エピローグ
チリンチリーン
ドアベルの音と共に、私はカフェに入った。
あれから数ヶ月。
私は、アルバイトをしながらライターの仕事をしていた。
色々な人達と出会い、インタビューを通して彼らの考えに触れ、それを多くの人々に伝えるお仕事だ。
とはいってもまだまだ駆け出しで、なかなか満足のいく仕事はできていない。
それでも、毎日が充実していた。
「お一人様ですか?」
「いえ。あとで二人来ます」
今日は定例集会の日だった。
例のハンドベルを持つ人間だけの集まりだ。
特に目的があるわけではなく、最近の進捗を語り合うだけの場。
けれど、自分と誰かのつながりを確認するための、大切な時間だった。
まるで、死神さんのお店にいる時のような……
チリンチリーン
そんな音がして、いつものやりとりが聞こえてきた。
「だから何度も言ってるじゃない。そういう回りくどい言い方やめろって。クレームくるの、こっちなんだからね」
「それに対処するのもあなたの仕事じゃなくて? 嫌なら辞めてもらっても構わないけれど」
「この女は……!」
澄野さんの車椅子を押しながら、芳子さんが、顔をひくひくさせながらやって来た。
今、芳子さんは澄野さんの秘書として働いている。
仕事がないと嘆く芳子さんを、澄野さんが渋々、雇ってあげたのだ。
いつもお互い不満を垂れ流しているが、案外、良いコンビなんじゃないかと見ていて思う。
「聞いてよ結衣。さっきもコイツがね」
「雇い主をこいつ呼ばわりする人間に、人の愚痴を言う資格はあるのかしら」
再び始まる二人の口喧嘩を見て、私は笑った。
きっと周りの人は、私達が自殺を試みたなんて、想像だにしないだろう。
でも、私達は分かっている。
人は生きている限り、死から逃れることはできない。
どれだけ見て見ぬフリをしようとも、必ず死は目の前に現れる。
死に逃げたくなる時がくる。
でもそれは、懸命に今を生きようとしている証だ。
私はこれからも、絶望に下を向くことがあるだろう。
前と同じように、死が頭の中を過ぎることもあるだろう。
それでも、私は生きていく。
きっとそれが、自分の中の、嘘偽りない想いだから。
ふと、窓に何か黒いものが過ぎった気がした。
「結衣。どうかした?」
たとえ会えなくても、心の中で結ばれたつながりは、決して消えることはない。
私はもう、それを知っている。
「ううん。なんでもありません」
だから私は、前を向き、笑みを浮かべることができた。
きっと今、死神さんは、いつもみたいに優しく微笑んでいるだろう。
何故だか私は、そう確信するのだった。
fin
死神さんの自殺用品店 城島 大 @joo
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