飛んで飛んで

「よーしオール、ほんじゃぁ始めるぞ」「ホー!」


 あれから約一月が経過し、夏休みもすっかり終わってしまった。


 この一か月はオールとの訓練だけでほぼ費やしてしまい、まったく遊べなかったとグチグチ言い続けていたのだが、その時の姿は全く見苦しいものであり、とても元は中年であったとは考えられない無様な姿であった。


 ともあれその甲斐あって、一か月ほどでオールは優人を掴んで飛行できるようになっていた。もともと長い付き合いがあったからなのか、オールは使い魔になった時にはもう強化が使えていたのだ。


 だからこそ一か月程度で彼らは成果を上げることができたのである。


「おし!んじゃいつものように巨大化してくれ」「ホー!」


 そのように指示を出され、分かったとでもいうようにひと鳴きし、1mほどの大きさになり、優人の背中を掴んだ。


 これから彼らは長距離飛行を試みるつもりなのだ。今までの訓練では優人を掴んで少し飛び、すぐに着地というものであったので、長距離飛行を試みるのはこれが初となる。


「おー、なんか緊張するなぁ」という優人に対し安心しろとでも言うかのように「ホー!」とオールがひと鳴きし、一気に飛び立った。


「ギャー!」ゆっくりと浮上していくと考えていたので、この急な上昇に全く対応できず、無様な叫びを大地に残し、彼らは空へと飛び去って行った。


 飛び去ってすぐの頃は目まぐるしく変わっていく景色に全く対応できていなかったが、徐々に慣れてきたのかあたりを見回して感想を言うぐらいに慣れていた。


「すげーな・・・、景色がどんどん変わってく・・・」


 彼は地上を駆けていくのとはまた違ったさわやかさに包まれていた。と感動に包まれている優人を見ながらオールは音もなく飛行する。


 掴まれながら彼は、移り行く景色を無言で見つめていた。そしてこう思った。


 空から見る景色は、なんと心地よいものなのだろう、優人は思った。


 彼女たち鳥は、いや、空を飛び、空を制したものだけが堪能することのできるこの光景に、翼を持たぬものは涼しい顔で主を持ち上げさも当たり前のように前を向いて飛行する者に、得も言われぬ畏敬の念が湧き出るのを感じた。


 そんなふうにあてもなく飛び回ること数時間、そろそろ門限が近づいてきていたのでそろそろ帰ろうとオールへと提案する。


「今回はお試しでうちの周辺ぐらいしか飛び回れないけど、もう少し大きくなったら大陸横断と化してみたいなぁ」「ホー!」


 オールへそんなことを話しかけながら彼らは家へと進路を変え、音もなく飛び去って行った。


 沈みゆく太陽は、そんな彼らを無感情に照らした。


 じきに夜が来る。月が支配し、星々が照らし、獣たちが動き出す夜に。


 彼は今度は夜に飛行したいな、と考えた。我が物顔で人々を照らす月明かりが照らす夜を、今回みたいに当てもなく飛行したいな、そう思った。


 オールにその提案をしたら、嬉しそうにホーット鳴いた。


 ウサギとモグラはそんな二人を不思議そうに見ていた。


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