花言葉

 平日の昼下がり、新しいスピーカーで音楽を聴きながら掃除をする。

 ベランダで育てている植物は花をそれぞれ蕾をつけたり花を咲かせたり、成長を続けている。枯れた後はまた種を蒔いたり別の植物を植えたりして、それなりに上手くいっている。

「そういえば、何か忘れてるような……」

 何か絵美に聞くことがあった気がする。ずいぶん前に、花のことで何か聞こうとしていた。なんだったかな。

 もやもやしたまま掃除を進める。結局掃除が終わって洗濯物を畳んだ後も思い出せなかった。


「なんか悩んでる?」

 夜になり、絵美にそんなことを言われる。昼から考えていたが、依然もやもやしたまま過ごしていた。

「悩んでるというか、何か忘れてる気がして」

「何のこと?」

「なんか花のことだったと思うんだけど……」

 二人でベランダに目を向ける。そこではシクラメンとローズマリー、それから新しく仲間入りしたタイムがある。

「そうだ、ローズマリー」

「ローズマリーがどうかした? ちゃんと育ってると思うけど」

 やっと思い出した。最初にローズマリーとチョコレートコスモスを育て始めたとき、なんでその二つを選んだのかと聞いてみた。そのとき、一つだけ教えてあげると言ってそれぞれの花言葉を教えてもらった。変わらぬ愛、移り変わらぬ気持ち。

「ローズマリーを選んだ理由、一つは聞いたけど他にもあるの?」

 数ヶ月過ぎたが、やっと聞くことができた。そろそろ教えてくれるだろうか。

「ああ、そうだった。私も忘れてた」

 てへ、と絵美が笑う。でもなかなか続きを話そうとしない。こういうときはあれを使うしかない。台所へ行って冷酒とお猪口を出す。

「なに、どうしたの。急に」

「この方が舌が回るでしょ」

 お猪口に並々注いで差し出す。

「まあ、飲んでいいなら飲むけど」

 と言ってグイっと飲み干す。相変わらず男らしい。素面じゃ言いづらいことかと思って飲ませてみたけど、話す前に潰れてしまわないかと不安になる。

「それで、教えてくれる?」

「うん。せっかくだから結婚記念日とかに言おうと思ってたけど、そんなに気になるなら教えてあげる」

 そう言って再びお酒を注ぐ。僕が出した手前止めるに止められない。とりあえず話を聞いてあまりにやばそうだったら取り上げよう。

「ローズマリーの花言葉はけっこうたくさんあるの。健斗君のことだから調べちゃったと思ってたけど、まだみたいだね」

「前に教えてもらったのしか知らないよ」

 一つ教えてくれたのは、それ以上調べないようにというメッセージだと受け取っていた。だから調べずにいて、そのうち忘れてしまっていた。

「ローズマリーには、あなたは私を蘇らせる、っていう花言葉もあるの」

 あなたは私を蘇らせる。絵美が僕を幽霊として蘇らせてくれた、ということか。

「あ、分かってない顔してる」

「え?」

 違ったのか。というか顔で伝わったのか。もはや超能力の域に達している。

「ちょっとベランダ行こう」

 驚いていると絵美に手を引かれた。意味も分からず引かれるまま外へ出た。

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