第63話 4日目 2

 食後は、初日に駆け足で眺めただけのエルフの国を観光する。

 ゼノの危険予測は見聞きして感じたものを、無意識のうちに計算して結果を予測している。

 なので認識外からの奇襲に弱いが、今はジュディスが護衛に着いている。

 エルフは目も耳も、ヒトより遥かに高い感覚を持ち。魔力にも敏感に反応する。


 更にジュディスの場合は歴戦の戦士だけあって。

 科学では証明できない様な感覚を以て、周囲を認識している。

 ゼノは完全に安心してシュトロハーゲンの観光を楽しんでいる。




「ゼノさんの場合は、重たい鎧とかは回避力は下がると思いますしー。軽くて丈夫なミスリル製の防具を、可動を妨げない様に特注して作らせるのがいいと思いますよー」


 ゼノは自分の能力、実力を熟知しているので。

 今の防具では回避しそこなった時に、致命傷を負う危険性をジュディスに相談していた。

 ミスリルは銀が高濃度の魔力にさらされ続け、変質したものと言われているが。

 現在その再現性はなく、鉱山などで発掘出来た分しか市場に出回っていない。

 なので他の魔法金属と同様に、非常に高価となっている。


 なおオリハルコンやヒヒイロカネは銅、または金が魔力変質したもの。

 アダマンタイトはダイアモンドが魔力変質し、魔法金属になったと考えられている。

 しかしこれらもまた同様に、人工的な魔力変質に成功した事例はない。


「ミスリルかー、きっとびっくりするくらい高いんだろうなー」


「フフフ、ゼノさんは救国の雄なんですからー。その程度の金額なら、お礼のひとつとして国から出ますよー。むしろ国を上げて、最高の物を用意すると思いますよー」


「えっ?」


 予想外のジュディスの返答に。

 そんな高価な物をポンと出してもいいのと驚き、歩くのを止めてしまったゼノ。

 ジュディスも止まって振り返り、邪気のないニコニコ笑顔を浮かべている。


(ミスリルの特注防具をタダで貰えてラッキー?いやでも、そんなの貰うなんて事になったら……なんだか悪いし落ち着かないな)


 よい意味でもゼノは一般人のままなので。

 自分の金銭感覚の外の金額や物品を貰えると思うと、貰いすぎなのではと考えてしまう。

 シュトロハーゲンの国民、それになにより世界樹を救ったのだ。

 ゼノの功績を考えたら、シュトロハーゲンの国家予算100年分、1000年分でも足りないのだが。

 自分の持つ小さな物差しでしか物事を計れないので、どれ程の事をなしたのか知っていても認識が追いついていない。

 だからこそ遠慮してしまうのだ。

 ゼノは思ったままをジュディスに話してみると。


「ゼノさんは、そのままで居るほうが素敵ですよー」


「やっぱり?俺にミスリルの防具なんて似合わないよなー。着られてる感、凄そうだし」


「そうじゃなくてですね、こっちの話しです」


 珍しくジュディスが平時でも語尾を伸ばさずに言い切ると。

 人差し指でゼノの胸の中心を軽くつついた。


「ん?ああ、おう。ありがとう?」

「どういたしましてー」


 ジュディスはよき仲間に出会えた事を、世界樹と精霊に感謝した。

 ゼノの隣を歩くジュディスは足取りが軽くなり。

 その日は終始、笑顔であった。

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