第41話 9日目

 車…魔動車はサリアがB級のタグを出したので、車屋からギルドに伝言が残されるそうだ。

 余程楽しみにしているのか、2人は夜明け頃に起床してミラの魔法で風呂に湯を張り入浴していた。



 この世界には化石燃料や石油製品はない。

 石炭や石油は存在するのだが、燃やすと精霊の怒りに触れ災害よりも酷い被害にあう。

 なのでレトルト食品も大半は、アルミ等の柔らかくも強度のある合金で作られている。


 物音で目覚めたゼノはまだ眠かったので、レトルト食品を皿に出して生活魔法で温められるか試してみた。

 結果は重畳。

 湯を湧かせられるなら、形のない熱量もなんとかなると思ったのだが。

 やってみる物だ。

 そう言えば黒髪の大魔法師が、魔法は想像力だと言ったとか。


 ゼノは2人分の朝食を用意すると、睡眠不足で2度寝した。

 体が回復仕切ってないので、体が睡眠を求めているのだ。

 テーブルに今日は休むと、メモを書き置きしておいた。

 2人が外出する際に、入口を開けて欲しいと起こされたが。それ以降は寝続けた。


 不思議な物で、亜空間の外にミラ達が帰って来たと感覚で理解出来た。

 亜空間の入口を開けながら、ベッドから起きて着替える。

 2人が車庫に入ったので入口を閉じる。

 いくら男の着替えと言っても、流石にまだ終わらない。

 ミラ達は荷物を下ろし、イスに座って寛いでいる。


 着替え終わったゼノは居間に移動。

 そのまま通り過ぎて、冷蔵庫から麦茶とコップを人数分用意する。

 おかえりと言いながら、麦茶を入れたコップを配る。


 亜空間の使用初日からずっと、飲料水はミラの出す聖水が使われていて。

 この麦茶も、容器にパック茶葉と聖水を入れて水出しした物だ。

 ミラは自然回復分の魔力が無駄になるし、魔法の練習になると言い。進んで、減った分の聖水を補充している。


 サリアは聖水を出せる魔法師が、と驚いてはいたが。

 それ以上にトンデモ能力の持ち主を見て、隠れ家にしてるんだなと正解を見抜いた。


 なお亜空間で聖水を使い続けた結果、昨夜の風呂の湯も聖水になっているのだが。

 まだ誰もその事実に気付いていない。

 やっぱりお風呂に入ると肌の潤いが違う、その程度にしか認識していなかった。


 聖水麦茶を飲みながら、今日は何をしていたかを話す。

 ゼノは、俺はあのままさっきまで寝てたよと。一言で終わらせたが、どうやらミラ達は何やら面白い事があったようだ。

 サリアと顔を向けあって笑っている。

 ミラは仮面なので、笑い声でしか判断出来ないが。


「共同資金もかなり増えてきましたし。車を買っても余裕があるので、武具の新調の下見に行ったんです」


「そしたら掘り出し物の逸品を見つけてな。昨日の詫びも兼ねて、アタシ達の払いで買ってきた。ほら、コイツがそうだ」


 言ってサリアがテーブルに乗せたのは、柄が金属ではあるが何の変哲もない小さな斧であった。

 片手用なのだろう、全長で50センチもない。

 握りに何も巻かれてないのに、不思議と手に吸い付くが。他に特徴がある様には感じられない。

 両刃でもなければ、柄の先端が尖ってもいない。


「柄が金属で手に吸い付く感じはするが、それだけではないんだろ?また自動復元のメンテナンスフリーの品なのか?」


「あー、おしい」

「おしいです」


 何故かクイズになってきているが、ゼノは気にせずに正解は何かと考える。

 メンテナンスフリーがおしい。

 可能性はメンテナンスに関わるものか、メンテナンスフリーの他にも機能や特性がある場合だ。


(ふーむ…)


 手斧を手に取ってもてあそびながら観察する。

 メンテナンスから離れて、手斧として欲しい機能は何か?

 切れ味の増加。戦斧にまでサイズが変わる。


 これが魔道武具だった場合は?

 火炎や高熱を纏ったり、雷や毒を発生させるとかか?

 流石に武器に防御効果は付けないだろうし。


「うーん、降参。答えを教えてくれないか?」

「正解は、持ち主を認識して」

「投げても戻ってくる、だ」


「ほう。それは中々便利な機能じゃないか」

「それに自動修復の効果もありますから」

「メンテナンスフリーと合わせて、ふたつの効果だからおしいって言ったんだよ」

「なるほど。2人共ありがとう、これは有効に使わせてもらうよ」


 まだ1度も使っていないメイスに加えて、手斧が増えた。

 つまり武器を格好良く、一瞬で交換する練習をしなければならない。

 何故ならそれがロマンだからだ。

 例え女子に理解されなくても、理解出来なくても。

 男はロマンを忘れてはいけない。ロマンを求め続けなければならない。

 何故ならそういう生き物なのだから。


 2人が話す今日の出来事と感想を半分聞き流しながら、ゼノは自分の世界に酔っていた。

 かつて培った。上司のパワハラを聞いてる振りして聞き流す話術を、最大限に活用してまで没頭していた。


 これ程にまで生産性のない中身をしているから、未だに生産人形に至らないのだろう。

 全く、本当に残念な男である。




(^O^)/あとがき

 ペットボトル等のビニールっぽい製品はスライム素材。

 しかし数の確保が安定しないので、リサイクル可能な商品に使われる。

 聖水は飲料水なので料理にも使用されています。

 今後とも生活魔法をよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る