第33話 策謀と襲撃
ピコン、ピコン、ピコン
俺は現在羅針盤のようなものを持たされている。
『エネミーディテクター』……何をもって敵とするのだろうか? 疑問をロルフに聞いてみたところ、使用人と護衛そしてライラ以外の魔力を検知すると画面に点として表示されるようだ。この装置が普及すればパワーバランスが大きく崩れるのではないかと思ったが、実はこれを作るための魔石が例の灰色の魔石らしい。
北から漏れでた尖兵が素材だとしたら数に限りがあるのも頷ける。
そして残念ながらこれが活躍する状況にはなっていない。ロルフが左右の森の中を超速で移動しながら魔物を駆逐してくれてるので護衛の意味もないというもの……。
「お兄ちゃん、手、震えなくなったね」
「これ渡されるときに『家一軒分の金額』とか言われたからな。とは言えもう3日目、正直慣れたよ。そうだ、ティアが持つか?」
「いいです!遠慮します!それにその魔道具、魔石で出来てるのに魔力を消費するんだよね?だ、だからいざというときのために私は魔力を温存しときます!」
印術師の特性で魔力の消費が極端に少ない俺が持つのは実に合理的だ。いかにロルフが超人的でも万が一の撃ち漏らしが無いとは言えないからな。
「ああ~暇だ~ ティア、何か本とか持ってないのか?」
「急に言われても……それに見とかなくて良いんですか?」
「反応したら音がなるらしいんだよ。まぁ俺が触れておけば問題ないってことだ」
「じゃ、じゃあ。私のステータス見てください!言われた通り25になったんですよ!」
☆ ☆ ☆
園田 拓真 Level 30↑ ジョブ 印術師 印術スロット3
スキル
付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒・地・水・火・風・光・闇)
補助印術 自身に
パッシブスキル
剣術 B 印術 S
ティア Level 25↑ ジョブ 月の神子
スキル
アイテムボックス 一定量のアイテムを保存できる。
魔力探知(弱) 魔力の痕跡から思念を読み取る。索敵は不能
月光魔術 翠月刃 月属性の魔力で出来た刃を飛ばす術
月 光 手から月明かりを照射して傷を癒す術 New
パッシブスキル
剣術 C
ティアは余程新しいスキルが嬉しいのかいろんなところを照らして喜んでいる。そこで俺は1つの疑問が浮かんだ。それは魔術がスキル枠になっていることだ。魔術はスキルじゃないので俺という例外を除けばステータスには表記されない。
トントン
思案してると隣に座ってたスノウが肩を叩いて本を広げて俺に見せてきた。
えーっと、何々。血統等の特殊な条件でしか獲得できない魔術はスキル枠に表記される……そう言うことか。
「ってよく俺の考えがわかったな?」
スノウは頷いたあとサムズアップしてきた。ますますいい人だよな。俺の嫌いな野菜を抜いてくれたり要所要所で的確なフォローしてくれるし、中身を見たことないから性別はわからないが、女性なら最高の嫁さんになれるだろう。
プルルルッ、プルルルッ
どこかで聞いたことのある音がエネミーディテクターから聞こえてきた。画面をみると、前方1kmの地点に赤い点が表示されている。ロルフのじいちゃん撃ち漏らしたな。俺は放牧用のベルに似た魔道具で合図を送った。
全ての荷馬車は急造の防護シールドを展開して停止した。
オズマが降りてきて抜刀しつつ周囲を警戒する。
「坊主、敵か?」
「この周囲じゃない、道なりに真っ直ぐ1kmくらいのところに敵っぽいのがいる」
「わかった。ここからは警戒しつつ視認できる距離まで徒歩で移動するぞ」
「待った、俺が先に行って見てくる。この魔道具、味方識別が大雑把過ぎるからな。もしかすると行商人の可能性だってあるだろう?」
一応人の少ない道を通って来たが有り得ない話じゃないため、俺が先行することにした。
”自作スキル・
水と光属性を闘気で融合させて付与した男の憧れとも言えるスキル。強風や爆風で剥がれる上に音は消せないので結構弱点だらけではある。
エネミーディテクターで反応のあった地点に着くと、そこにいたのはノアを救出する際に横槍を入れてきた魔族だった。
”サテュロス”
