第6話

「ゆうー、もう起きてご飯食べちゃいなさい。バス来ちゃうわよ~」

「……フガ」



 母の声を聴き、全く頭のまわっていない状態で優人は起床した。


 寝ぼけ眼で顔を洗い、朝食ををモソモソと食べ、のろのろと身支度をしていると外から幼稚園バスが近づいてくる音が微かに聞こえ、慌てて着替えの手を早める。


(イヤー、耳がいいってのはほんとに便利だな)


 なんて考えながらさっさと身支度を済ませてウサギとモグラ抱えてバスが止まる場所まで走って行った。


(…こいつらをずっと抱えっぱなしてのもなぁ…。でももし戦闘をになったらいちいちするなんて絶対無理だし…そもそもそんな暇ないだろうしなぁ…)


 術者が使い魔を入手するとそれと同時にある「空間」も一緒に生成される。


 この空間の中に使い魔を出し入れすることができるのだが、その空間の質は術者によって変化し、人によっては100匹ほど入れられたりたったの1匹しか入らないような人もいる。ちなみに優人は6匹ほどしか入らないオンボロ空間だった。


(おれの体のどっかにしがみ付いてもらうってのはいい案かもしれないな)とバスが来るまでウサギとモグラにそんなことを話していた。






 ――――――






 


「はーい!じゃぁみんな一緒にお歌を歌いましょう!大きな声で元気よく!」


 ウズラ組は音楽の授業の真っ最中で、幼稚園児の元気な歌声が響き渡っていた。


「「エッサ エッサ エッサホイ サッサお猿のかごやだ ホイサッサ」」と音程など関係ないとばかりに元気いっぱいにギャーギャー歌っていた。


「エッサ エッサ エッサホイ サッサ元気なかごやだ ホイサッサ」(全く元気だなぁ。パワフルすぎんだろ…つーかっ耳元で爆音をだな…)


 一人を除いて楽しい音楽の時間は続いて、次の時間は粘土を使った授業だった。


「はーい!じゃあみんな!この粘土を使って好きな動物を作ってみよう!」

「わー!ぼくひこうきつくる!」

「わたしおはなつくる!」

「ちーはね~」

「おれ、ヴぉるふがんぐ・あまでうす・もーつぁるとつくる」

(おれは何作るかなぁ…てか最後のはなんだ)


 はしゃぐ子供たちの中で、優人はさして大きくない頭を働かせて考えを巡らせる。


 御大層な事を言ったが、所詮は粘土細工の形を考えているだけである。何ともばからしい話もあったものだ。


(見本もあるしウサギでも作るか…)「おいウサギ」

「……!」(汗)

「そこでじっとしとけ」

「……?」(汗)


 と白玉をじっと見ながら粘土をコネコネと練っていくが、なかなかうまく形が定まらない。


「あ、あれ…粘土ってこんな難しいもんだっけ…?」

「……?」


 コネコネと真剣に練っていくが、練っても練ってもウサギからかけ離れたものができるだけで、むしろ練れば練るほどかけ離れていってる始末。


(うぉおおおおおお!やばいやばい!こっちは精神的年上なんだぞ!こんなところでつまず)


 30分経過


「わーゆうちゃんのそれなに~」

「へんなの~!」

「わかった!おばけでしょ?」

「オッ…オブジェ!」



「えーと…優人君それは何の動物かな?」

「グググ~!」


 結局、精一杯やって出来上がった作品は不定形の生物のようなものだった。


 くだらない意地を張り変に大人ぶるからそうなるのだ。


 何はともあれ、優人の幼稚園生活はまだまだ続く。

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