第256話 琴線に触れる
ロブはシーラをテイムした時のことを思い出していた。
その頃、ロブはまだ7歳なったばかりだった。
魔力過多で虚弱体質だったロブに、治癒魔法士が魔獣をテイムして魔力を分け与える方法を勧めていた。
このままでは魔力が暴走し、自分の肉体を傷つけるだけでなく、周囲にも被害が及ぶという。
それで魔獣の卵を買って、魔力と愛情を注ぎこむことで暴走する魔力を抑え込もうというのだ。
1匹目の魔獣はシャドウクロウのロンドだった。
ロンドをテイムして、少し体が楽になったのを感じた。
それで次の卵を買いに魔獣商へ向かったのだった。
そのときのロブについた担当商人がタミルだった。
王都でも有数の魔獣の卵専門業者だ。
しかも父のジェイコブとも仲が良く、ロブはタミルをおっちゃんと呼んで親しんでいた。
1つだけ買う場合は、このタミルのような専門業者から買うか、競りで1つだけ落とせばいい。
ロブはロンドのような小さな魔獣をたくさんテイムするより、もう少し大物をテイムしたかった。
それで、競りに参加して強い卵を買おうと思ったのだ。
タミルは卵の外見を見ただけで、何が生まれるかはわからないがその力を推し量れるスキルを持っていた。
経験で身につく見分けからの成功率が5割以下だとすると、タミルは9割近くあてるのだ。
それを正確にレベル分けして売ることが出来るので、ほかの商人からも信頼されていた。
タミルが競りの卵を見ながら、これは強い、これは弱いと教えてくれる。
「心の琴線に触れる魔獣の卵を買うといいぞ、ロブ」
「きんせんにふれる?」
「簡単に言えばピンとくる相手さ」
それでロブは強い卵を気に入れば買おうとじっとみていたが、なかなかピンと来なかった。
卵の中身が強いだけじゃだめで、ずっと一緒にいるのだから相性も良くないといけないからである。
その卵が運ばれてきたとき、タミルが慌てたように立ち上がった。
「まずい、この卵の入札はやめさせなくては。これはSランク以上の卵だ」
タミルはロブに中座することを詫び、急いで出ていった。
でもそれでは遅かった。
業者が説明をしている間に、卵が孵ってしまったからだ。
初めはみんな小さな白い蛇かと思った。
でも白銀にきらめくうろこに、色の変わる瞳、背中には蝙蝠のような羽。
鑑定できる業者の一人が叫んだ。
「ギーブルだ! 厄災級だぞ!」
客席にいた女の金切り声が響く。
混乱しながらも腕に覚えのあるテイマーたちが、ギーブルをテイムしようとする。
「テイム!」
何人ものテイマーたちが、従属魔法をかけるがその魔力を吸い、ギーブルはさらに大きくなった。
その中に魅了の魔法をかけようとしたものがいた。
するとギーブルは怒り、尾でそのテイマーを叩きのめしていた。
まだ体が小さかったので、殺してはいなかったが相手のテイマーは吹っ飛んだ。
「もう無理だ。逃げよう!」
「助けてー‼」
周りの人々は叫びながら逃げていったが、ロブはそうしなかった。
そのギーブルがあまりにも美しかったからだ。
ピンっとくる魔獣の卵を買うといいとタミルは言った。
そのピンとくる相手が今目の前にいるのだ。
琴線に触れるとはよく言ったものだ。
まさに心が打ち震える相手なのだから。
ロブはそっと席を立ち、ギーブルのいる舞台の方へ歩いて行った。
ロブはギーブルから目をそらさない。
ギーブルもまたロブから目をそらさない。
1メートルまで近づき、ロブはギーブルに声をかけた。
「君、すごくきれいだね。僕の友達になってほしいな」
(友達って? ああ仲がいいことね。うーん、どうしようかしら?)
「ここにいる中で君のことが一番好きなの、きっと僕だよ。
僕の魔力あげるし、5メートルぐらいならおうちにきれいな部屋もあるよ。
僕と一緒の部屋がいいならさっきの小さな体じゃないと困るけど」
(5メートルって? ああそのくらいね。
わたし生まれたばかりだからそこまで大きくならないわ。
ふーん、あなたも私と同じ闇属性なのね。しかも古い魔力だわ。
いいわ、あなたから敵意は感じないし、わたしのことが好きなのも本当ね。
気に入ったわ。わたしもあなたが好き。
ええ、あなたが生きている間側にいてあげる。友達になってもいいわよ)
「テイム。君の名前は……シーラだ」
シーラの体は輝き、尾にロブの印が入った。
ロブはシーラに抱き着き、シーラもロブに巻き付いていた。
静かになった会場に恐る恐る戻ってきた人々は抱き合って笑っているロブとシーラをみて驚愕した。
腕の立つ玄人のテイマーたちが成功しなかったテイムを若干7歳の子供が成功させたからだ。
ロブはその中にタミルの顔を見つけて笑顔で言った。
「おっちゃん、僕に新しい友達が出来たよ!」
それから大商人ディクスンの息子は天才テイマーだという評判が立ち、従魔ギルドでBランクに登録されたのだった。
実際ロブは天才的なテイマーだった。
ロブが語り掛け、手なずけた魔獣は500以上。成功率は100%。
専従のテイマー、サモナーでもそれほどの数を5年でこなすことは難しかった。
それを学業や商売の片手間にやっているのだ。
とても人間業とは思えないと言われたが、やっかみだと思って無視していた。
シャドウクロウのロンドは偵察にすごく役に立ち、テイムしたい魔獣を探し出すのにぴったりだった。
シーラはいつも手に巻き付いて自分の存在を隠蔽し、ロブがテイムしている間に他の魔獣からその身を守った。
ただシーラはロンド以外の魔獣を仲間にすることを許さなかったし、ロンドも手元に置かず必要な時に召喚することになった。
シーラは自分以外の魔獣がロブの側にいることを嫌ったからだ。
他の魔獣にしてみてもギーブルほどの強い魔獣の側では彼女が心を許さない限り、気が休まらなかっただろう。
ロブは自分の成功を闇属性のおかげだと思っていたが、人間の魔力ではなく魔族の魔力だったからなのだと初めて悟った。
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シーラちゃんに友達や5メートルが分かったのは、ロブの頭の中のイメージを読み取ったからです。
100%の成功率なのはテイムをかけた相手はすべてという意味で、その前に逃げられたのは入っていません。
ロブの魔力が強いのもありますが、シーラがいますからね。ほとんどの魔獣が心折れて受け入れてしまうのです。
エリーが以前魔獣の卵は5個買うのが基本と言われていましたが、それはあの市場が玄人向けの市場だったからです。ロブがこの話の中で行ったのは素人も買えるもので、上客だけ担当する業者がついてあれこれ教えているのです。
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