太陽が真上に来た真昼、きみの部屋で胃が空になるまで吐き続けたことの話

 最悪だ。

 最高に暑い日だった。もしかしたらこの夏の最高気温を記録するかもしれない。ただじっとしているだけで、汗がぽたぽた滴り落ちる。

 吐くものはもうないのに、えずきが止まらない。なんでもいいから楽にならないかとすがるような気持ちで口に指を突っ込んで咽頭を刺激する。苦くて酸っぱい胃液がほんのわずかだけ上がってきて、吐くと言うよりはただ口からこぼれていった。

 汗か唾液かそれとも胃液か知れないなにかがあごをつたう。ぬるくぬめったそれは不快だったが、拭う気も起きなかった。


 なぜあんなに飲んだのか、忘れたくて飲んだはずなのに、こんな極限状態でも残酷なほどはっきり思い出せる。

 初めは失恋ごときでそんな、と慰めていた悪友たちが、彼ら自身も酔っ払い面白がって煽り始めるまで、そう時間はかからなかった気がする。

 まったく、飲んでも記憶を失えないし、二日酔いで毎度毎度死にたくなるというのに、それを忘れて何度も繰り返してしまうこの性分、どうにかしないといけない。

 別れたのだって、それが原因だったのだから。

 飲んでも楽しくなんてなれないくせに、飲むのをやめられないのが嫌だと言っていた。それでもこうして正体を失うたびに、世話を焼いてくれたのも彼女だった。どう見ても最低なのは自分で、道理は彼女の方にある。正しいのはどちらか、自分はどうするべきなのか、もうずっと前から分かっている。知っている――。

 分からないのは、なぜ今自分は、彼女の部屋で吐き続けているのかということだ。


 ほとんど立てなくなっている自分をタクシーに突っ込んだ友人たちが、いつものように彼女の部屋の住所を告げたのには、気付いていた。気付いていて訂正しなかったのは、気力がなかったからでも、喉が灼けていたからでもない。

 ただただ、最悪だったからだ。


 ふっ、と冷たい空気が肌を撫で、ほんの一瞬汗が引く。扉が開いて、クーラーの冷気が流れ込んできたのだ。

「どう?」

 問われても、返す言葉がない。無言で力なく首を振ると、後ろでまたため息の気配がした。

「お水置いておく。タオルも」

 よく落としてしまうので、いつもプラスティックのコップで出してくれる。冷たい水を入れてくれるので、この熱気で既に結露している。いつもこれで口をゆすいだあとから、少しずつ回復したものだった。

「あのね、忘れ物が少しあったから、一緒に持って帰ってね。まとめておいたから」

 後ろから続く言葉は、けれどさみしい。聞こえないふりもできず、ただただ、またこみ上げる何かに任せて、突っ伏した。

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