その六

「ほう? これは…!」

 生物に袋叩きにされる[スクアッシュ]。チカラは使ってはいるものの、追いつかないレベルで攻め込まれている。

「烏合の行進か。一体ずつにしか順番にチカラを使うことしかできない[スクアッシュ]では、勝てないようだな…」

[リバース]がやめ、の合図をすると、そこにはボロボロになった[スクアッシュ]の姿があった。

「まだ半分以上、生き物は残っているぜ?」

 それら全てが、要を睨んでいる。

「どうやら、[デモリッシュ]、お前の出番のようだな。あの[クエイク]はくれぐれも傷をつけるなよ?」

「パリュリュアアアアアア!」

 シャチの式神だった。[デモリッシュ]がもう一度、空気をたっぷりと吸い込んで叫ぶと、生物たちは次々に破壊されていく。

「まさか! この威力、相当の式神!」

「そうだ。[デモリッシュ]は空気の振動を引き起こし、物質を分子レベルで破壊する。式神は物質ではないため、例外的に破壊されないが…。スペックも悪くないのだよ」

 急な突進を[クエイク]にかました。

「ぬう、やるな!」

 確かに[クエイク]が防御しきれないほどであった。だが次の一撃は軽く、簡単に[クエイク]ははね返せた。

「貴様、手を抜いているな?」

「当たり前だ。お前を破壊してしまっては、意味がない」

「くだらん。霧生は自分の命と[リバース]の存在をかけて、我と戦った。お前は我を従えようと企んでいるというのに、同じことができないと言うのか?」

「ならば、本気を出させてもらうぞ、[デモリッシュ]!」

「パリャパリャパラヤアアアアアアアアア!」

 また息を大きく吸い込んだ。

「おい、[クエイク]!」

 勝手に挑発したので、霧生は焦った。だが[クエイク]は、

「我に任せよ。時によっては、我が身を盾に使え」

 としか返事をしない。

 だが霧生も、無理矢理いうことを聞かせる気はない。[クエイク]とだって絆は育めている。何を言おうとしているのかはわかる。

「行くぞ!」

[クエイク]は式神なので、[デモリッシュ]は吸い込んだ空気を無駄に吐き出した。

「パリョアアアア!」

 二体の式神が激しくぶつかり合う。その衝撃で、[デモリッシュ]の歯が折れ、[クエイク]のヒレが千切れた。召喚師にしか聞こえない轟音が、暗い校庭で鳴り響く。

「ピリオアアアアア!」

「なかなかの力だが、我には通じぬ」

[クエイク]は、地面から溶岩を湧き出させた。そしてその中に身を隠す。[デモリッシュ]は空中を泳いで溶岩をかわしたが、赤いマグマのせいで[クエイク]を見逃してしまった。

「パリャアア?」

 泳いで見当をつけるのかと思いきや、[デモリッシュ]は霧生の目の前にやって来た。

「しまった!」

 召喚師に攻撃してはいけないという規則はないのだ。[デモリッシュ]の狙いは、霧生本人。これは非常にマズいと、霧生の本能が大ボリュームで非常ベルを鳴らす。

[リバース]が霧生と[デモリッシュ]の間に入り込もうとしたが、霧生がそうさせなかった。

(式神では、あの破壊のチカラを防げない! おそらく式神を透過する! だから俺を狙うのか!)

「パリュアアアアアアア!」

 大きく息を吸い込む。目に見えるレベルで、[デモリッシュ]の体が膨れ上がる。

「待て!」

 急に要が叫んで、[デモリッシュ]の行動を止めた。

「どうした? 俺を倒すんじゃないのか? 急に止まってどうしたんだ? それとも破壊してはいけない物でも、あるのかよ!」

 さっきの[クエイク]の言葉を咄嗟に霧生は思い出していた。だから霧生は、[クエイク]の札を突き出している。

「式神は、不思議な存在だ。札が破壊されれば、式神も破壊される。その逆もあるらしいな。そしてどうやら、撃ってこないところを見るに、本当のことのようだ」

 今[デモリッシュ]がチカラを使えば、間違いなく霧生を跡形もなく吹き飛ばすことができるだろう。しかしそうすれば[クエイク]の札も壊れることになる。だからチカラを使えないのだ。

「今だ、[クエイク]!」

 溶岩の中から姿を現した[クエイク]は、出会い頭に[デモリッシュ]の尻尾を引きちぎった。

「パ、パ、パ、パロオオオオオオオ……」

 この一撃で、撃沈する[デモリッシュ]。新しい札さえ用意すれば、十分に助かるレベルに[クエイク]が抑えたのだった。

「霧生、お前は相当な実力者だ。[デモリッシュ]すら、打ち倒すとは…。これほどに予想外の出来事はない」

「もう、終わりか?」

「これが正真正銘のラスト。[パニッシュ]!」

 今度は、人間大のタコ型の式神だった。

(この崖っぷちの状況で繰り出してくるってことは、相当なチカラを持っているはずだ。まずは、様子を見てみるか)

 いつも以上に慎重になる霧生。ここで負ければ全ての努力が無駄になるからだ。まずはいつも通り、消しゴムをスズメバチに変えて、向かわせる。

 スズメバチが[パニッシュ]の広げた腕の吸盤の上に止まると、毒針を突き刺した。だが、平然としている。毒は式神には効かないとしても、針の威力すら受け付けない様子である。

「それは、無意味だ! [パニッシュ]はその吸盤で、あらゆるエネルギーを吸収できる。そして自身の力に加えるのだ」

「[アブソーブ]と似ているな…」

「夜宵の[アブソーブ]は複数存在するかわりに、叩けば爆発するだけだ。しかし、[パニッシュ]は違う。永続的にエネルギーを蓄え、永遠に成長していくのだ」

 霧生はこの時、奇妙なことに気がついた。

 要の顔が、輝いてないのだ。どこか悲しげな表情で、[パニッシュ]のチカラを説明している。

「そして[パニッシュ]は、俺の悲しみそのものだ。どんなことをしても、何をやっても悲しみは消えない…」

 要は語り出した。自分の過去を、霧生に独白した。

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