第261話 ロブからの手紙
私はロブからの手紙を開いた。
エリーへ
この手紙を読んでくれてるってことは意識が戻ったんだな。よかった。
俺はお前に謝っても謝り切れないことをした。
シーラがいなくなって混乱していたとはいえ、お前を危険な裏道に連れて行ったことは悔やんでも悔やみきれない。
エリーの苛めは、すべて俺の親父が魔族の子孫だったことから始まったんだ。
去年の春頃、親父の元にある魔族の女がやってきた。
その女は親父の先祖で、親父はそいつに命令されていた。
服従の魔法を使われ、圧倒的な力で聞かねば俺や家族を殺すと言われたそうだ。
そいつが言うには、自分たちの計画を邪魔したある子どもの身柄を引き渡してほしいとのことだった。
ただその子供には常に強い魔獣が側にいて、簡単に手が出せない。
それで自発的に退学して田舎に帰るようにしてほしいとのことだったそうだ。
その子供はもうわかると思うけどエリーのことで、エリーのした邪魔は奴隷売買組織をつぶしたことだった。
初め親父はマルトではなく、ターレンとかいう女教師に頼んだらしい。
夫の女癖が悪くて研究費どころか、爵位を維持するのにも困っていたから簡単になびいたそうだ。
女教師はそれなりにエリーに嫌がらせをしようとしたそうだが、あんまりうまくいってなかったって聞いた。
しかもすぐ再婚して逃げるように学校を辞めたから、それでマルトに頼んだんだ。
マルトも初めは断ってたらしい。
でも親父は、マルトが俺を兄だと知らずに憧れていたのを利用して承知させたんだ。
マルトはエリーがクライン伯爵令息と同じ専攻で気に入られていたことを利用して、貴族令嬢を煽ったそうだ。
令嬢たちはエリーに簡単に突っかかっていったって報告受けたってさ。
それなのに令嬢たちが断罪されて苛めなくなったから、自分でやるしかなくなって周りの友達を操り始めたんだ。
これは俺の想像だけど、マルトは俺よりも魅了のスキルは弱くて愛嬌しかなかったのが常時使っていて魅了にレベルアップしたんだと思う。
それまでちょっと好かれるぐらいだったのが、面白いくらい周りが思い通りに動くからその力に酔ったんだ。
その気持ちは俺もよく知っている。俺も小さいときはそうだったから。
でもしょっちゅう誘拐に遭いそうになったり、いたずらされそうなったりと危ないことも多かった。
それに魔力過多で体の自由が利かなくなっていたから、多少人を動かせても自分が思い通りに動けないことには意味がないと思ったんだ。それでスキルを封じた。
でも危険な目に遭わなかったマルトには止めてくれる人もおらず、やりたい放題だったんだろう。
ドロシーさんの店の使用人やエドセンという子は相当深くかかっていたと聞く。
結局はエリーの知ってる通り、ラリック公爵令嬢に訴えられて今も行方知れずだ。
親父を問いただしてみたんだが、マルトの行方は知らないそうだ。
嘘じゃないと思う。親父は愛する家族には嘘がつけないから。
ただ魔族の女が俺かマルトをくれといったから、娘と認めていないマルトの方を差し出したと言っていた。
ドロシーさんのことは女からあとくされがないように殺したと言われたらしい。
最低だ。許せることではない。
それからは知っての通りだ。
俺とエリーが出会って仲良くなり、噂になった。
親父もまさかターゲットと仲良くなるなんて予想しなかったのだろう。
だから親父は俺たちを引き離すため、国に金を積んで俺を留学させることにしたんだ。
それでも俺がエリーとの付き合いを止めなかったから魔族の女に知られてしまった。
女は俺の命と引き換えにエリーとシーラを引き渡せと言ったそうだ。
それでシーラを黒の魔法士に引き渡したんだ。
エリー、シーラを救ってくれてありがとう。
お前はどんな力のある魔法士にもできないことをしたと思う。
今いる三賢者やクライン伯爵令息、聖女ソフィアにもできないことだ。
クランマスターのビリー様の話によると、
でもお前はシーラを大事に思ってくれていて、シーラを助けたいと心の底から願ってくれたから成功したんだ。
俺があのあとシーラと再びつながっても、全く違和感がなかった。
それはエリーがシーラの存在を認めて愛してくれていたから、できたんだと思う。
どんなに感謝してもしきれない。
シーラをそこまで愛してくれる人はお前しかいないんだ。
だからお前にシーラを託したい。
俺の最も愛する友シーラはエリー、お前に譲る。
俺にはシーラの主たる資格はない。
もともと主って感じじゃなくて対等だったけれど。
従魔契約は解いたけれどシーラは俺を許してくれて、つながっていたいと言ってくれた。
俺たちはまだ友達だから心配しないでくれ。
