第273話 2学年1学期ダンジョン攻略①


「順調順調」

 ジョシュは後ろを向いて私たちにニカッと笑顔を見せた。


 ただいま、私はジョシュとドラゴ君、ミランダ、モリーとダンジョンに来ています。



 そして、何にもすることがない。ジョシュ強すぎ!


「ジョシュばっかり戦わせてごめんね」

「いいよ。全然疲れてないし。ドロップ拾ってくれてるでしょ。

 面倒な血抜きも解体も頼めるし。ミラは先導うまいし、僕の邪魔もしないし」

「にゃう!(練習したものー)」


 まぁそうなんだけど。

 ここまで戦闘しないのもなー。

 ジョシュったら、1階層のボスのオークリーダーが咆哮あげる前にもう首を刎ねていたもの。



「ジョシュ、やっぱり強いよね。文官もったいないよ」

「ありがとう。でも文官も向いてないこともないから」


 確かにジョシュは今クラスで3番目に成績がいい。

 ちなみに1番はクライン様、2番は私だ。

 このまま最終学年まで行けば王宮での下級官吏試験も合格するだろう。

 もし貴族の養子になれば上級だってあり得る。


 だから同じ学年の平民女子たちの間で、ジョシュの人気が上がっている。

 将来有望な男の子のお嫁さんになれば、いい暮らしができるからだ。

 これで彼が彼女たちにもうちょっと優しかったら、私は一緒にダンジョンには来れなかっただろう。



「次3階層だね」

「うん、ゴブリンやオークばっかりで飽きたからそろそろ違うの来てほしいな」

「さっきのコボルト中心で来るらしいよ」

 2階層のボスはコボルトリーダーだった。


 実はこのダンジョンは次の階層で出る魔獣がボス戦になっているのだ。

 親切にもほどがある。


「魔法使うやつは?」

「オークメイジがいるみたい」

「了解」



 そして全部あっさりジョシュが倒した。

 ジョシュは魔法も得意だからね。

 2年生は10階層まで行けたらいいって話なんだけど、この調子だと今日中に行けそう。


 なんというかジョシュはのびのびして楽しそうだった。

 魔獣を倒すのが好きというより、自由に剣が振るえることが嬉しいみたいだ。

 結局5階層のボス、オーガも倒してしまった。



「ジョシュ、経験入った?」

「いや、この程度だと入ってない。エリーは?」

「私もない。これでも一応Dランクだからね」

 私はなんにもしてないけど、パーティーを組んでると経験は分け合うことになる。



 経験とはダンジョンや特別な戦いでしかつかない不思議な能力で、たくさん魔獣を倒したり、ボス戦をこなすとスキルや能力がアップするのだ。

 冒険者が一般人よりも強くなるのはこの経験のせいだ。

 騎士学部や魔法士学部がダンジョンに行かされるのはこの経験をつけて、より強くなるためだと思う。

 実は前回のグリムリーパーとの戦いで、少し能力が上がったような気がする。

 あれは特別な戦いとして、神様が認めてくれたんだな。



「とりあえず半分来たし、ご飯にしようよ」

「さっきのオーク、焼いちゃっていい?」

「うん、頼むよ」


 従魔のみんなが私を手伝って調理しているとジョシュが、

「マリウスとアシュリーがこないだのダンジョンの話してくれたんだけどさ、ご飯がまずかったらしいんだ。

 二人ともエリーのお昼ご飯に慣れてるから口が肥えてるんだ。

 次はご飯係にエリー連れていきたいって言ってたよ」

「もれなくかわいい従魔たちがついてきてくれるから枠ないよ」

 でも共闘ならいけるかなぁ。提案してみるか。



 みんなで和やかに笑っていると休憩所に別のパーティーが入ってきた。

 学生ではなく若手の冒険者たちだ。

 3人で男女入り混じっている。幼馴染パーティーって感じ。


「あれっ? お前ら俺らの後に入ったパーティーじゃねーか」

「お疲れ様です」


 私は一応頭を下げておいた。

 どういう人たちかわからないからだ。

 昔は冒険者同士で敬語で話すと舐められるみたいに言われていたけど、今はそうではない。

 弱そうな汚いなりをしている人が実は貴族だったとか、能力を隠蔽している強い冒険者だったとかよくある話なのだ。


 

