第348話 バーチャルリアリティ
「これは俺の想像でしかないけど、聖女がプレイしてたのはR18のVR。
つまりバーチャルリアリティだったんじゃないかな」
バーチャルリアリティ?
VRって前にトラウトさんと言ってたゲームの話だよね。
情報がいっぱいで子どもだとできないって言ってたやつ。
「仮想現実って言ってもわかんないよな。
ほらエリーちゃんは今ここで俺と話しているだろ。
でもその目の前の現実とは違う現実を体験することなんだ」
さっぱりわからない。
「じゃあこれはどうだ。
モカちゃんは今俺たちの目の前にいる。
だけど夢の中でフィギュアスケートを滑っている。
その夢があたかも現実のように滑ったって感じているってこと。
これならわかる?」
夢を現実のように感じる……。
そうだ、ルシィが生まれた時のシーラちゃんの夢がそんな感じがした。
ベッドにいるはずなのに、まるで本当にシークレットガーデンのシーラちゃんの木の側にいたような気がしたんだ。
私が頷くと、ハルマさんはホッとしたようだった。
「これ大前提だからさ、これがわからないと話が進まないんだよ。
俺たちの世界では、生体コンピュータ、人間の遺伝子の一部に半導体を組み込むことに成功したんだ」
全然わからない。
「わからなくていい。
開発されたのはずいぶんと前の話だし、俺も実際どうなっているのかよくわかってないから。
とにかく夢のようなことが現実に感じられるような仕組みを作り出すことに成功したんだ。
ただ刺激が強いから15歳以上じゃないと生体コンピュータは起動できないことになっていて、R18だと18歳以上じゃないと体験できない仕組みだ」
その生体コンピュータとやらは、本来脳から送られる命令が届かなくて動かなくなった手足に、命令を伝えられるようにするために開発されたものだった。
ケアリー先生が魔道具の義手を使えないのを使えるみたいな感じかな。
元々体質で金属などが使えない人(あれるぎーっていうそうだ)のために、遺伝子という体の一部を使うことにしたんだって。
それに成功したら、今度はタブレットのような端末を持たずに正確な情報を瞬時に得るものに変わっていったそうだ。
いつでもどこでも使えるし、重い荷物を持つことも、故障の心配もない。
他にもハッキングという情報を泥棒できなくなるなどの利点が多くあったため、世界中に広まっていたのだという。
一部、体に合わない人や自分の感性を大事にする芸術家などを除いてはほとんどやっていたそうだ。
これ以上のことも話してくれたが私では理解することが出来なかった。
というか今もわかったような、わかっていないような、あいまいな感じだ。
「俺が思うにその聖女はVRで乙女ゲームをやってたんじゃないかな?
だからさも現実のように感じるけれど、これはVRだからある程度傍若無人にふるまってもすぐにシナリオ通りに行くはずと思っているんだ。
例えばこのお皿を割っても、リセットすれば戻ってくるみたいにね」
リセットとは、ゲームを遊んでいても気に入らないことがあれば、全部取り消して初めからプレイできることらしい。
何度でもできるので、多少無茶なことをする人はいるんだって。
「……リセットボタンはないって言ってました」
「うん、だよな。転生してしばらくは俺も探した。
その子は見えるのかどうか知らないけど、俺にはステータスが見えなかったから数年で諦めたけどね。
最後に15歳のときにもやってみたけどダメだった」
自嘲気味に笑ってらしたが、その姿は当時とても苦しんだことが察せられた。
「でも現実のように感じるってことは、遊びと現実の境目があいまいってことになりませんか?」
「うん。だからリアルなものほど、これはフィクション、ええと作り話だと警告が入るんだ。
例えば『この後、刺激的なシーンに入ります。プレイを続けますか?』とか、『このシーンはスキップできます』とかね。
あと、連続してプレイできないように時間制限が決められてるんだ。
いくら現実みたいだとはいえ、プツプツ切れたらおかしいだろ」
なるほど……、それが今のまどかさんにも出ていたらゲームの世界だって思うかもしれない。
「そのバーチャルなんとかってさ。
話を聞いていたら、なんだか魔獣の共通意識に似ているね。
1匹に起きたことが、群全体が同じように感じるみたいにさ」
ドラゴ君のいう共通意識は、先日のセルキーのみなさまとのやり取りのことだろう。
私と出会ったセルキーは、エヴァン様とパール様とお付きのお二人だけだ。
でも群のみなさまは実際に私と出会ったかのように受け入れてくださったのだ。
「ああ、それはもしかしたら禁止事項かも。
昔はレイドで世界中のプレイヤーが1つのゲームのイベントを同時にやって強すぎるボスキャラを攻略してたんだ。