ただシーラは今限界まで魔力を費やしてしまったので、しばらく眠っていないといけないんだ。
だからエリーの従魔として活躍できるのはずっと先になると思う。
詳しいことはドラゴに聞いてくれ。
あと俺の話だ。
俺は予定通りにロシュフォール公爵令息の従者として、留学する。
これは俺がロバート・ディクスンとしてする最後の仕事だからだ。
初めはロバート・ディクスンのすべてを捨てようと思った。
だがどんなに悪いやつでもあいつはやっぱり俺の親父だ。
俺は親父のしでかしたことを忘れてはならない。
その戒めのためにも名前を残してこの仕事をやり遂げることにした。
これから俺はロブではなく、バート・ディクスンだ。
そして俺は独り立ちして自分の力で生きていく。
エリー、本当にお前にはすまないことをした。
だが許してくれとは言わない。
俺たち家族は許してもらってはいけないほど罪深いから。
俺はもうエリーに会ってはいけないと思っている。
ビリー様は俺たちが魔族に利用されることはもうないと言ってくれたが、魔族の服従でなくても物理的に脅されたら同じことになる可能性が高い。
エリーを俺たちのために危険に晒したくない。
だけど俺はお前のために命を懸けて償いをすると誓う。
もし俺が必要なら、シーラに言ってくれ。
俺はエリーの幸せのためなら何でもする。
こんな結果になってしまったことはつらいけれど、俺は生まれて初めて神に感謝している。
お前と出会えて俺は幸せだ。
名前の通り、エリーは光であり、慈悲なんだ。
お前と共に過ごした時間は短かったけれど、俺の最も幸せな時間だった。
ありがとう、エリー。そして、さようなら。
心からの感謝と愛をこめて
バート・ディクスン
追伸、
手紙を書き終えてからドラゴから万年筆を受け取った。
シーラまでついているなんて最高の万年筆だ。
一生の宝にする。
ありがとう。
涙が止まらなかった。
だってロブは何も悪くないじゃない。
バートのお父さんだって、脅されて仕方なく……でもマルトと彼女のお母さんにしたことはいけないことだと思うけど。
ロブは今ロシュフォール公爵家にいるはず。
会いたかった。
会ってロブが許されなくちゃいけないことなんて何にもなくて、これまで通り一緒にいてと言いたかった。
私が部屋を飛び出して行こうとしたら、廊下にいたマスターに止められた。
「エリー、人生にはこうと決めたことをやり遂げないといけないことがあるんだ。
だから今は見送ってやれ。
だけどお前が心から願っていれば、必ず再会できる。
その時にお前が思っている通りにすればいい。バートはそれを受け入れるだろう」
「でも、でもマスター」
「あいつはお前のために力をつけたいんだよ。親の七光りじゃなく自分の力をな。
だから時間を与えてやれ。それも大事なことだぞ」
「でもマスター、私寂しいです」
マスターはそっと私の肩に手を置いた。
「大丈夫だ、エリー。あいつはまだ12歳だけど、お前のことを忘れたりしない。
これから先、あいつが悪落ちすることはないだろう。お前という光があるのだから」
「私、そんなすごいものじゃないです」
「いいや、お前はすごい。俺でもシーラの魂を救い出せたかわからないからな」
「マスターでも?」
「そうだ。それにお前のことを心配している仲間がいるのを忘れるな。
ドラゴにモカにミランダにモリーだ。シーラも眠っているけど側にいる。
さぁ、涙を拭いてあいつらのところに行ってやれ」
私はみんなのところに行こうとしたが別のことを思い、立ち止まった。
「マスター、私エマ様の家庭教師、やりたいです」
「どうしたんだ? 急に」
「留学生は国賓としていきます。だから王宮で壮行会を行うんです。
クライン様も出席されます。私、どうしてもロブを見送りたいんです」
「わかった。許可しよう」
「ありがとうございます」
私は部屋に戻ってみんなに会いたいと心の中で呼んだ。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ディクスンパパのジェイコブは奴隷売買やドロシー殺害には関わっていません。
犯罪行為にかかわることはヴェルシアの裁定で罪の印がついてしまうからです。
ジェイコブのパパがディックさんで、ジェイコブが王都で成功して一代限りの騎士爵をもらってて、その苗字をバートは引き継いでいます。
騎士や貴族の息子だと貴族扱いになりますが、商人でも貴族扱いされていいんだけど世間が失笑するのがわかっているので、大体は平民扱いされることを望みます。
ロブがそんな立場で国賓として留学するのは結構つらいことです。
書いてなくてすみません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。