俺は知らないはずのやつの名前を口にして驚いてしまった。僅かな空気の揺れを感じたのか、それとも俺の視線に気付いたのかわからないが一瞬だけこっちを向いて首をかしげたあと、奴は仁王立ちに戻った。
思ったより盗賊ってメンタル必要なんだな。正直これ以上は今の精神状態じゃ失敗しそうなので俺は時間をかけて戻り情報を伝えた。
「オズマ、魔族がいた。浅黒い肌で黒い翼が生えていた。何かわかるか?」
「400年交流してないから確かなことは言えないが、『デーモンロード』だろうな……ったく、楽な仕事だと思ったのによ!」
情報を少しでも共有するために原初の森での出来事も包み隠さずオズマに伝えることにした。
「サテュロス……確か魔族側の有力貴族の名前だった気がするな」
「アル相手だとさすがに分が悪いみたいだったが……俺達で勝てるのか?」
「無理だろうな。資料じゃSランクの強さを誇ってたらしいからな。俺達が来るって確信して仁王立ちしてるんだろ?じゃあ爺さん待った方がいいぞ」
ザーッザーッ
通信用魔道具から声が聞こえてきた。
『聞こえとるかの?まずは言わせてくれ。ごめんちゃい……ブラッド種が100体ほど来たからのぉ。作為的なものを感じるわい……さすがに時間かかりそうじゃ、そっちは何かあったのか?』
その言葉にオズマがキレて俺から魔道具を奪い取った。
「あったのか?っじゃねえよ!連絡しても全然でなかったじゃねえか!デーモンロードが待ち構えてるんだよ!早く帰ってこいよな!」
デーモンロードという単語を聞いたロルフの雰囲気は一変した。
『わかった。5分で終わらせる。絶対に動くな』
プツ……プープー
言いたくて仕方無かったけど、これって設計はアルフレッドだよな?思いっきりスマホ意識して作られてるよな?
バサッ
「ちょっとライラさん!どこ行くんですか?ライラさん!?」
ティアの叫び声が聞こえてきた。
「どうした?」
「それが、ライラさんとメイドさんが森の奥に走り出して……」
「防護シールドの外に出たのか!?」
想定外のことばかり起きやがる!
「私、メイドさんからライラさんに邪悪な魔力の流れを感じました。目も虚ろでしたし、何かされてるかもしれません!」
そう言うことか!人数の少なさもだが、なぜ護衛を冒険者に頼むのか不思議だった。あのメイドの性格なら格式あるフォルトゥナ騎士団に絶対に頼むはずだ。商隊を装うにしても、騎士の武装を変えるだけでいいからな……。
「狙いはライラ嬢か?」
オズマはそう言うが実は違う。
「これは原初の森と同じ状況なんだ。ノアを追って境界に向かうとアルは奇襲を仕掛けられた……今回は俺達がライラを追うと入れ違いにロルフが帰ってくる。そこをサテュロスは狙うつもりだろう……狙いはギルドマスターだ」
前回は俺達の存在がイレギュラーだったんだろう。ノアを守りながら戦えないと考えてたみたいだが、俺達がノアを助けてサテュロスは万全の状態のアルと1対1で戦うことになった。
今回は依頼の段階からメイドを洗脳、もしくは配下と入れ代わってロルフを遠ざけ酷使する。ハイデとパルデンスの中間地点でブラッド種を何かしらの方法で100体用意して戦わせることでさらに疲弊させる。
サテュロスは万全のアルに対して割りと善戦してたようにも見えたからな、魔術系のジョブのロルフなら魔力さえ消耗させたら勝てると踏んでるのだろう。
「俺一人がライラを追うからお前たちはロルフの援護を頼む」
するとオズマが俺の胸ぐらを掴んできた。
「それは俺にも言ってんのか?」
俺達は睨み合ったがオズマは溜め息をついて手を離した。
「傭兵は依頼主が一番、冒険者は自分の命が一番……俺以外の傭兵はここまで甘くねえからな?ほら、行けよ」
助かる、と一言いって向かおうとすると不意に腕を掴まれた。
「お兄ちゃん、絶対に死なないでね?帰ってきてね?」
「パルデンスに着いたら少しゆっくりしよう。色んな美味しい物いっぱい食べたら、そしたらまた冒険者再開しようぜ!」
「うん、待ってる!」
最後にティアの頭をワシワシと撫でて俺は疾走した。
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