第22話 ダンジョン攻略 中編
side 雪奈
「ここは……?」
光に飲まれたあと、先程いた場所とは全然違うところにいることに気づいた。
兄さん……強敵に会ってなければいいけど……心配です……。
雪奈は敵と戦ってみた限り、ここが自身の推奨レベルよりも格下であることを確信した。そのため、この状況になっても混乱することなく兄を心配する余力があった。
1時間ほど歩いたあたりでガシャンガシャンという金属音が聞こえてきたため、雪奈は近くの岩場に身を隠した。
よくみると、数人の騎士が歩いているのが見えた。その中に先日夕食の席にいたルークの姿がいた。
雪奈は物陰に潜んで通り過ぎるのを待つが、背後からいきなり声を掛けられた。
「そこのお前!何をしている!」
背後を見ると、気付かなかった理由を理解できた。斥候タイプの騎士だったのだ。当然ながら装備に金属の類いは見当たらず、その物腰は音をたてずに移動することを第一とした、とても洗練された動きだった。
雪奈は両手を上げて抵抗の意思は無いことを示し、ルークの前に姿を現した。
「彼女は私の知り合いだ。通してくれ」
「ハッ!」
騎士が警戒を解いて雪奈を通した。
「昨日ぶりですね。セツナさん」
「そうですね……そういうルークさんはここで何を?」
「ここに貴族の罠に嵌まって連れられた都民がいると聞いたので調査に来ました」
「ダンジョンに?魔物が闊歩するここに集めるメリットありますか?」
「疑問を持たれるのも無理はありません。私自身半信半疑でした。ですがこの間初めて外の調査をしているとき、メルセナリオからこちらに護送される馬車を発見しました。それはあり得ない事です。本来罪の嫌疑がかけられている容疑者は、各都市で審議が行われるのでこちらに来ることは滅多に無いはずです」
「それで尾行するか問いただしたらこちらに来てるのを確認した……と?」
まずい、ここには兄さんがいる。なるべく会わせないようにしないといけませんね……。
「それで、場所は突き止めたんですか?」
「はい、この先に貴族の道楽で作られた館があるんですよ。恐らくそこにいるはずです」
「そんなおかしな貴族もいるんですね……」
「ブルックっていうんですがね。昨日お話しした殺された貴族です」
え?もしかして……私のせいで連れていかれたサチちゃんやハワードさんもここにいる?
「ブルックと言うと、南の?」
「はい、先日雪奈さんにお話しした被害者……ではありますが、実際は限りなく加害者に近いでしょうね。犯人も恐らく、やむ無き事情があったのでしょう」
「その……犯人は見つかりそうですか?」
「メルセナリオの宿屋の聞き取りによれば、まだ南方にいるという情報を得ています。犯人には出てきて欲しいものです。たったの1ヶ月の投獄で済む程度なので……」
雪奈は失念していた。元の世界の法律に照らしていたため、かなりの罪になると考えていた。
「1ヶ月……ですか?」
「善ある殺害の場合、相手の悪の度合いで減刑されます。ここに来る前にブルックに嵌められた疑いのある罪人を確保していますので、証言の方は固めてます。簡単でしたよ、彼はやり過ぎてましたからね」
だとすれば……このまま賞金首として逃げるより、1ヶ月だけ我慢して安全に楽しく冒険者をした方が……いい?
雪奈は未だに『親の代わり』であろうと考えてしまう。……公正平等な採決が行われるなら自身のために手を汚し苦しむ兄を救えるのではないか、と。
「……あの、実はお話しが……」
雪奈はルークが副騎士団長であること、サチやハワードを助けてくれること、そして悪をただそうとするルークのまっすぐな姿勢に判断を間違える。
判断の誤りは、ルーク以外が悪に染まってることを疑わなかったことだった。
side 拓真
そろそろ10階層に辿り着く頃、不意にナーシャが聞いてきた
「タクマさんとセツナさんって仲がいいんですね?」
「ん?ああ、両親がうざかったからさ。喧嘩する暇すらなかったよ」
「結婚、しないんですか?」
「はぁ?するわけないだろう?兄妹だぞ?」
「え?確かにいい顔はされませんが……貴族の最後の手段としてよくあることなので……」
ああ、そうか。こっちと向こうじゃ法律も違うのか。だが、それは難しいだろう。向こうに帰ったとき、関係を戻せるか?それとも隠し通すのか?どちらにしても雪奈の事を考えると……それは難しいだろうな。
「それに、あいつにはもう相手がいる」
「え?誰!誰ですか?」
年頃の女子だな……恋の話しに飛び付いてくるとか……今の俺には傷口に色々塗られるようなもんだぞ。
「ルークだよ。副騎士団長だっけ?」
「う~ん、だとしてもセツナさんってタクマさん以外全く見てない気がするんですよね……。二人でデートしてるとこでも見たんですか?」
「いや……その、キスしてるとこをみた……」
「えええええええええええ!……私、信じません!絶対にセツナさんはタクマさんしか見てません!」
「なんでそう言いきれる……」
「ふふ~ん、女の勘です!」
そう言われてもな……ナーシャはやたら恋愛に結びつけようとするけど、俺も雪奈も家族愛だろうに。
拓真はそう断言するが、実際はジクジクと心臓を刺されるような感覚に戸惑っていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。