第313話 呼び出し


 私が不安そうな顔でもしていたのだろうか?

 ソフィアはニコニコして私の頭をよしよしという感じで撫でてきた。

 私の背が伸びないせいか、ソフィアは私の頭を撫でるのが好きなのだ。


「わたくしなら大丈夫。それよりエリーにお願いがあるの」

「いいよ。私にできることなら」

「わたくしのダンスのドレスを作ってほしいの。

 シリウス殿下の了解も得てあるわ。

公的な舞踏会ではないから、好きなドレスメーカーに作ってもらって構わないって」


「そんなことなら任せておいて」

「シリウス殿下のご希望で色は青でお願いしたいの。この宝石で染めてほしいって」

「ラピスラズリね」

「シリウス殿下はこの色がお好きらしいわ」



 なるほど、それはちょっと難問だ。

 ラピスラズリは鉱物だから粉にできても水に溶けない。

 似た色に染めることは可能だけれど、わざわざ指定がしてきたってことはそれではダメだということだ。


 ソフィアやクライン様の話しぶりから、そう甘いお方ではないはずだ。

 魔力で石から色を抜き出すことは出来るけど、それを定着させるには特別な布が必要になる。

 私がしばらく考え込んでしまったのをソフィアは不安そうに見つめていた。



「ソフィア、このドレスお金すごくかかるよ。予算大丈夫?」

「まぁそうなの? でもシリウス殿下に失礼があってはいけないし……。

 どのくらいなの?」

「冒険者にレインボースパイダーの糸を1反分採取してもらわないといけないの。

 レインボースパイダーを殺さず大量の糸を取るためにはかなりの実力者を雇わないといけないし……」


 もしかしたらクランには糸があるかもしれない。

 私の手芸の神的存在であるターシャさんが時々レインボースパイダーの糸で刺繍をされているから。

 でもあったとしてもどのくらいの量でいくらで売ってくれるかわからない。

 それになければ採取に行ってもらわないといけない。

 私にはレインボースパイダーの生息地にすら行く能力がないもの。



「とにかく私じゃ見積もりが出せないから少し待っててくれる?」

「わかったわ。その……難しいようならそう言ってね」

「それじゃあドレスがないじゃない」


「最初はシリウス殿下がドレスをプレゼントしてくださるっておっしゃったの。

 でもわたくし男性からのドレスは受け取らないようにしているの。

 殿下方とは結婚が許されているといっても、必ずするとは決まっていないのに婚約者のような扱いは許されないと思うから。

 でもエリーが出来なかったら他も難しいでしょ」



 なるほどそう言われるのがわかっているから、難題を吹っかけてきたわけか。

 私が断ったらソフィアはシリウス殿下のプレゼントを受けるしかない。

 なんかヤな感じだな。


「なるたけ頑張るよ。私には相談できる人もたくさんいるし」

「ありがとう、エリー」

「それよりお土産食べようよ。

 さぁルー、おやつ食べるからこっちにいらっしゃい」

「きゅ!」


 ああ、やっと戻ってきた。

 こいつめ! っと思ってルシィの体をギュッと掴んだのに、ルシィは気持ちよかったのか喉をゴロゴロ鳴らしてご機嫌になった。

 私、セイラムさんの言う通り、あんまりしつけができてないかも……。



 そう思っていたらミランダが目を尖らせてルシィを見ていた。

 ドラゴ君もミラに任せときなよって目配せしてきたので、ちょっと注意するくらいでいいからとお願いすることにした。


 ミランダが座っている椅子にルシィをのせると、ビシッと前足をルシィの体に当てて威圧しまくっていた。

(おかーさん ミラがシメとくの)

 シメるっていまいち意味が分かってないんだけど、お仕置きすることなのかなって思ってる。


 時々私に嫌味を言う子たちに対してモカが、「アイツら、シメる!」って怒り出すから。

 もちろん、そんなことはさせない。

 魔獣が人間を攻撃したら、私がモカを罰しないといけないから。

 場合によっては殺せって言われるかもしれない。

 嫌味やいじめは耐えられるけど、モカやみんながいなくなるのは耐えられない。



 私がルシィにお胸のことで怒るのは、セクハラ(モカ用語)だからだ。

 特にソフィアは最近大きくなったお胸のことを悩んでいる。

 王宮が作ってくれるドレスはお胸の豊かさを強調するように作られていて、男性の目線がそこに集まるのが嫌なのだ。


 その裁縫師さんの意図はわかる。

 胸を強調すればウエストがよりほっそりとスタイルがよく見えるからだ。

 ソフィアはまだ12歳でコルセットをつけていないから、大人と同じデザインにするにはその方法が適している。


 ソフィアが私のドレスを好きになってくれたのはウエストを細く見せようとしていないので、胸元を強調しすぎないからだと思う。

 私が目指しているのはソフィアのしとやかさや優美さをあらわすようなドレスだ。

 ただ今回はシリウス殿下と踊るので、今の流行に沿ったドレスの方がいいだろう。



 そんなことを考えながらソフィアとお互いの近況やセードンでのことについて話していたら、部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

「ソフィア様、新司教様がお呼びです」

「わかりました。お客様はわたくしがお連れします」

 伝言に来てくれた尼僧は下がっていき、ソフィアが立ち上がった。


「お仕事なんだね。私たちはそろそろ帰るよ」

「いいえ、司教様はあなたに用事があるのよ」


 私に? どうして?


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ちなみにエリーがお胸といっているのは、おっぱいのことです。

胸はその部分のことですので誤用ではないです。

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