3.5 「二回目の夜会議」
「つかれたねー」
「全然余裕そうな表情だな?」
「ま、本題はここからだからね」
昨日と同じように、俺たちは夜中に話をしていた。昨日と違うのは、ミヤビが未だに青い上着を着たまま、最低限の装備を整えているところだ。葡萄酒もない。
夕食の際に、「紅い月」について聞いた。
どうやらそれは、魔素濃度というものが異常に高くなる現象のことらしい。詳しい仕組みは分からないけど、その時に月が紅く見えるから、「紅い月」と呼ぶんだとか。単純な月食ではない。
強い魔素は魔物を強くする。そして、人間にも害がある。だから結界で覆う。レッドモルスドラゴンやフォルティス・ウルフが街の周辺に居たのは、その紅い月が近かったかららしい。「魔力の波」と呼ばれる、魔素濃度が濃くなったり薄くなったりする現象を嫌がって人間の居る所へ降りてきているのではないか、とされているようだ。
……そして今、ミヤビ達冒険者は町を守るために備えている。
紅い月を知らせてくれる魔物が出たからと言って、即紅い月になるわけではなく、数日の猶予があるらしい。だが、念のために、今日彼女は酒を飲んでいない。
「あれ? ディアちゃん?」
ミヤビが声を飛ばした先に視線を向けると、ディアが居た。眠い目をこすりつつも、こちらへゆっくり歩いてきた。
「どうしたんだ?」
「いや、吾輩も聞いておこうと思って。モトユキの能力について話すんだろ?」
「……そうか。だがその前に、まだいくつか転生について聞いておきたいことがあるんだ」
二人が不思議そうな顔をする。
「あ、いや、大したことじゃないんだけど……ミヤビはどんなふうに転生した?」
「ふつーに、車に轢かれた」
「どこで?」
「メルボルン」
「……どこ?」
「オーストラリアのちょっと有名なところ。修学旅行中にぽっくりと、ね。どうして?」
「いや、転生するのは日本だけなのかなって思って。だって、数ある国の中から狭い日本という国の人間が、二人も選ばれているんだ。そして、転生者になる条件が分かれば、そこから推理することが出来るかもしれないと思っただけだ。ただ、俺とお前の二人だけだから、現状何も分からないがな」
「ふぅん、真面目だねぇ。……もっきゅんはどんなふうに?」
「……分からない」
「ええ!? でも家族のことは覚えてるんでしょ?」
「多分寝てる間に心臓発作とか、そんなんだと思う。それより、ミヤビは自分の体に、どこか異変があったりしなかったか?」
「……いや? 無かったよ。そういや、もっきゅんって子供になってたんだよね」
「うん。ミヤビは『中間地点』を見たか?」
「中間地点?」
「知らないならいい」
「ええー、教えてよー」
「知ってもきっと良く分からないぞ」
「いいから!」
「何にもない場所に飛ばされたんだよ。俺はそこで、念力で思いっきり空間に力を込めて、ゲートみたいなのを作り出して、ディアの居たところへワープした。子供になったのはその時だ」
「何それこわい」
「ほらな」
……俺が転生した理由を、事細かに説明すべきか迷ったが、やめておいた。
「それより、能力についてだ。ミヤビは祝福で『絶望』と『レベラー』という能力を得ている、そうだろ?」
「そうだね。名前の響きにしちゃ、少しショボい能力だけど」
「絶望」、負の感情を魔力に変換する能力。
実際に使っているところを見たわけではないが、ミヤビの話を聞いている限り、本当にそこまで強い能力ではないのだろう。「圧倒的チート」には程遠い。
「レベラーは? どんなことが見えてるんだ?」
「んーとね、筋力、魔力、知力、賢力の四つ。ディアちゃんは筋力と魔力がカンストしてるね」
「マジかよ」
「……人間の基準が低すぎるだけだろ」
「権力ってなんだ?」
「賢い力と書いて、賢力。まぁ、いうなればIQみたいなものだね」
「知力と何が違う?」
「知力はその人の経験値、賢力は地頭の良さ、みたいな感じかな。賢力は大人が努力しても滅多に上がらない」
「へぇ」
「もっきゅんは百三十あるね。普通の人が九十くらいだから、相当頭が良いってことだね」
そうだろうか。人間の頭の良さには種類があるからな。俺は特に計算が早かったわけでもなく、覚えるのが早かったわけでもない。特に社会と国語は壊滅的だった。
「レベラー」は、どんな風に頭の良さを計測しているのだろう。
一番考えやすいのは、「脳の大きさを基準にしている説」か。「レベラー」が、対象の身体の内部を探ることが出来ると仮定すれば、筋力と魔力のパラメータが分かるのも納得できる。
だが、知力と賢力が分けられている理由はなんだ? 同じ脳味噌からの情報を、何故二つに分ける必要があったんだ? どうやって分けたんだ?