でも大勢が1度に同じVRを共有する手法で、大勢を洗脳するのが簡単にできてしまうからさ。
だから悪用しないようにVRのソフトを作る会社は、ものすごくチェックされるし、大変なんだよ。
モカちゃんのおじいさんの会社がたしかそうだったよ。
俺、株主だったんだ。みんなで共同で買うやつ程度だけどな」
その話をハルマさんがすると、モカはエッヘンと胸を張った。
「生体コンピュータの仕組みを考えたのは別のヒトなんだけど、おじいさまの会社はいち早く取り入れたIT企業の1つだったの。
おじいさまは、使い方のルールを決める会議のメンバーでもあったんだよ。
新しい仕組みを悪用されないように守ったの」
「それは素晴らしいね、モカ。自慢のおじいさまだね」
私がそう言うとモカはニコニコしていた。
「たしかにカーライル社は世界の頂点に達してもおかしくなかったのに、暴利をむさぼらず、社会貢献をしてたよね」
「うん。おかげでその考えに共感してくれるすごく優秀な人材が集まってたのよ。
あたしも憧れてたけど、優秀な人ばっかでちょっと無理っておじいさまに言われてたの。
でもおにいちゃんは行けそうだったの。
高校をスキップして、9月から海外の大学に進学してカーライル社に入るって。
みんなすごく楽しみにしてたの」
モカが少ししょげていた。
家族の皆さんを思い出して、寂しくなっちゃったんだね。
私はモカを膝の上に乗せて、ギュッと抱きしめた。
「それでモカちゃんはフィギュアスケートしてたの?」
「ううん、フィギュアは趣味。
あたしはおじいさまの所有するお城の庭師になるつもりだったの」
「ああ、雑誌で見た。
もともと本当にイギリスの伯爵だったんだよね」
「うん、昔はその辺りの領主だったそうなの。
でも徐々に領地は減っていって、ひいおじいさまは弁護士さんしてたのよ。
時々一族に好奇心の強い人が出てエジプトに発掘に行ったり、ゴールドラッシュに行ったりとかしてね。
でも失敗してばかりで、借金作ったからなんだって。
だからおじいさまも変な仕事するなってよく怒られたそうなの。
おじいさまがこの仕事で成功するまでは古いお城とお庭を守って、一部を観光客に開放して、田舎で静かに暮らしていたのよ。
湖上の浮島にお城があって、冬場はスケートが出来るの。
その庭がまた素晴らしいんだ。
おばあさまはこの庭が好きだから結婚したのよってよく冗談でおっしゃってたわ
あたしもあの庭が大好きだったの」
そっかー、モカはどうして庭師なのかなって思ってたんだけど、元々やりたい仕事だったんだね。
シークレットガーデンでも楽しそうに庭仕事してるものね。
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当時モカは13歳の中学2年生、ユーダイは高1。
大学受験に失敗した時のために高校に入学してありました。日本の大学には興味がなかったので、受験していません。高校は友達がいますからね。
この話はあくまで異世界ファンタジーです。
こういう話はそんなに出てきません。
作品上の設定ということで、よろしくお願いいたします。
モカやハルマがいた世界は、今の私たちがいる世界よりももっと技術が進行している設定です。
生体コンピュータが可能になっていて、15歳以上で申請して自分の遺伝子に半導体を組み込める仕組みです。
自分の遺伝子なので拒否反応もほぼないですが、まれにあります。
できた当初は20歳以上しかダメだったんですが、安全性が認められ低年齢化していきました。
日本では義務教育である中学卒業資格がいります(これ設定ですからね~)。
自分で思考する訓練が必要だからです。
要は頭の中にパソコンが入るみたいな感じです。
反応速度は今の私たちがパソコンを使うぐらいですが、人によってはめちゃくちゃ早いです。
だから検索もできるし、ゲームもできます。
それでもタブレットやスマホのような外部端末と併用しています。
脳に負担をかけすぎないため、長時間使用しないように制限がかかるからです。
外では生体コンピュータ、家に帰ったら外部端末って感じでしょうか。
モカは友達のお姉さんに、この外部端末に落としたR18のムフフなスチルを見せてもらっていました。
この生体コンピュータでは脳に直接信号が送られるので、本当にリアルなバーチャルリアリティを自由に楽しめる世界になっています。
IT企業とか生体コンピュータについてはちょっと記事を読んだぐらいで、全然詳しくないです。
あくまでも娯楽作品ということで流しておいてください。
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