代々木公園
「代々木でやろう」
カナエに協力してくれたのはT-Factoryだった。
再建計画の履行中で債権者の同意なく過大な投資をすることのできないGUN & MEにジョイント・コンサートを持ちかけてきてくれたのだ。
Reiyaの出演するフリー・ライブのトップバッターとして
「このままじゃ日本のロックンロールが置き去りにされてしまう」
Reiyaは危機感を募らせた。ライブのスローガンは『世界に平和を』と宣言した。
精神までがロックな、ホンモノのロックンロールが日本にはまだ存在するのだということを知らしめるために、レーベルを横断して性根の据わったバンドたちに声をかけた。全く売れていないバンドでもはるかに若年でも、ReiyaとT-Factoryの社長は普段から畏怖しているバンドたちに礼を尽くして協力を求めた。
「何人集まってんだろうね、これ」
「さあ。なんてったってタダだからな」
「チケットを販売してでも来るよ。このメンバーなら」
「いや。俺たちが目当てでな!」
リハーサルを終えたA-KIREIの男ども3人が代々木公園に作られたステージの上からオーディエンスを見渡す。
中空の真昼の太陽の下、なんらかの形でロックンロールに身を委ねなくては生きていけない人たちが数万人と表現した後は人数を把握できない単位で集まった。
もしかしたらA-KIREIのファンは遠慮がちに遥か後方にしか並んでいないかもしれない。それでも一向に構わなかった。風に乗って音は届く。
遥か街の向こうまで。
Reiyaが出るとなっては地上の『偉いひと』たちも黙っているわけには行かなかった。しかもA-KIREIがフォローされているライブで訪れた世界各国の首脳たちも動画配信のリアルタイム視聴を表明している。スケジュールの都合がつかない日本国首相に代わり内閣官房長官がステージ上で総理のスピーチを代読する。
拍手の中、官房長官がステージを降りた後、国歌斉唱となった。栄誉あるファースト・アクターとしてウコクと
伴奏は、ウコクのギター。
静かにメロディーを奏でる。
紫華がマイクを取り、澄んだ声で歌い始めた。
目を閉じて、歌う。
ステージ袖から涙を一滴、カナエは頰から顎へとつたわせた。
紫華は歌いながらこう考えていた。
『この歌の本当の意味が分かって、本当にこの国を救おう、世界の全員を救おう、って思っている人が、何人いるかな・・・』
歌い終わった紫華が笑顔で会釈すると会場の盛り上がりが急加速した。
ただ、紫華は感じ取っていた。
官房長官が途中まで観覧するので銃を携行した私服のSPが配置されることは事前に聞かされていた。そしてステージ上からそのSPたちが誰なのかは紫華はもう見分けていた。
あとは、それ以外の非公式の私服SPたちをも。
それが公式SPとはまったく無関係の者たちなのか、あるいは同類の者たちなのか。
本当は紫華は公式・非公式のSPたちの動きすべてをステージ上からお見通しだった。
ただ、そんなことはもうどうでもよいことだった。
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