水たまりに薄く氷のはった夜、旅路で宝石をよく見せるための加工についての話

 しんと透き通る、静かで寒い夜だった。

 一歩進むごとに、ぱり、ぱりと薄氷が砕ける音が続く。寒さと疲れでそのうち息が上がってきたが、前を歩く師匠にはまったくそんな様子がなく、日中の街道を歩くような足並みだった。

 冷たい空気に肺が痛くなってきて、これ以上は進めないと思い始めた頃、師匠が止まった。

「疲れたか」

「……いえ……ッ、大丈夫です」

 声をかけられたことに心底ほっとしたのに、そんな言葉を返してしまう。僕のことなどお見通しの師匠は、前を向いたままくくっと笑った。

「次はきっと、お前一人で来ることになる。よく覚えておけよ」

 そんなことを言われても、辺りは暗く、目印もない。途方に暮れていると、師匠がそばにしゃがみ込み、手袋を外された。師匠の手は素手なのに、ごつごつと節くれ立っていて硬く、皮の手袋をしているようだった。

「これが、一番美しく輝く場所だ。この輝きを、覚えておけ」

 師匠と僕の指には同じ宝石で出来た指輪がはめられている。星の光を受けたそれは、今までに見たことがないくらいきらきら、きらきらと光っていた。

「さあ、星の光を集めるぞ」

 はい、と答え、荷物を下ろす。師匠も、僕のそれより倍くらい大きい荷物を背から下ろし、小さな包みを広げていった。

「空気が澄んでいる冬の、月の光が混ざらない新月の日にやるんだぞ」

「はい」

「これより上に行くと、もう雪が積もっていて下手したら死ぬから、時期と場所にはよく気を付けろ」

「はい」

 道中でも何度か聞いた注意事項に答えながら、紙に包まれた宝石を一つ一つ取り出す。師匠は道具箱から取り出した錐で、岩場の水たまりに張った氷に穴を開けていった。

「ちょうど良い大きさにするんだぞ。まあ、失敗して大きくしすぎたら、でかい石をあてがえばいい」

 やってみろ、と錐を渡されたので、師匠の倍は時間をかけて穴を開けた。指で穴を確認した師匠は、うんとうなずいたのでほっとした。

「見ていろよ」

 師匠は石をひとつ取り、穴にはめた。じっと見ていると、薄氷の下の水面に映っていた星の光が、すう、と石に吸い込まれていく。

「すごい」

 思わず言葉がこぼれ、師匠はまた、くくっと笑った。

「よく見せたいのがあれば、ひとつの水たまりにひとつの石にするんだ。よりたくさん、星の光を取り込むからな」

「はい」

「並べて、あとは待つだけだ」

「はい」

 僕がばかみたいに繰り返したせいか、師匠はわざとらしくため息をついた。

「不安だなァ、お前に任せられるのか」

「だ、大丈夫です! 全部覚えました!」

 安心して欲しくて力強くそう返すと、大きな声で、また、笑った。

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