第317話 モカ、お留守番をする1
あたしモカ。
一応聖獣で転生者だよ。
エリーがみんなを連れてセードンに向かうから、あたしがエマのお守りに残ったの。
もちろんエマはかわいいし、大好きだけど、あたしの目的は別にある。
最推しリカ×サミをじっくり見られる機会を逃してなるものかと立候補したの。
だってミラはアンチBLだから一緒の時は絶対ダメなんだもん。
ルーはエマにべったりで大丈夫だけど、時々ミラになにか報告するから注意しなきゃ。
モリーはやたら治癒魔法使うから、推しの邪魔をしないでそっと見るなんてできない。
とにかくあたしは空気になって、しっかり2人の愛を見届けないといけないんだから!
そのはずだったのに、なぜか今絶賛リカルドの膝の上だ。
もちろん、エマも一緒である。
絵本を読み聞かせてくれるんだって。
それにしてもリカルド、すっごくいい匂いするんだけど!
イケメンはやっぱ匂いもいいよね。
汗臭いとか全然ない。
乙女ゲーム、最高‼
「どれどれ、この絵本を読めばいいのかい?」
「おねぎゃい、おにいちゃま」
エマがリカルドに手渡したのはエリーが書いた絵本だ。
「ピーチタロー。不思議なタイトルだね」
何を隠そうそれはあたしがエリーに話した桃太郎をベースにした物語だ。
「昔々、あるところにエリーとエマが小さな小屋で仲良く暮らしていました。
エマはお部屋でお絵描きを、エリーは川へ洗濯に行きました……」
エリーが川で洗濯していると上流から見たこともないくらい大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
エリーはすかさず川から桃を拾い上げました。
「あら、おいしそうな桃だわ。エマにおいしいお菓子を作ってあげましょう」
エリーは桃を持ち帰り、エマと一緒に甘い匂いのする桃を台所でスパッと切ると、中から銀色のカーバンクルが出てきました。
カーバンクルは宙がえりをすると、小さな男の子になりました。
「ぼくドラゴ。悪魔を退治するためにやってきたの」
エリーとエマはとってもかわいいドラゴが気に入り一緒に暮らすことになりました。
2人と1匹はすっかり仲良くなりましたが、ドラゴは悪魔を退治して、宝物を取ってくると聞きません。
エリーはドラゴが戦いに行くのが嫌でしたが、いくら説得してもドラゴの気持ちは変わりませんでした。
それで出来るだけ安全になるよう装備を錬金術でこしらえました。
それからお弁当に元気がいっぱいになる付与をつけたナッツクッキーをたくさん持たせました。
もちろん、各種ポーションもたくさんつけました。
「ぼく、けがしてもすぐ治るからポーションいらない」
「ダメよ。ドラゴ君がいらなくても、襲われてケガしたヒトがいるかもしれないでしょ。とにかく心配だからもってって」
そんなやりとりもありましたが、ドラゴはエリーとエマに見送られながら悪魔退治に出発して行きました。
ドラゴがしばらく行くと、小さなケット・シーに出会いました。
黒い毛皮に足先が白い緑の瞳のかわいい子です。
でもなんだか元気がないのでドラゴは声をかけました。
「ぼく、ドラゴ。どうして元気がないの?」
「あたち、ミラ。足がとってもいたいの」
ドラゴがミラの前足を見てみると、ミラの足にはとげが刺さっていました。
ドラゴはそっとそのとげを抜いて、エリーからもらった怪我が治るポーションを掛けました。
するとミラの足はみるみるよくなりました。
「ドラゴおにーさま、ありがとうなの。おれいにミラもついていくの」
「うん、いいよ。一緒に行こう」
ドラゴはエリーにもらった羽の装備をミラに渡すとミラはパタパタと羽をはためかせました。
ドラゴとミラがしばらく行くと、今度はしょんぼりと寂しそうな、とってもちいさなスライムがいました。
「ぼく、ドラゴ。どうして元気がないの?」
(モリーと申します。仲間とはぐれてずっとひとりぼっちで寂しいのです)
「ならぼくらについてくる? ミラもいいよね」
「モリー、仲よくしようなの。よろしくなの」
(ありがとうございます。よろしくおねがいします)
ドラゴがエリーにもらった指輪の装備をモリーに手渡すと、モリーは体全体にそれを嵌めてキラキラと輝きました。
ドラゴとミラとモリーがしばらく行くと、今度はちいさな白い赤ちゃんセルキーがいました。
赤ちゃんセルキーはジッと3匹を黒目がちの瞳で見つめました。
見つめられた3匹はギュンかわいいと胸がときめきました。
