第275話 ユリウスの行方


 翌日、ギルドに報酬と攻略証明書を受け取りにいったら、あのパーティーの女性と出会った。


「ちょっとあんた、話があるの。ついてきて」

 会うなり突然腕を掴まれて引っ張られたので、私は抵抗した。


「や、やめてください。離して!」

「セーナ、嫌がってるじゃない。やめてあげなさいよ」

 ギルドの窓口のお姉さんが口添えしてくれたが、セーナと呼ばれた女性は無理やり引きずっていこうとした。



 するとドラゴ君が彼女の手に魔法で氷のつぶてを当てた。

「痛っ!」

「次やったら腕を落とす。これは警告だ」


 ドラゴ君本気だ。

 でもお願い、この程度で腕は落とさないでください。



「別に話を聞くだけだから。ついてきてくれたっていいじゃない」

「理由もなく知らないヒトについていきません。しかも無理やりだし。

 あなたのお兄さんはお気の毒ですが私は何もお役に立てません」

「兄の件はギルマスが動いてくれたからいいのよ。

 そうじゃなく、どうやってギルマスを動かしたのかってことよ」

「その方法はあなたとは何の関係もないと思います」



 するとずいぶんご無沙汰していた、もう会いたくなかった人から声がかかった。

「ニールのエリーさん。久しぶりですね」

「あなたは……ビューラムさん」

 あのローザリア嬢の執事だった。


「お嬢様はこの件に大変関心を寄せられていて、あなたから話を聞きたいとおっしゃっています。ついてきてくれますね」

「お断りします。

 あの方が私に何をしたのかは覚えていらっしゃるでしょう?

 危害を加えられるとわかっていてついていくわけがありません」


「そのようなことは起こらないようにいたします。

 それに侯爵家の命に逆らうというのですか?」

「私を馬車から追い出した上に、そのあとも執拗にいたずらしたり、攻撃したりされて、そのたびに起こらないようにしますっておっしゃっていましたね。

 信じることは出来ません。もう放っておいてください」



 するとさらに別の声が会話に入ってきた。

「ビューラム殿、その件は俺の主が関わっています」

「ダイナー様……」

 どうしてダイナー様がここに?


「昨日ギルドマスターに依頼した件の報告がまだだったので直接聞きに来たのだ。

 まさかビューラム殿ほどのお方がこのような騒ぎを起こされるとは、ただただ残念でなりません」

「私は……、昔はともかく今は主の命に従うただの執事ですから」

そういえばビューラムさんは昔高潔な騎士だったって、クララさんが言ってたっけ。


「とにかく現在トールセンはディアーナ殿下の預かりの元、我が主が保護下に置いておられます。

 ミューレン侯爵令嬢はディアーナ殿下から許可を得られない限り、トールセンがそちらに出向くことはありません」

「ではこの件はクライン伯爵令息がなされたとおっしゃるのですね」

「そうです。何か問題でも?」



 ビューラムさんを見据えていたダイナー様はこちらを向いて、

「行こう、トールセン」

「はい」

 証明書だけでも受け取りたかったが、この場は今すぐ引くのが得策だ。

 もうローザリア嬢絡みで私の周りにうろつかないでほしい。


 それにしてもジョシュはどうやってクライン様を動かしたのだろう?



 そのままの勢いで冒険者ギルドを出て私はダイナー様についていった。

 ダイナー様は徒歩だった。

 前にダイナー様は雨の日以外は徒歩か馬だってモカが言ってたな。

 こういう細かなところも乙女ゲームの通りなのか。



「このままリカルド様のところに行っても?」

「はい、構いません」



 本当はみんなで迎えに行く予定だったがこれは仕方がないだろう。

 ミランダとモリーはクランハウスに残していて、クランの子どもたちと遊んでいる。

 モリーは大きくなってみんなをポヨンポヨンと受け止めるのだが、それが大人気なのだ。

 とっても気持ちがいいので、実は私もお気に入りである。


 二匹にはドラゴ君が心話で状況を伝えて、そのままクランハウスで待ってもらうことにした。




 クライン家の離れに行くと、エマ様のところに案内されず別室でクライン様と話をすることになった。


「エリー君はユリウスについて何か知っているのかい?」

「あの、ほとんど知りません。

 ただクライン様ととても親しくされていると推察しています」


「ああ、魔法陣の名簿のせいか」

「はい、そうです。

 お名前からカーレンリース辺境伯家のご令息かご親戚筋のお方だと存じます。

 私の住んでいたニールはカーレンリース辺境伯領の近くでございました。

 ただどのようなご家族がいらっしゃるかまでは平民に届くことはございませんでした」


 モカの乙女ゲームの話は、本当に正確なのかはまだはっきりしていない。

 クライン様やダイナー様、レオンハルト様やロブはほとんど合ってるけど、違っている部分もあるからだ。



「君の推察通り、ユリウスは辺境伯家の三男坊だ。

 剣聖の称号を持ち、土の精霊の加護も持つ今後わが国の要となる存在だ。

 私とクリスの親友でもある」

 あれっ? ならどうしてグロウブナー様はこの別館に入る許可がないのだろう。


「そのようなお方をなぜローザリア嬢、いえミューレン侯爵令嬢に探されているのですか?」

「ユリウスは絶世の美男で彼女は彼に恋している。

 女性の前で失礼だが私は彼より美しい人間を見たことがない」

 ああ、それはモカの情報通りだ。


「美しさと強さがある上に上位貴族でいらっしゃる。

 ミューレン侯爵令嬢が好みそうなお方ですね」

「その通りだ。だが問題もある。

 ユリウスとミューレン嬢は母親が姉妹、つまりいとこ同士なのだ」

「それでは、結婚ができない間柄ですね」


 4親等までの親族との結婚は主神ヴァルティスの命により、国王が150年前から禁止している。


「その通りだ。

 だが彼女はユリウスに固執し、彼の婚約者候補の女性に危害を加えた」



 いやだ、どんどん乙女ゲームの話に近づいていく。

 でもRPGよりはましだ。

 ましのはずなんだけど、こんなひどい話は嫌だ。


 心臓がどきどきする。落ち着くんだ、私。


 それでも誰かが自分の墓の上を歩いているようなそんな不安が襲ってきた。





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