6
翌日に片道二時間の距離を運転する綾香は、お酒を程々に眠りについた。
リビングの小さな照明。オレンジ色の光が微かに差し込む寝室のベッドの上で、愛はチューハイの缶を片手に綾香の寝顔を眺めていた。
――愛おしい。
綾香の寝顔を見る度に、愛の胸の奥では複雑な感情が絡み合う。
綾香の傍に居たい。
綾香に好かれたい。
綾香が欲しい。
もし、綾香を失ったら私には何が残るのだろう。
想像すると愛は怖くなる。
失いたくないと愛は焦る。
ひとりになりたくないと胸が痛くなる
チューハイを一気に飲み干し、空になった缶を床に置く。
ベッドが軋む音と共に、綾香から借りたTシャツが捲れ、愛の黒い下着が露わになる。
仰向けで眠る綾香の上に、愛はゆっくりと覆い被さる。
愛の長い髪が綾香の頬に触れる。綾香を起こさないように髪を耳にかけて、浅いキスをする。
小さく声を漏らし綾香が寝返りを打つ。同じように愛は、綾香の顔を見つめるようにベッドに横になる。
落ち着く綾香の匂い。部屋着のTシャツから見える綾香の胸元。
身体が、下半身が熱くなる。愛は自身が昂るのを感じる。
ゆっくりと自身の“そこ”を確認する。
蜜のように溢れたそれを、掻き回すように指を動かす。声が漏れる。綾香を起こさないように必死に声を抑える。荒い息遣いと蜜を掻き回す音が寝室に響き渡る。
自身の中指を咥え、それを綾香の指だと見立て舌を動かす。快感がゆっくりと上がってくる。下半身にぎゅっと力が入り短い声を漏らすと、愛はあっという間に絶頂を迎えた。
荒い息遣いが寝室に響く。身体の火照りが収まらずに、愛は再び指を動かす。
綾香が寝返りを打ち、仰向けになる。愛は驚き、手を止める。
様子を窺うように、綾香の顔を見る。
愛より大きな胸の膨らみ、短パンから覗く健康的な脚。
理性が飛びそうになる。衝動が抑えられなくなる。
愛は綾香に浅いキスをする。
愛の手が綾香の下半身に伸びる。短パン越しに“そこ”に触れた瞬間――、愛の手が止まる。
綾香に触れた手が震える。何か大切な物を失ってしまいそうになる嫌な感覚。
「なんで……」
何度も同性を抱いてきたはずなのに、何度も異性と身体を重ねてきたはずなのに。
「抱けない……」
こんなにも綾香を想っているのに。
愛は力なく綾香の胸部に額を当てる。
それでも――、
「好きです……あやかさん」
祈るように愛は言う。
目を閉じる。心臓の音が温かくて落ち着く。同時に切なさが込み上げてくる。
素直に「好き」だと言えたらいいのに。
目を閉じて、暗闇に身を委ねていると、どこからか声が聞こえる。
売女のくせに。
汚らわしい。
誰かを好きになる資格なんてない、と。
遠のいてゆく。求めれば求めるほど、それは愛の手をすり抜けて、掴めなくなる。
一層のこと消えてしまおうか。綾香の家を出て、綾香の連絡先を消し、夜の街に手を伸ばしてしまおうか。
――それがお前の生き方だ
声が聞こえる。
――お前にはそれしかない
声が聞こえる。
「愛ちゃん」
誰かが私を抱きしめる。
まるで夢から覚めたように視界が明るくなる。
「まだ起きてたの」
心配そうに微笑む、綾香の顔。
ほっと胸が軽くなる。同時に息が苦しくなる。
「……あやかさん」
綾香は愛の涙をぬぐう。
「また泣いてる。怖い夢でもみたの」
優しい綾香の声色。溢れるように涙が零れる。
「大丈夫、私がいるから」
綾香は愛を抱きしめる。
愛は深く頷き、綾香に抱き着く。
「ほらねるよ。あしたも早いから」
少しの間、綾香に優しく頭を撫でられると、愛はすぐに眠りに落ちた。
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