「ミラ、モリー、どうする?」
「ほっとけないの」
モリーも同じ気持ちだったのか、フルフルと大きく揺れます。
「じゃあ、連れて行こうか。名前なんていうの?」
(ルシィでちゅ。よろしくでちゅ)
ドラゴがエリーにもらった兜の装備をルシィにかぶせると、兜は小さくなって赤ちゃんの頭にピッタリの大きさになりました。
錬金術すごいです。
ドラゴとミラとモリーとルシィがしばらく行くと、森の奥からフハハハハ、フハハハハハと不敵な笑い声が聞こえてきました。
「とうとう悪魔があらわれた。みんな気を引き締めて退治するよ」
「「「おー!」」」
気合十分の4匹が茂みをかき分けると、そこには小さなクマが腹を抱えて笑っていました。
「ぼく、ドラゴ。どうして笑っているの?」
「あたし、フハハ、モカよ」
「フハハモカ?」
「フハハ、モカだけ!」
「それでフハハモカがどうしたのさ」
「笑い茸食べちゃって、フハハ、笑いがとまらなくフハ、なっちゃったの」
どうやらこのクマはフハハモカではなく、フハハが笑い声でモカが名前だとわかりました。
そしてこの笑い声が悪魔の正体だったのです。
それでドラゴはエリーからもらった解毒ポーションをモカに掛けました。
するとモカは笑うのを止め、落ち着きました。
「なんで笑い茸なんて食べたのさ」
「あたし、ずっと食べるものがなくて、お腹がすきすぎてつい食べちゃったの」
「そういえば、そろそろお昼だよね。エリーが作ってくれたお弁当があるからみんなで食べよう」
「「「「さんせーい」」」」
ドラゴはお弁当のナッツクッキーをみんなに分けました。
ナッツには甘い蜂蜜の飴が絡まっていて、その下にアーモンドの粉で焼いた甘いクッキー生地がサクッとしていてそれはそれはおいしいフロランタンでした。
みんなは付与のおかげもあり、食べて元気いっぱいになりました。
「ぼく、本当は悪魔退治に来たんだけど、モカの笑い声もおさまったし、退治するものがなくなっちゃった。
もうお家に帰ろうかな。みんなも来る?」
「「「「行く!」」」」
ドラゴはエリーにもらった鎧をモカにあげようとしましたが、
「あたし、鎧よりその腰のベルトのほうがいいわ」
モカがベルトを受け取ると、ピシリピシリと鞭のようにしならせました。
どうやらモカは乱暴者のようです。
元気いっぱいになった5匹がエリーとエマの家につくと、ちょうどおやつの時間でした。
「あら、ドラゴ君。おかえりなさい」
「おきゃえりー」
「ただいま、エリー、エマ。ぼく、友達連れてきたんだけどいいかな」
「もちろんいいわよ。今ピーチタルトが焼きあがったところなの。
みんなで食べましょう」
「あのね、ぼく悪魔を退治に行ったんだけど、悪魔はいなかったの。
だから宝物ももらえなかったんだ」
「あら、こんな素敵なお友達を連れてきてくれたんだもの。最高の宝物よ!」
「みんな、エマのおとみょだちににゃってくれりゅ?」
「「「「「もちろん」」」」」
「みんなでピーチタルト食べて、いっぱい遊んで疲れて一緒に眠りました。
それからエリーとエマの家にはかわいい5匹の家族が増えて末永く幸せに暮らしましたとさ。おしまい。
なかなかおもしろい絵本だったね、エマ」
リカルドが膝の上のエマに呼びかけたがエマは幸せそうにお昼寝していた。
「さぁ、モカ君もおいで。ベッドでおやすみ」
リカルドがあたしとエマをベッドまで運んでくれる。
あたしはまだ眠くなかったけど、リカルドの手が目に覆いかぶさると温かくて気持ちがいい。
まぁいいや、観察はまだ夜もあるもの。
それにしてもあたしが乱暴者って何よ!
絵本のタイトルピーチタローのタローもなかったわ。
改変の余地ありね。
そこまで考えたところでふぅっと眠気が襲ってきた。
とりあえず、おやすみなさい……。
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これSS置き場でもよさそうな内容ですが本編にかかわってきます。
少しだけ記憶の片隅に残しておいていただけると種明かしの時にあったなって思うと思います。
BLはボーイスラブの略称です。
今後腐女子とか多少の用語が出てきますが、ググっていただけると幸いです。
内容的にボーイスラブを書くことはありません。
腐女子目線で勝手に妄想しかける程度です。
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