第368話 捜査会議


 冒険者ギルドの応接室では、ギルドマスターのアントニウスが頭を抱えて書類を見入っていた。


「これはクロだな」

 この言葉に返事はない。

 状況証拠だけだがクロだと確信したから、アントニウスに書類をまわしたからだ。



 彼の前に立つのはAランク冒険者であるハルマ、テリー、そして普段は王弟アリステア・ハミルトン公の護衛をしているカイオス・タイラーだ。


 その書類はエリーの周りをうろつくうろつくコナーの実績と金の動き、目撃証言などを取りまとめた資料だった。

 その中にその犠牲者になったと思われる冒険者とエリーの資料もあった。


 どの被害者も家族が側にいない。

 ソロ活動、または決まったパーティーメンバーがいない。

 それなりの収入がある。

 このような共通点があった。



「今現在狙われている子がいます。

 俺の妹分なんです」

「Dランク冒険者のエリー・トールセンだ。

 彼女にスリの冤罪をなすり付けようとして、服のポケットに魔石を忍び込ませている」


「やり方が悪辣あくらつだな。

 魔法学校の生徒なら有罪とみなされたら退学だ。

 訴えられたくなければいうことを聞けと脅すつもりなんだろう」

 ハルマとケリーとアントニウスの言葉にカイオスが続いた。


「次期近習であるリカルド卿の依頼でなければ動くつもりはなかったが、かなり切迫した状況だな

 だがあのお方が、この少女を保護してくれるそうだ」

 そう言いながらカイオスは、狙われているエリーの情報をつぶさに読んでいた。



「次期近習様が守ってくれるなら、エリーちゃんはとりあえずは安心ですね。

 それにしてもコナーのヤツ、ヴェルシアの罪の印を恐れないのか?」

「子どもの頃に盗みをやってついているんじゃねーか?

 印があっても子どもの時のものだと言い張るつもりなんだろう。

 Sランク冒険者にでもならない限り、精細なスキル鑑定はしないからな」


 ハルマとテリーとアントニウスがコナーの金の動きから、余罪を追及し始めていた。


「それにしても、この納品おかしいな。

 Bランク討伐推奨のエアレーを3頭だと? 1頭でもおかしいのに。

 ソロのCランクでこんな強い魔獣を納品ができると思えない」

「同じダンジョンで同時期にBランク冒険者の行方不明が出ている。怪しいな」

「能力を偽っている可能性もありますね」


「エアレーはヤギ系だから群れで襲ってきたんだろう。

 それをトレインして押し付けたんじゃないか?

 トレインをうまく誘導するには能力もないとできないしな。

 押し付けられた方は必死で戦って死にその財産ごとすっかりいただいたんだろう。

 調べられるとマズい何かがあったのか、この時は死亡者のギルドカードを持ち込んではいない」


「遺体に証拠を残したんじゃないですか? 

 死んですぐだと遺体を回収できますから」

「だがこういう奴らはお宝を売りさばく裏ルートに通じてるもんだ。

 なぜそこで売らなかった?」

「手数料が高かったんじゃねーか? 裏の奴らは足元見るからな」



 カイオスは手元の資料を見ながら、立件するには証拠が乏しいと感じた。


「とにかく今のところ証言があるのは、正規に死亡者のギルドカードを届けた場合だけなんだな」

「そうです。余罪はどっさりありそうですが、状況証拠にすぎません」

「ならば証拠がいる」


 するとアントニウスが提案した。

「エリー・トールセンにおとりを頼んだらどうか? 

 彼女は誘拐犯討伐もやっている勇敢な少女だ」

「「「反対だ(です)」」」

 残りの3人が声を揃えて叫んだ。



「エリーちゃんはこの間父親を亡くしたばっかりなんですよ!

