1つ悩みが無くなったわい」


「……はぁはぁ。もう勘弁してくれ。次、2つ目の用事あるんだろ?」


「2つ目はお礼にワシのスキルをお主に伝授しようと思ってな」


「スキル?レベルで覚えるんじゃないのか?」


「もちろん99%はそうなるの」


 ロルフがアゴヒゲを擦りながらドラマの弁護士のように俺の周りをグルグル歩き始めた。


「残りの1%は何なのか?それはお主が一番よくわかっておるだろう?」


 そこまで言われてようやく思い至った。ロルフが言ってるのは『闘気』のことだ。これは南方都市国家メルセナリオのギルドマスターのアルから伝授されたスキルだ。

 絶えず漏れ出る寿命はそのまま大気に溶けて星に還る……そのままじゃ勿体ないと思ったアルが漏れ出た寿命を剣に纏わせたり、体に纏わせる方法を考案したのだ。


 ただの剣士が南方最強に至ったルーツとも言えるスキル。いずれアルからは自身を越えて欲しいと言われた。さすがにそのまま流用してもアルを越えることは不可能なので俺は属性付与を2つ闘気で包んで圧縮運用する手法を思い付いた。


 ん?待てよ……今のロルフの言い方だと、もしかして。


「わかったようじゃな。南方のアル坊に『闘気』があるように、西方最強たるワシにも『魔功』と言うものがあるんじゃよ」


 やはりか。次はそれを覚えろってか?


「それ……俺に使えるのか?アルですら闘気適正者は俺しかいないとか言ってたぞ?」


「ここからはただの憶測に過ぎないが、他のジョブは例外なく尖った性能で後半の伸びも良く、運用次第で弱点も補える。しかし、魂のキャパシティはそれだけで満タンになっとるはず。印術師は別じゃ、攻撃用のスキルは1つも覚えず、本職の付与術師エンチャンターを下回る付与効率……当然魂のキャパシティは空きまくっとるわい」


 攻撃スキル覚えないんかい!!


 高レベルになれば雪奈みたいに格好いいスキルを覚えれる、だから希望を持ってたのに……。


 ロルフの盛大なネタバレに俺は絶望するのだった。

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