第84話 亜空間の豪邸2

 ドンドンドンドン!


「オラ、ゼノ。起きろ!家の設計図が完成したって連絡来たぞ。さっさとメシ食え。マッチョエルフの大工んとこに行くぞ!」


 爽やかに目覚めたかった朝は、激しいノックと大声によって露と消え。

 昨夜飲みすぎた頭への、耐え難い鈍痛を助長する。

 テーブルに置いたカバンから、万能薬を取り出し一口だけ飲み。

 残りは蓋をして再びカバンへ収納した。


「着替えたら食堂へ行くから先に行ってろ」


 はしゃぐ子供サリアをなだめてから、シュトロハーゲンで高貴な身分の者用の普段着に着替える。

 なおメイドの着替え補助は、初回に断っている。

 何度か着方を間違えていたらしいが。

 楽な着方をしていく内に正しい着方になっていったと、先日後になってから教えられた。


 サリアの様子から察するに食後直ぐに、食休みを挟まずに大工・運命へと連行されるだろう。

 なのでカバンを手にしてから部屋を出る。

 このカバンは高貴な者の従者が使う為の物だ。

 高貴な者はカバンなど持たないから、ゼノはその従者のカバンを渡された。


 服だけ良い物なのにカバンは万屋時代の物だったので、メイドが服に合うカバンを用意してくれたのだ。

 そのメイドは先日城の地下へと案内してくれた、ゼノ専属のメイドである。

 今はゼノと入れ替わりで部屋へ入り、掃除やベッドメイキング等をしてくれている。

 はずだったのだが……


「ゼノ様。ワタクシの使用済みランジェリーの上下を、枕元に置いておいたのに。なぜ余分な汚れが着いてないのですか?部屋も臭いませんし。やはり下着等よりも本物のワタクシをお求めですか?」


 例の胸骨痛い発言で悔しさを感じてから。

 復讐のためか彼女はこうやって、事ある毎にからかってくるのだ。

 今も姉が弟をからかう時の様な表情で、ゼノに微笑みかけている。

 メイドを無視して食堂へ向かうゼノだが。

 引いたはずの頭痛が、ぶり返してきた気がした。

 それを見たメイドは真顔に戻ると。


「行ってらっしゃいませ」


 と、丁寧に一礼をした。

 公私の公をキッチリ分けているので。

 自分がもっと親しくと言ったために、注意するのもはばかれる。

 なんとも頭の痛い話しである。




「おはよう」

「おはようございます」

「オッス」

「おはようございますー」


 食堂へ入ると仲間の3人からも、挨拶の返事があった。

 いつもの席に着くと、給仕のメイドが配膳してくれる。

 パンにスープに野菜に肉。


 旅をしようと決めたのはいいが、シュトロハーゲンから離れると。

 王家の食事からグレードダウンするのは、心残りの一つになりそうだ。

 皿に残った脂や汁の一滴まで、パンで拭って腹に収める。


「サリア、予め言っておくが。道中吐きたくないから、ゆっくり歩いていくからな。サンカイオーで飛ばしたり、手首握ってたなびく旗の様に連れ去るとかはなしだからな?」


「うっ……しっ、しねーし。そんな事」


 ゼノの危険予測は、今日も朝から警報を鳴らしていたようだった。

 事情を知らないジュディスはともかく、ミラは心底胸を撫で下ろしていた。

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