 ただでさえ大変なのに巻き込まないでください」

「それにあの水虫パッドの製作者だぞ。冒険者の女神じゃないか!」

「ああ、あれはこの子が作ったのか、騎士にとっても女神だな」


 アントニウスは反論した。

「でも彼女は囮に最適なんだ。

 あのティーカップ・テディベアをテイムしていて、金があるってみんな知っているからな」


「ティーカップ・テディベアは『常闇の炎』から借りているそうですよ」

「何のために? 愛玩従魔だろ?」


「あの愛くるしさでかなり強いですよ。

 結構好戦的なので、滅多のことを言うと蹴られますよ、テリーさん。

 あれはあそこのクランマスターがエリーちゃんのことを気に入っている証拠だと思います。

 エリーちゃんの話では、将来クランを支える人材になってほしいって言われてるそうですよ。

 あんまり勝手なことをすると『常闇の炎』が出張ってきますよ」


「ビリーは話が分かる奴だぞ」


「何言ってんだ。アントニー。

 あのエリーって子を監禁したから、ビリーアイツにギルド内をぐっちゃぐちゃにされたって聞いたぞ」


「人聞きの悪いことを言うな、テリー。

 それに監禁じゃない。保護だ保護。

 それにぐちゃぐちゃになったのはアイツがギルド内で転移するから」

「ああ、空間魔法を使われて、全部浮き上がったのか」

「何か壊れていたら弁償させようと思ったら物は壊れてないんだ。

 片付けが大変だったがな」


「クララ・ルザインが『アントニウスさまがエリーの言う通りご連絡下されば、転移などする必要がなかったんです』って言ってたぞ」

「案外『常闇の炎』と仲がいいな。テリー?」

「クララはいい女だ。貴族にしておくのがもったいない」



 カイオスはため息をついた。

「お前ら、話がそれ過ぎだ。

 それで提案なのだが、俺のところで面倒を見ている子供がいる。

 まだEランクだが頭が良くて目端もきく。

 アイツをコナーに近づけてはどうだろう」


「それではその子が危険ですよ、カイオスさん」

「これまでの手口から見てヤツはダンジョンでかたをつけるだろう。

 常習犯は手口をコロコロ変えはしない。

 ヤツがダンジョンへ行くときにこっそりついていくんだ。

 それで手を下そうとしたところを現行犯で捕まえる」


「その役は俺がやります」

「いや、ハルマ。お前はコナーと顔見知りなんだろ? テリーもだ。

 ダンジョンの番人さえ、入るときに静かにしてくれさえいればバレることはない」



 アントニウスが補足説明に入った。

「カイオスには、隠密ステルススキルがあるからな」

「ステルススキル? 俺もほしいです」

「すまん、もう閉鎖されたダンジョンで獲ったスキルスクロールで取れたんだ。

 こればっかりは取得方法がわからん」

「はぁ、やっぱ攻略いくしかないっすね」

「今、相棒が妊娠中なんだってな」

「そうなんです。なかなか新しいパーティーを組めなくて……」


 ハルマとカイオスの会話にテリーが割り込んで、ハルマと肩を組んだ。

「『カナンの慈雨』に来いよ、ハルマ」

「テリーさんところの女子、誘ってくる子が多いから面倒なんですよ」

「ああ、それは……スマン」

「なるほど、それは嫁が大事なら勧められんな」



 また話が脱線し始めたので、今度はアントニウスが引き戻した。

「それじゃあ、カイオスの案に乗ることにしよう。

 それでその子供はなんて名前なんだ?」

「ルカという。テイマーだ」

「ああ、時々一緒に教会ダンジョンを潜っている地味な子な」

「それだ」



 話し合いが一応済んだが、3人はそのままコナーの余罪を発見できないか調査することになり、カイオスだけ先に冒険者ギルドを出た。


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会話わかりにくくてすみません。

そのヒトだとわからないといけない時は、前後に名前を入れたり、呼びかけています。

1人敬語を使っているのはハルマで16歳です。

異例の大出世です。異世界転生チートです。

カイオス50歳、アントニウス40代後半、テリー40歳前後です。



このバルティス王国には12人のAランク冒険者がいます。

そのうち王都8人。

ビリー、ルード、ジャッコ、ビアンカ、フィレスの『常闇の炎』の魔族5人。

カイオス、テリー、ハルマの平民出身で3人。


残りはセードンのセイラムとラリサ、エリーの母さんのマリア(今は唐国)。

あと一人います。それで計12人。

アントニウスもだったんですが、今は引退しているので抜いてあります。



テリーとクララが話をするのは、対外的な活動窓口のクララが、大手クランが王都の警邏の依頼を受けている関係でいろいろ連絡する必要があるからです。


エアレーは回転する角を武器にする馬ほどの大きさで象のしっぽと猪のあごと牙を持つ四足獣です。

ヘブライ語の『ヤエル(野生のヤギ)』から名前がとられたという説があります。


トレインとはモンスタートレインのこと。

エアレーのトレインに出会ったら、踏みつぶされます。


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