第37話 7日目 2

 ゼノが気絶して目覚めてお説教と、気の休まらない時間を過ごしたので。時間は既に昼を回っていた。


「そろそろ言いたい事も言い尽くしたので、ゼノさんは昼食の支度をお願いします」

「はい!」


 これでお説教から逃れられると、ゼノは全速力で立ち上がろうとして。

 長時間の正座で足が痺れて、目の前のミラに向かって倒れ。

 ぶつかる前にミラが、サリアに腕を掴まれ引き寄せされた。


「へぶしっ!」


 そしてゼノだけが、強かに床に顔をぶつけた。


「アタシの目の前でラッキースケベなんざ、絶対にさせないよ!」


 ゼノは倒れたまま動かずに、伸ばした手を右手だけサムズアップに変えると。


「ナイスだサリア。俺もセクハラ犯罪者にはなりたくないから、凄く頼もしいよ」




「あの、ゼノさん?」

「足が痺れて動けないから、もうちょっとだけ待っててくれるかな?」

「はあ……」


 サリアはミラを掴んでいた手を離すと、ゼノの足元に回り込み。


「まさか!サリア、止めろ。止めてください!いやー!!」

「これはアタシからの罰だ!止めるわけねーだろ!!」


 ゼノのふくらはぎを、容赦なく揉みだした。


「ぎゃー!!」


 多少狭くなくなった亜空間に、おっさんの悲鳴が響いた。



「ふぅー、やれやれ。酷い目にあった」

「あん?」


 言うや否や、サリアはゼノの肘をピンポイントで指で突き。両腕に痺れを発生させた。


「うわっひゃお!反省してます。反省してますから、ビリビリは止めてー」


 サリアは残念そうに伸ばした人差し指から力を抜き、手を体の横に垂らした。


 ゼノは掌で両肘を隠しながら、調理スペースへ向かった。


(全くあのオッパイめ。昼は復讐に肉マン系の中華マンで責めてやる。そう疑似パイ揉みだ)


 昼食は久し振りに全力で調理したゼノだった。


(本物の感触を知る未来がないのが辛い)


 何かの憤りをぶつけるかの様に荒々しく。

 捏ねる姿はとても丁寧で繊細であった。



 昼食後は車の試乗に向かった。

 腕の上がらなくなったゼノを除いた、ミラとサリアが。


「ったく。何で昼飯作るだけで、腕が上がらなくなるんだよ!」

「ゼノさんらしい、ドジですね」


 おっさんは、ドジと言われて傷付いた。

 痛む腕を伸ばしたままテーブルに突っ伏し、2人を見送る。


「いってらっしゃい。サリア、何かあってもやり過ぎないようにな。ミラ、サリアのストッパー役よろしく」


「いってきます」

「いってくるぜ、貧弱なボウヤ」

「グハッ!」


 ミラは普通に。

 狂犬扱いされたサリアは反撃の1言を追加しながら、亜空間を出て行った。


(こうやって1人になるのも、なんだか随分と久しぶりな気がするな。まだ10日くらいしか経ってないのに)


 感傷に浸りつつ、万屋ギルドに登録してからの事を思い出していた。

 その大半が視界の端に映っていた巨峰連山と、追加の超巨峰連山だったのは。

 この男ならではのお約束だろう。

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