……ここは異世界だ。
常識が通用するとは限らない。
そもそも人間がそんな能力を使える時点でおかしいんだ。
「ディアちゃんは百十」
「……!?」
俺もディアの数字に驚いたが、本人が一番驚いている。
こいつ、意外と賢いんだな。
「頭良いねー、ディアちゃん。あとは知力も百五十あるよ」
「……基準は?」
「三十くらいかな。もっきゅんは五十」
「……!?」
もう一度、俺とディアは同じ反応をした。
二千年あの中に閉じ込められていたから……か? でも、全然動けなかったから、経験もクソも無いはずだ。となると、ディアが結界に閉じ込められる前のことが関係してるのか? たくさん学べる環境があった、とか。
詳しく聞くと、
モトユキ 筋力10 魔力0 知力50 賢力130
ディア 筋力9999 魔力9999 知力150 賢力110
ミヤビ 筋力100 魔力400 知力50 賢力115
一般人 筋力50 魔力50 知力30 賢力90
という感じだった。
俺の筋力が低いのはいいとして、「魔力ゼロ」は根本的な体の作りが違うからなのかもしれない。魔力を感じ取り、溜めておく器官……俺にはそれが無いのだろう。
もしかしたら、ただただセンスが無いだけなのかもしれないが。
「んじゃ、そろそろ俺の能力の本題に入ろう。……俺ってディアに話してなかったっけ?」
「いや、詳しく聞いたことは無いぞ」
「そうだったか。まぁ、簡潔に言うと『念力』が使える」
「へぇー」
ホットミルクの入ったコップを浮かせて、視覚的にも肯定させるが、二人が特に驚く様子もない。今までの俺のふるまいから、大方予想は付いていたのだろう。
問題は次。この能力の特性について。
「そして、
「……え!?」
ミヤビは少し驚いたようだ。多分まだ半信半疑だが。
「正確に言えば、限界が見えたことが無いんだ」
「……マジ? 気絶したらダメって、寝るのはオーケーなの?」
「アウトだ。だから、俺はちょくちょく夜中に起きる。二時間くらいは寝ても大丈夫」
「良く眠くならないな」
「合計して六時間は必ず寝るようにしてる。平均的だ」
「……よく、できるね」
「するしかなかった。そう心配するな。もう慣れてるから」
睡眠に関してはそこまで苦痛ではない。寝起きはいつも悪いが、それも一瞬の間だけ。
……問題は、
「ただ、強い衝撃を与えられて意識が落ちるのは一発アウト。すぐに暴走する」
「……それって」
「俺が何らかの理由で気絶してしまったら、ヤバい」
冗談抜きにヤバい。笑えない。
こいつらを殺してしまいかねないのだから。
「だから、俺が暴走したときの対処法を教えておく。『意識の範囲外』から攻撃しろ。襲われている間は、結界か何かで『隔てる』こと」
「でも、モトユキって結界越しに攻撃できなかったか?」
「あぁ、それは――――」
それから俺は、自分で気づいたことはすべて話した。
一重に「念力」と言って、何も考えずに過ごしてきたわけではない。
念力の特徴、それは「無意識に使うと、俺自身から力の線が伸びる」ということ。
例えば、乾電池で豆電球を光らせるとき。導線で豆電球と乾電池をつなぐと豆電球が光る。乾電池が「俺」、豆電球が光ることを「仕事」とすると、導線は「力の線」と言える。
だが、意識をすれば「力の線」を使わずに発動できる。
さっきの例えを使うなら、何も導線をつながずに豆電球を光らせているということ。
「無から力を発生させることが出来る」のだ。想像さえしてしまえば。しかしこれは、俺が後からになって気付いたこと。気絶をしている状態の無意識下では、自然に「線」を伸ばしてしまうはずだ。だから結界の中に居れば、干渉は出来ない。
念力探知は力の線の応用。線をつたって感覚を得ているから、線を使わない状態だと使えない。
つまり、結界の向こうの感覚を得ることはできない。地中や水中ならいける。鉄板はちょっと怪しい。
「あくまで、俺の予想に過ぎないけどな。実際に、暴走した俺を見た訳じゃないからな」
「なるほど……って、ディアちゃん寝てるよ?」
「え……肝心なところで寝る?」
夢中になって話していたから、ディアが寝てしまっていた。
……不覚にも、かわいいと思ってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。