「男3人と従魔か。2人はちび助じゃねーか」

 あっ私、男でちび助に数えられちゃった。

 まぁ、いいか。その方が安全。


「僕たち学生なんです」

 ジョシュはこの一言で相手に牽制していた。


 この教会ダンジョンは一般の冒険者も入れるけれど、学生の育成のためのダンジョンでもある。そのため冒険者は学生に手を出すことを禁じられている。

 冒険者の脅しで優秀な学生がドロップアウトしてはならないからだ。

 もちろん彼らもそのことはわかっているようだが、女の人が私たちにすごくしゃべりかけてきた。



「ねぇねぇ、あんたたちどこの学校?」

「エヴァンズですけど」

「そこにさ、ユリウスっていう子いる?」

「……いえ、エリー知ってる?」

「同じの学年にはいないです」

「いくつのヒトなんですか? 違う学年だと僕らにはわからないですよ」

 ジョシュはユリウス様を知らないみたいだ。


「今年11歳らしいわ。剣の達人だそうよ」

「知りませんね」

「ごめんね、ちょっと聞いただけ。

 冒険者ギルドに情報があったら買ってくれるって依頼があったから」

「へぇ、そうなんですね」

「前金2枚で、本当の情報なら8枚追加なの。

 教えてくれたら分け前あげるわ」

「すごいなぁ、結構高いですね。でも本当に知らないんです」



 ジョシュが相手して喋ってくれる間、私は黙々と食事を作った。

 ユリウス様の情報は私にはないけど、たぶんクライン様なら確実に知っている。

 エマ様の別館への入室許可の名簿に入っていたからだ。

 相当親しいお方なんだろう。



「なぁ、そっちのお前」

「えっ? 私ですか?」

「すげーいい匂いしてるんだけど」

「ああ、料理得意なんです」

「ちょっと分けてくれない?」


 こういうのを無償で上げるのはよくない。



「なにか対価くれます?」

「ちぇ、しっかりしてやがるぜ」

 いえいえ、私たちのせいで他のヒトに迷惑掛かるからね。


 学生に食べ物をねだったらタダでくれたなんて噂が広まったら困るもの。


 結局教えてもらったダンジョンの情報は11階層以降のことで、私も知ってることだったけど、知らないふりをしてお肉を少し分けてあげた。

 サッサとどこかに行ってほしかったから。



 私たちの方が先に休んでいたけど、彼らの方が先の順番だったので後から行くことにした。

「また抜きそうな気がする」

「ジョシュ、目を付けられない方がいいよ。奥で黙ってた人、私たちに鑑定までいかないかもしれないけど何か感知スキル使ってた」

「そうだね。ゆっくり行くことにしようか」

「うん、気分良くないからね。何か狙ってるのかもしれない」

「じゃあ、ぼくちょっとだけ仮眠取るよ。夜はエリーたちが寝て」



 私が彼ら、だけじゃなくて他のパーティーと付き合いたくないのはモリーが彼らの来た時にそっと荷物の陰に隠れたからだ。

 モリーはとても賢くて、私を気遣ってくれている。

 ローザリア嬢に知られないよう、私にテイムされてることを親しい人以外には知られないようにいつも他のヒトが来たら隠れてくれるのだ。

 さっきのユリウス様情報を集めてるの、あの方な気がするし。



 それにあの人たちが悪い冒険者なら、モンスタートレインぐらいぶつけてきそうだ。

 モンスタートレインは自分で倒せない魔獣を引き連れて近くにいる冒険者に擦り付けることだ。

 擦り付けられた冒険者が倒しても、パーティーを組んでなければ先に戦っていた冒険者たちに倒した経験が入るのだ。

 この方法を使う冒険者は結構いるらしい。

 褒められた方法ではない。


 だから後から助けに入る前にそれが必要か確認して戦うのがきまりだ。

了解が取れたら共闘になり、経験も分け合える。

 もちろん先のヒトが戦闘不能になっていたら、自動的に経験の権利は移行する。

 通常なら助けてもらった冒険者が擦り付けた冒険者に獲物やドロップ、それに謝礼を差し出す。



 でもさらに質の悪い冒険者だと、自分たちで倒せるモンスタートレインをわざと擦り付けて相手が怪我してから助けに入る。

 そして経験も魔獣もドロップも、もしかしたらさらに謝礼まで取って行こうとするのだ。

 もちろん学生だけでなく誰に対してもそれをするのは禁じられているけど、わざとか、わざとじゃないかなんて判定が難しいもの。



 でも冒険者たちがそういう姑息な裏技を使うのは、やはりこの仕事が命がけで少しでも多くの報酬が欲しいからだ。

 1回の失敗で逃げられたらいいけど、怪我で引退どころか死んでしまうこともよくある。


 母さんやマスターたちみたいにAランクに上がれる人なんてほんの一握りだ。

 平民で戦えるほど魔法が使えるなら、魔法学校に入る。

 それで騎士になれなくても兵になった方が安全に稼げるし、怪我や死亡しても年金や見舞金が付く。


 そう思えばシンディーさんがハルマさんと一緒に戦っているのは、すごいことなのだ。

 あの人の能力なら兵にでも、治療院でもどこでも働けるもの。



 そんなことをつらつら考えながら、私たちは彼らをやり過ごすために時間をつぶしていた。

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